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事例:D-60

製造段階でのバッテリ端子プラス側の加工不良について

【整備車両】 
  DT230 (4TP) 4TP2 ランツァ  推定年式:1998年  参考走行距離: ― km
【不具合の状態】 
  新品のバッテリ端子プラス側の穴がずれていてそのままでは取り付け不能な状態でした.
【点検結果】 
 この車両は5年以上乗らずに保管されているうちにエンジンがかからなくなり,お客様のご依頼によりメガスピードにて再生を承ったものです.今回の事例ではバッテリについて取り上げます.

図1.1 完全に放電しているバッテリ
 図1.1は長期間車両に取り付けられたままのバッテリの様子です.端子がかなり錆びていることが分かります.電圧もほぼ0Vであり,セルモータを回す余力などどこにもない為,交換することになりました.


【整備内容】
 お客様にウェブで手配していただき,当社に送られてきた新品バッテリを取り付けました.

図2.1 新品のバッテリ端子プラス側
 図2.1は新品のバッテリ端子プラス側の様子です.プラス側だけに注目すれば何も問題ないように見えますが,マイナス側と比べると相対的に穴の中心が下側にあります.この場合,
➀ 基準からプラスとマイナス両方穴の位置がずれている
② プラスあるいはマイナス側のどちらかがずれている
の2つが考えられます.
結果としてはマイナス側は車体からの端子と問題なく接続できるのに対し,プラス側が車体側の端子とかなり位置ズレが発生していました.

図2.2 穴の中心のずれているプラス側端子
 図2.2はバッテリプラス側端子に車体側のプラス端子を重ねた様子です.赤色矢印で示した範囲がずれの発生している範囲です.バッテリ側の穴の中心がかなり下にずれている為,まったくボルトが穴を通らず取り付けられない状態でした.この様な商品が送られてくれば加工するしかなく,一般ユーザーは頭を抱え,出先でのバッテリ上がり対策等の即効性が求められる場合には役に立ちません.

図2.3 加工したプラス端子
 図2.3はルーターを使用して穴の上側のみ広げた様子です.ドリルを使用して穴を拡大した場合,穴全体が大きくなり端子側面までの肉が薄くなり強度が確保できない為,位置がずれている部分のみ削りました.

図2.4 ねじ径の確保された端子穴
 図2.4は加工したバッテリ端子に車体プラス側端子を合わせた様子です.ねじ径が確保できたことにより正確に取り付けることが可能になりました.

図2.5 正常に取り付けられたプラス端子部
 図2.5はバッテリ端子プラス側に車体側のプラス端子をねじで確実に締め付けた様子です.

図2.6 正常に取り付けられた新品のバッテリ
 図2.6は車体に取り付けられた新品のバッテリの様子です.オーバーホールされたキャブレータと相まって,良好なセルの回転によりエンジン始動がスムーズであることを確認して整備を完了しました.


【考察】 
 バッテリ価格は有って無い様なもので,各社から様々なものが出回っています.その価格差が相対的にあまりにも大きい為,ユーザーは何を選んで良いのか判断に困る状況にあります.というのは,価格が相対的に高ければ品質が良いとは限らず,また低ければ悪いとも言えません.それは製造工程でかなり品質に差があることを示しており,バッテリは内部に化学反応をパッケージングした商品であるということを考慮すれば,ある程度やむを得ないとも言えます.

 傾向としては相対的に高価なものは性能が良く寿命も長いと評価され,性能の低下も緩やかであるとされています.また相対的に安価なものは電圧も低く,寿命も短く,性能が急激に低下するという傾向がみられるとされています.なるほど使用してみるとそのような印象を受けます.しかしすべてがそうとは限らず,個体差があり,当たり外れがあるようにも思えます.それがバッテリの選択を困難なものにしている最大の要因であると言っても過言ではありません.

 問題は性能云々の前に,この事例の様に取り付け段階で壁にぶち当たるという現実をどう受け入れるかという点に絞られます.今回と同じように端子の穴が小さくそのままではボルトが入らない為に加工しなければ使用できない ※1 という事例がありましたが,この様な状態では一般ユーザーはすぐに取り付けすることができません.確かに安価なバッテリにそういうことが多く見られるという報告もありますが,その値段なら仕方ないという見方もできます.

 バッテリがこの様に選定の難しい商品であるのは,価格と性能そして端子の加工精度が必ずしも一致していないということに集約されます.お客様が迷われるのと同じように,私自身もバッテリの選択は難しく感じます.繰り返しになりますが,それはバッテリが分かりにくいからです.つまり高価なものを買っても必ずしも良い品質のものが得られない可能性があるからです.今後もバッテリについては難しい判断を迫られることになりそうです.
 特に密封式のバッテリの場合,ウェブで購入した場合は発売元がバッテリ液を注入して発送する為,購入者は封をされた状態で手に入れるしかないという点も事を複雑にする要因になっています.例えば当社で部品商を介して購入した密封式バッテリは,バッテリ本体と液が別の梱包で配達される為,整備士である私が使用直前に電解液を注入することにより,新鮮で確実に作業されたバッテリを使用することが可能になります ※2 .しかしウェブの場合,いつ業者が液を入れたか分からない為,放電を起こしていたり,作業ミスを発生していても,ユーザーは何も分からないというリスクがあります.ですが,もしそれを超えるほど価格に魅力があれば,それを選ぶのもまた一つの選択肢であると言えます.

 一昔前に比べてバッテリ選びが混沌としたものの様になりましたが,ユーザーが費用対効果を考えてバッテリを選べるという選択肢が増えたことは,消費者にとっては悪くはないのかもしれません.しかし,例えば情報を得たくて情報誌を買おうにも,その情報誌が多すぎて何の情報誌を選択して良いか分からないといったことと同じような状態に陥る懸念が払拭できないことは,決して好ましくないということを付け加えておきます.


※1 製造段階でのバッテリ端子マイナス側の加工不良について
※2 取り付け不良によるフタの浮き上がった密封式バッテリについて





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