トップページ故障や不具合の修理事例【二輪自動車】 エンジン関係の故障、不具合、修理、整備の事例 (事例:131~140)


事例:131

錆等の混入によるフロートバルブの噛み込みがもたらす燃料漏れと車両火災の危険性について


【整備車両】

 K125S (コレダ S10)  推定年式:1995~2000年  参考走行距離:約23,100km


【不具合の状態】

 燃料漏れが発生していて,その一部が排気管に垂れている状態でした.


【点検結果】

 この車両はお客様が
走行中に変速不能になり ※1 ,その修理をメガスピードにて承ったものですが,

燃料漏れが発生していた為,同時にその整備も実施することになりました.

ここでは燃料漏れの事例について記載します.



図1.1 燃料漏れの発生しているキャブレータ下部

 図1.1は燃料漏れの発生しているキャブレータ周囲の様子です.

漏れ出した燃料がチャンバに垂れている為,車両火災の原因となる可能性が極めて高く非常に危険な状態でした.

エンジン下部が漏れ出した燃料により茶褐色に変色していることが分かります.



図1.2 燃料コック下部のカップに堆積している錆とゴミの混合物

 図1.2はガソリン漏れの原因究明の為,燃料系統を点検している様子です.

燃料コック下部のカップに錆やゴミが堆積していました.

これはフロートバルブに噛み込んだ場合,燃料漏れの直接の原因になります.



図1.3 クリップの外れている硬化した燃料ホース

 図1.3は社外の燃料フィルターが設置されている様子です.

上流および下流の付け根はタイラップで処理されていて,コックの部分については錆びたクリップが外れている状態でした.

燃料フィルター内部の状態が確認できない為,

カップに堆積していたゴミの質や量から判断すると,フィルターも相応に詰まりが発生している可能性は否定できません.

また外観も見苦しい為,パイピングの是正が望ましいといえます.



図1.4 燃料漏れの発生していたキャブレータ

 図1.4はキャブレータ内部の様子です.

フロートチャンバガスケットの状態から長期間整備がされていない,あるいはガスケットが交換されていないと推測できます.

内部通路やジェット類,その他構成部品に大きな不具合は見られないものの,材質そのものが経年により劣化していました.




図1.5 錆の発生しているスタータプランジャ廻り

 図1.5は錆の発生しているスタータプランジャの様子です.

スプリングも含めて周囲が錆びていることや,プランジャそのものが劣化していることが分かります.

またトップキャップ等の汚れ具合から,長期間正しく洗浄されていなかったことが推測されます.



【整備内容】

 今回の整備ではキャブレータを新品に交換する流れになったことから,

入荷したキャブレータを細部まで分解し,確認しながら組み立てました.

また燃料フィルターや燃料ホース等はすべて新品に交換することにより,

錆等の噛み込みによる燃料漏れの防止を徹底しました.



図2.1 分解点検の完了した新品のキャブレータ内部

 図2.1は新品のキャブレータを分解し,点検の上で再度組み立てた様子です.

新品といえども部品そのものがメーカーで長期保管の場合も少なくない為,

必ず分解整備してから使用する必要があります.



図2.2 正確なトルク管理により締め付けられているフロートチャンバ

 図2.2はフロートチャンバをキャブレータボデーに取り付けている様子です.

トルクドライバを使用することにより正確なトルク管理を行い,燃料漏れを確実に防止しなければなりません.

キャブレータという精密な機械ほど,実際には確かなトルク管理が求められるといえ,

勘に頼った組み方を脱しない限りは性能を引き出すことや燃料漏れから逃れることは難しいといえます.



図2.3 新品の社外燃料フィルタ

 図2.3は新品の社外燃料フィルターの様子です.

ホース内径φ5に適合する中身が可視化されたものを選択しました.




図2.4 新品の燃料ホースに取り付けられた新品の燃料フィルタ

 図2.4は新品の燃料ホースに取り付けられた新品の燃料フィルターの様子です.

錆びていたクリップも合わせて新品に交換することにより,機能のみならず見た目の美しさも追求しました.

パイピング,特に外部から見える部分のパイピングは尚細心の注意を払い美しく設置しなければなりません.



図2.5 洗浄された燃料コックカップ上部

 図2.5はカップ上部のコック部分を洗浄した様子です.

大きな錆等は発見されないことから,カップに堆積したものは一過性だった可能性があり,

今後の推移を見守る必要があります.



図2.6 新品の燃料コック下部のカップ

 図2.6は新品のカップの様子です.

樹脂部品であることから,洗浄して再使用するのではなく,経年劣化も考慮して新品に交換しました.



図2.7 組み立てられた新品のスタータプランジャやスロットルバルブ

 図2.7は新品のスタータプランジャ及びスロットルバルブ廻りの様子です.

トップキャップのガスケットを含めて部品単体では供給がなく交換できない部位が多い為,

今回の新品のキャブレータASSYを交換するという選択肢により,

それに付属するこれらの部品がすべて新品になるというメリットは計り知れないほど大きいということができます.



図2.8 燃料漏れの解消したキャブレータ

 図2.8は燃料漏れが解消されたキャブレータの様子です.

ドレンホースやスタータ,スロットルバルブ等も新品に交換されたことにより,

非常に美しく,かつ機能的に今後長きにわたり正しい手入れのもと性能を維持されることが期待されます.

最終的にシフトリンケージ廻りも含めてすべての機関を組み上げ試運転を行い,

非常に良好であることを確認して整備を完了しました.



考察】

 燃料漏れには様々な原因が考えられますが,今回の事例ではフロートバルブへの錆の混入が否定できないことから,

燃料系統の点検整備を実施しました.

キャブレータをASSYで交換するという選択は,スロットルバルブ廻りやスタータプランジャ廻りもセットで入荷される為,

同時に交換される利点は非常に大きいといえます.

特にこの車両についてはキャブレータが一つしかない為,新品に交換してもコスト的に安く済み,

状態の悪いキャブレータを分解整備するより新品に交換するメリットの方が大きいといえます.

もちろん絶版であれば新品にするという選択肢はなくなりますが,

少なくとも部品供給がある場合は,迷わず新品に交換しても何ら損をすることはありません.


 今回の事例ではキャブレータのドレンホースの出口に排気チャンバが設置されている為,

走行時には高温になった排気管の上にガソリンが垂れている状態でした.

これは非常に危険な状態であり,簡単なきっかけで直ちに車両火災が発生する恐れがあります.

やはりその様な事態を極力回避する為にも,燃料系統は特に気を引き締めて定期的に整備されなければなりません.






※1 “シフトシャフトリターンスプリングの折損によるシフトロックがもたらす変速不能について”






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