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キャブレータ内部の雌ねじの破損に対するヘリサート加工による修理について


【整備車両】

RG400EW-2WC (HK31A) RG400Γ(ガンマ) Ⅱ型  1986年式  (参考)走行距離:約11,500km


【不具合の症状】

3番シリンダのキャブレータが燃料漏れを起こしていました。それと同時にプラグがかぶる状態でした。


【点検結果】

図1は3番シリンダキャブレータのフロートチャンバを取り外した様子です。

図1 、フロートバルブシートのストッパプレート取り付けボルトの外れていた3番シリンダキャブレータ

フロートバルブシートのストッパプレート取り付けボルトがプレートに入った状態で外れていました(図中央の黄色い四角内)。

通常の走行ではまず外れることがないボルトです。この事例ではまずこの点から検証していきます。

ここでは雌ねじの破損、修理を取り上げるので、キャブレータの整備はこちらの事例をご覧下さい。

図2はフロートバルブシートのストッパプレート取り付けボルト雌ねじのねじ穴の様子です。

ストッパボルト雌ねじには青い樹脂の塊が入っていました。

おそらくねじロックの残りではないかと推測出来ます。

図2 、崩れたねじ山と、そこに張り付いていたねじロックと推測出来る青い樹脂

取り付けボルト雄ねじのねじ山に破損は見られませんでしたが、

外れていたボルトを雌ねじに取り付けたところ、そのままねじ山の半分まで潜り込んでしまい、

ドライバでねじを回しても空回りし、締めつけトルクがかからない状態でした。

雌ねじは下まで完全に崩れている状態でした。

更に青い樹脂を取り除くと、雌ねじの穴の最下部に図3の様な金属が埋まっていました。

図3 、雌ねじの穴の最下部に埋まっていた金属

恐らく折れ込んだ雄ねじの一部だと推測出来ます。

これらの状況から、以前に作業した人が、まずストッパボルトの頭をなめたか、あるいはボルトが折れ込んだかして、

何らかのかたちで抜き取れなくなり、雄ねじをドリルで除去しようとしたものだと考えられます。

つまり図3の金属は中をドリルであけられ、外側だけ一皮残った雄ねじの末端の破片である可能性が高いといえます。

4mmの雄ねじのみをドリルで削ることが出来ずに、周りの雌ねじまでさらってしまったのではないかと推測出来ます。

それによって雌ねじのねじ山がすべて下まで破損してしまい、

その場しのぎで、ねじロックでボルトを固定しようとしたのではないかと考えられます。


【整備内容】

雌ねじのねじ穴は溝がほとんど破損していてタップのみの修正では復元不可能な状態だったので、

ヘリサート加工を行うことにしました。

図4 、ヘリサート加工の為のねじ穴の下地作り

図3は清掃した雌ねじにヘリサート下地専用のタップでオーバーサイズに切っている様子です。

図5 、オーバーサイズに切られた雌ねじのねじ穴

図5はオーバーサイズに切った下地の様子です。


図6、オーバーサイズの下穴に挿入する元のサイズの雌ねじのねじ山

図6はオーバーサイズの下地に挿入する雌ねじのねじ溝です。

雌ねじの溝は下までで大体8巻きから9巻きありますが、それに合わせて挿入するねじ溝は

溝の巻数は6
3/8M4×0,7の1,5DNSを選択しました。

図7、ステンレスのねじ山を挿入した雌ねじの様子

図7は下地に挿入した雌ねじのねじ山の様子です。材質はステンレスなのでアルミ合金よりかなり強度があります。

フロートバルブシートストッパプレートをねじで取り付け、完全に締め付けられることを確認して修理を完了しました。


【考察】

新車を購入し、自身が最初のオーナーでない限り、中古車両はほとんどの場合、以前に人の手が入っています。

時としてそれは確実な整備がされているものばかりではなく、

この事例の様にその場しのぎの作業が行われている場合があります。

手抜きをしてそうなったのか、技術がなくそれしかできなかったのかは分かりません。

整備を行うのが人であり、扱うものが中古部品である以上、絶対的に100%完全完璧な結果を得られるものではありません。

人間工学等の研究結果からも明らかなように、

広義で解釈すれば人(ヒト)が行うものについては必ずヒューマンエラーが存在します。

人がヒトである限り、完璧であることは不可能です。

不可能ですが、整備者は常に完全を意識し、それに少しでも近づけるように整備しなければなりません。

特に運動性能に影響のある部分は尚更、

はじめから、このままいけば後に不具合が発生するだろうと容易に推測できる様な作業をしてはなりません。

その様な整備では必ず後になって不具合が発生します。

整備をするものは、目の前にある課題に対して、与えられた環境、条件の中で、

最良の結果が得られるよう臨まなければならないのです。





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