事例:139
フロートバルブシート外側Oリングの溶解と燃料漏れについて |
【整備車両】
RG250EW-4W (GJ21B) RG250Γ(ガンマ) 4型 推定年式:1986年 参考走行距離:約3,900km |
【不具合の状態】
始動不能な上,燃料漏れが発生していました. |
【点検結果】
この車両はお客様が長期保管中にエンジンがかからなくなったものであり,
公道走行前に各所分解整備をメガスピードにて実施したものです.
不動になった原因はキャブレータスタータジェット及びパイロットジェットの詰まりであるといえますが ※1 ,
今回の事例ではキャブレータの燃料漏れについて記載します.
図1.1はエンジンから取り外したキャブレータの様子です.
見苦しい程の錆は発生しておらず,比較的雨風の影響を受けない環境下にあったといえます.
しかし,オーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)を実施すると,
中身はジェット類の詰まりに加え,フロートバルブ外側のOリングが溶けている状態でした.
図1.2 溶解しているフロートバルブシートOリング |
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図1.2はフロートバルブシートを取り外した様子です.
シートハウジングとバルブシートを密封する為のシール用Oリングが溶けていました.
原因は経年劣化や長期間腐敗したガソリンに浸されていたことによるものであると推測されますが,
これにより,密封性能の低下からシートハウジングとシートのすき間から燃料漏れが発生していたと判断することができます. |
【整備内容】
Oリングを含めてバルブシートASSYを新品に交換し,
ハウジングの修正研磨,キャブレータ構成部品の点検洗浄を実施しました.
図2.1はキャブレータボデー,フロートチャンバ,スロットルバルブカバー,スロットルバルブガイドの様子です.
特にスロットルバルブカバーとボデーの合わせ目は腐敗したガソリンや埃の混合物が堆積している為,
やはりオーバーホール【overhaul】と呼ぶのであれば,
最低限このレベルまでは精密に分解検査すべきであるとメガスピードでは考えております.
図2.2 洗浄されたボデーに使用される新品のスロットルバルブカバーガスケット |
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図2.2は分解洗浄の完了したキャブレータボデーに,
新品のガスケットを使用してスロットルバルブカバーを組み付ける様子です.
ガスケットはメガスピードにて専用に設計製造されたものであり,
新品のトルクスを正確な締め付けトルクにて締結することにより,確かな密封性能を約束します.
図2.3はVM28型キャブレータに使用されている新品のフロートバルブの様子です.
バルブシート部が新品になることによりバルブとの密封性能が高まると同時に,
新品の張りのあるOリングにより,ハウジングとの密封性能が確保されます.
図2.4は溶解したOリングの付着を洗浄し,荒れていた側面を研磨することにより,
フロートバルブとの密封性能を確保したシートハウジングの様子です.
これにより,新品に交換されたバルブシートASSYとの密封性能を最大限に引き出すことができました.
図2.5はオーバーホール【overhaul】の完了したキャブレータの様子です.
実際に試運転を行い,燃料漏れの解消や非常に良好な走りを実現したことを確認して整備を完了しました. |
【考察】
キャブレータ内部において燃料漏れを発生する箇所は多々ありますが,
フロートバルブシート外側とシートハウジングとのすき間から漏れだすケースは,
特に古い車両には少なくない為,決しておろそかにはできない部位であるといえます.
Oリングが潰れていたり,この事例の様に溶けてしまっている場合には必ず交換しなければなりませんが,
その相手であるシートハウジングを修正研磨して接触面を平滑にしなければ何の意味もなしません.
またOリングのみ交換すれば良いという見方は,少なくとも私の判断からすれば賢いとはいえないのは,
Oリングが衰損するころにはバルブとバルブシートの接触部も相応に摩耗しており,
バルブシートとハウジングの燃料漏れのみ直しても,
近い将来バルブとシートの接触面から漏れ出す可能性が否定できないからです.
したがって,ASSY設定でなくても,フロートバルブは外側のOリングあるいは内蔵フィルタとセットで,
一式交換しておかなければなりません.
燃料漏れは車両火災の直接の原因となり得る為,発見した場合は必ず迅速に修理される必要があり,
特に何年も寝かせてしまった車両であれば,再稼働した瞬間は漏れていなくても,
必ず近いうちに燃料漏れが発生する為,
公道を走行する前には可能な限り予め整備しておかなければならない最重要項目であると断言しなければならないのです.
※1 “スタータジェット及びパイロットジェットの詰まりによる始動不可について”
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