トップページ故障や不具合の修理事例【二輪自動車】 エンジン関係の故障、不具合、修理、整備の事例 (事例21~30)



キャブレータの取り付け不良及びスパークプラグの不具合によるエンジン始動不可能について 


【整備車両】

SE50MSJ (AF19) DJ.1RR 推定年式:1988年  参考走行距離:7,500km


【不具合の状態】

エンジンが始動しづらい状態からやがて始動不可能に陥りました。


【点検結果】

普通に走行していたものの、始動しづらい状態からやがて始動不可能な状態になり、

メガスピードに修理のご依頼で入庫されました。

走行中にエンジンが止まったということではないので焼き付きの可能性は低いと考えられるものの、

まずはエンジンの圧縮を測定し、エンジン本体に問題がないか点検しました。

図1はエンジンの圧縮圧力を測定している様子です。


図1 、エンジンシリンダ圧縮圧力の測定

圧縮圧力が1,000kPaと規定値あり、エンジンは問題ないと判断しました。

しかし、圧縮を測定する際に取り外したスパークプラグの状態から、

スパークプラグの不具合がエンジン始動不可能に陥った原因の一つであると判断できることから、

スパークプラグの不具合については別の事例としてとりあげたので、こちらをご覧下さい。



図2はキャブレータボデー周囲からガソリンとオイルの混合物が漏れ出している様子です。


図2、燃料やオイルの漏れているキャブレータ廻り

クランクケースカバーの汚れ具合から長期間点検整備が行われていなかったことが推測されます。



図3はインテークマニホールドとキャブレータの付け根付近の様子です。


図3、取り付けボルトが脱落欠損している傾いたキャブレータ

黄色の四角Bはマニホールドにキャブレータを組み付けているボルトです。

黄色の四角Aには本来Bと同じ径のボルトがあるはずですが、何らかの原因で欠損していました。

その結果、一本のボルトではキャブレータを正しく固定することができず、

黄色い四角Cで示したいわゆるインシュレータにあたる部分が脱落しかかっていました。

これにより、すき間から負圧及び混合ガソリンが外部に流出していたと考えられます。





図4、ガソリンやオイルにまみれたキャブレータとボルト穴の一部とみられる金属片

図4は取り外したキャブレータの様子です。

黄色い四角Aで囲んだ部分にキャブレータ取り付け部の雌ねじのネジ山が千切れて付着していました。




図5、ボルトの取り付け溝がほとんどなくなっているキャブレータのねじ穴

図5はキャブレータボデー側のマニホールドと組み付けるボルトの雌ねじのねじ穴の様子です。

内径がつるつるになっていてほとんどねじ溝がなくなってしまっていることが分かります。

このことから、もともと機能していない、あるいはわずかに残ったねじ溝を修正せずに、

そのままボルトを取り付けていた可能性があります。

キャブレータボデーに付着していたねじ山の溝はボルトを取り付けた時に押し出されたものと考えられます。

ねじ穴を点検するとほとんどねじ溝がないことから、ボルトは走行中に脱落したものと判断できます。




図6、完全にパッキンが潰れて合わせ面と面一になっている様子

図6はキャブレータボデーとフロートチャンバの合わせ面のゴムパッキンが潰れて合わせ面と面一になっている様子です。

キャブレータ外部に漏れ出したガソリンはこの合わせ面から流出したものと考えられます。


【整備内容】

図7は分解整備、点検洗浄を行ったキャブレータボデーの様子です。



図7、点検清掃、分解整備を行ったキャブレータボデー

ボデー外側や、各調整スクリュ類はかなり油とほこりの汚れがあったものの、

内部に目立つ腐敗や損傷はありませんでした。

またガソリンの腐った甘いにおいもせず、最近までキャブレータ内のガソリンに流れがあったことが分かります。



図8はキャブレータとインレークマニホールドを接合するボルトの雌ねじのねじ山を修正した様子です。


図8、ヘリサート加工したキャブレータ取り付けねじ穴

雌ねじ穴の溝は完全に崩れてつるつるになっていたので、

M6の1DNSのスプリューを使用し、ヘリサート加工を行いました(左側)。

右側のねじ穴も半分くらい崩れていたので、近い将来に不具合を起こすと判断し、同時にヘリサート加工しました。



図9はキャブレータボデーとフロートチャンバの合わせ面に新品のパッキンを取り付けた様子です。


図9、キャブレータボデーに取り付けられた張りのあるパッキン

画像の黒い部分はキャブレータボデーから飛び出したパッキンです。

図6と比べてかなり潰れしろとなる張りがあることが分かります。




図10、インテークマニホールドに取り付けられた、分解整備の完了したキャブレータ

図10は分解整備の完了したキャブレータをインテークマニホールドに組み付けた様子です。

取り付けボルトは脱落欠損していた左側とねじ山が損傷していた右側の両方を新品に交換しました。


【考察】

この車両のエンジンがかからなくなった原因が大きく2つ考えられます。

一つは燃料系統の不具合、もうひとつは点火系統の不具合です。

後者は別の事例でとりあげていますが、この事例で取り上げた燃料系統の不具合は、

避ければ避けられた可能性が高い不具合です。

その理由は、キャブレータの取り付けボルトの雌ねじのねじ山が2か所とも崩れていて、

特に左側はほとんどつるつるになっていたにも関わらず、そのまま取り付けられていたからです。

しかもキャブレータボデーに雌ねじのねじ溝の破片が付着していたことから、

ダメになっているねじ溝に無理にボルトをねじ込み、さらにねじ溝を崩し、

外部に押し出してしまった可能性が高いと判断できます。

これらは過去に整備した人が、ねじ溝を破損させ、そのまま放置してしまったと考えることができます。

例えキャブレータを取り外した時にすでにねじ溝が破損していたとしても、

その時に適切な整備が行われていれば今回の様にエンジン始動困難にならなかった確率が高いといえます。

整備者はその時に気づいたものについては、必ずその時に適切な整備を行う必要があります。

この事例の様に、ねじ溝が破損した穴にボルトをねじ込んでも、走行すればいずれ近い将来に脱落し、

マニホールドやインシュレータとキャブレータ間にすき間ができ、

二次エアを吸い込んでエンジン不調に陥ることは容易に想像できたはずです。

やはり、目的のものを整備しているときはもちろんのこと、それに付随した整備中に発見した不具合等は、

必ずあとで症状に出てくるので、可能な限り整備しておくことが求められます。





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