事例:E-197
トップキャップガスケットの取付不良と空燃比の狂いについて |
【整備車両】
RG400EW-2W (HK31A) RG400Γ(ガンマ) 2型 年式:1988年 参考走行距離:約58,000km |
【不具合の状態】
トップキャップのガスケットがずれていてエアを吸い込む可能性がありました. |
【点検結果】
この車両はエンジンの始動が不能になったということで,お客様のご依頼によりメガスピードで修理を承ったものです.
結果的にオイルチェックバルブの衰損 ※1 が原因でしたが,
ここではその際に同時に実施したキャブレータオーバーホール時に発見したトップキャップの不具合について記載します.
図1.1は取り外したキャブレータトップキャップの様子です.
青矢印Aで示した部分のガスケットがトップキャップからずれて外側にはみ出していることが分かります.
ガスケットが純正部品であると仮定すれば,形状は対称であることから,ずれた分逆側が食い込んでいる可能性があります.
図1.2 内側に食い込んでいるトップキャップガスケット |
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図1.2はトップキャップ内側の様子です.
赤矢印Bの部分はガスケットが外側にはみ出した分内側に食い込んだ部分で,
その分青矢印Cで示した部分が外側にはみ出しています.
ガスケットの硬化具合や変色,潰れ痕等から年単位で長期間使用されたものであると判断できます.
図1.3はトップキャップをボデーに取り付けるスクリュ穴の様子です.
位置関係を分かり易くする為に赤色でガスケットの中心線を引きました.
青矢印aで示した穴は,ガスケットがずれて取り付けられていた為にスクリュで無理やりこじ開けられたと推測されます.
青矢印bで示した穴はスクリュ取り付けの為に元々あけられていた穴です.
元々の穴は4mmというスクリュに対して余裕を持たせている為スクリュの直径より少し大きく,
無理やりこじ開けられたと推測される穴は,スクリュの外径である4mm程度であり,
こじられた為,ガスケット端部がほつれていることが分かります.
確かに生産時に誤って組み付けられた可能性は排除できませんが,
メガスピードに入庫された段階でジェットニードルが標準ではない位置にクリップが変更されていたことを考えれば,
その作業には必ずトップキャップは外さなければならず,
その際にガスケットが誤って組み付けられたと見るのが自然です.
再使用したのであれば,トップキャップのガスケットの状態を無視したか,気づかなかったか,
どちらにしても不適切な対応であったと判断せざるを得ません.
結局は原因がどうであっても,最終的にメガスピードにて正確に修正されれば問題ないという結論に至ります. |
【整備内容】
ガスケットは基本的に外した部位に関しては新品交換ですが,
トップキャップの場合は一度新品にすれば,セッティング変更で蓋を外した際も正確に取り付ければ数回は再使用可能です.
今回の事例ではスクリュ取り付け穴がずれていたことや,ガスケットのシール部に段付きが発生していたこと,
ガスケットそのものが硬化して密封性能が低下している等の理由から新品に交換しました.
図2.1は新品のトップキャップをシールするガスケットの様子です.
各穴の位置関係を分かりやすくする為,青で中心線を引きました.
左右のスクリュ取り付け穴は中央の円を含めてその中心が一直線上にあります.
図2.2 トップキャップに取り付けられた新品のガスケット |
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図2.2はトップキャップに新品のガスケットを設置した様子です.
新品のガスケットはスクリュ取り付け穴がトップキャップのそれとほとんど同じ部位である,
と言っても過言ではないほど正確な位置であけられていることが分かります.
この状態で初めて確実にキャブレータボデーを密封する性能が確保されたと言えます.
図2.3はオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)の完了したキャブレータに,
点検洗浄したトップキャップを新品のガスケットを使用して組み付けた様子です.
正しく手入れされたキャブレータ外観の美しさもさることながら,
試運転において性能が発揮された時のフィーリングは,2サイクルエンジンという特殊性を考慮したとしても,
稀有なバイクを所有している喜びを十分にもたらします. |
【考察】
今回の事例ではガスケットの位置ずれがスロットルバルブに被る範囲より小さかった為,
エア吸いによる空燃比の狂いは発生していなかったと推測されます.
しかしそれは程度の大小から得られる結果論であり,
根本的な原因であるガスケットの位置ずれを防止しなければ何の解決にもなりません.
ガスケットは気体や液体をエンジン外部に露出させない役割と同時に,
外部から内部に空気を代表とした不純物が入り込まない様にする役割があります.
今回の不具合の内容はガスケットがずれて取り付けられていたことにありますが,
生産過程やその後の点検整備を含めた場において,この様な未熟な作業は極力避ける必要があるといえ,
ガスケットを正しく取り付けるという一見単純な行為こそが,
実は非常に大切な機能的役目を果たしていることを認識する必要があると言えます.
※1 オイルチェックバルブの衰損により短期間で2サイクルオイルで満たされたフロートチャンバについて
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