トップページ故障や不具合の修理事例【二輪自動車】 電装関係の故障、不具合、定期点検、一般修理の事例 (事例:11~20)



レギュレータの故障による充電不良が原因のエンジン停止について


【整備車両】

ZX400-D2 (ZX400D) GPZ400R  年式:1984年  (参考)走行距離:約14,600km


【不具合の状態】

走行中にヘッドライトが暗くなりやがてエンジンが停止しました.


【点検結果】

この車両はお客様が他店で購入されて納車後に30km程度走行した頃,

ヘッドライトが暗くなり,やがてエンジンが停止した,ということでメガスピードにて点検整備を承りました.

状況から充電系統の不具合が推測される為,発電や充電を含めた電気系統の点検から整備を行いました.



図1 ステータ・コイル抵抗の測定

図1はステータ・コイルの抵抗を測定している様子です.

測定値に異常はなく,断線等も発生していない為正常と判断しました.

また取り外したフライホイール・マグネトの状態も点検し,特に問題はありませんでした.



図2 ステータ・コイル発電能力の測定

図2はステータ・コイルの発電能力を測定している様子です.

充電不良にはエンジンそのものの発電不良と,発電電流を整流する箇所の2つの大きな機関がある為,

それぞれ確実に押さえておく必要があります.



図3 ステータ・コイルからの単相交流発電電圧の測定

図3はステータ・コイルから発電されている単相交流電圧を測定した様子です.

測定機器はHIOKI クランプオンAC/DCハイテスタ 3287を使用し三相それぞれひとつずつ測定しました.

表示電圧は正弦波の波高率(クレストファクタ)√2の実行値で,交流電圧約30V~40V/4,000rmであることから,

最大値は交流電圧約42,4V~57V/4,000rmとなります.

整備書の参考発電交流電圧と照らし合わせても十分であり,

エンジン本体からの発電機能は正常であると判断しました.


【整備内容】

発電と充電のうち,発電は問題ないことが確認できた為,充電装置のレギュレータを点検しました.

単体では測定値に大きな異常は検出されないものの,バッテリに対して充電不良を発生させていた為,

レギュレータの故障と判断し,新品に交換しました.



図4 新品のレギュレータ

図4は新品のレギュレータを車両に取り付けている様子です.

車両の製造は1984年であるものの,新品の部品供給があった為,他の型式から流用することなく
(※1)

正規の純正部品を取り付けることができました.



図5 正常な数値の直流電圧

図5は新品のレギュレータを取り付けj直流充電電圧を測定した様子です.

エンジン稼働時に常に約14V~15V程度の直流電圧が測定され,状態は良好であると判断しました.

すべて組み付け試運転を40km程行い,灯火類やエンジンの具合等に問題がないことを確認して整備を完了しました.


【考察】

一番避けたいのはやはり何といっても出先でのエンジン停止による帰宅困難を代表とする移動困難です.

特にレジャーで遠方まで行った場合,エンジンが止まったバイクをその場で修理することができなければ,

最低でも最寄りのバイク店等にレッカーするはめになり,その様な施設なりがあればまだ良いものの,

過疎地や山間部でのエンストは人里までの距離が長いことや,通信手段が限定的になる等,状況は一段と悪くなります.

日も暮れてくれば寒さに体温が奪われ,お腹も空いてきて身の危険や不安を感じる場合も少なくありません.

ましてや天候が崩れ雨が降りだせば,それは災難といえる事態に刻一刻と近づいていることを認識しなければなりません.

あんなに快適に色々な場所へ運んでくれたバイクが,

出先でエンジンがかからなくなれば,ただの鉄の塊の大きな重い荷物に変わるのには,そう長い時間を必要としません.

今回の事例では,エンジンが止まった場所が幸いお客様のご自宅の近くであったことから大事には至りませんでしたが,

常に最悪の事態を想定して,そうならない様に重要な箇所は日頃から整備される必要があります.



製造から10年以上経過している車両は充電装置のレギュレータが破損してくる可能性が非常に高いといえます.

この車両は他店で購入されたものの,30km程度走行した時にヘッドライトが暗くなってエンジンが止まったことから,

レギュレータが破損した,あるいは発電機関に異常が発生したと考えられます.

レギュレータが故障すれば交流発電電流を整流することができず,

エンジンをかけてもすぐにバッテリが上がり,走行不能になります.

すなわち30km走行した実績があるということは,例えばバッテリに充電なしで2km程度走行する容量があると仮定すれば,

少なくとも28kmは充電しながら走行していたことになり,つまり29km地点でレギュレータが故障し,

バッテリに発電電流が充電されず,バッテリの残量を消費してエンジンが停止したといえます.

このことは,それまで正常だった電気系統が瞬間に故障し不具合を発生させたということを示しています.

つまり販売元の他店では正常に機能していたものの,納車後30kmでレギュレータが故障したということになります.

実はこの様な事例は潜在的にかなり多く,

この車両でいえば発売が1984年ということを考えれば,すでに壊れていてもおかしくない状態であったといえ,

たまたまレギュレータが壊れる時期にきていた中古車両を購入されたということになります.

この事例の様にレギュレータが故障することにより,充電できず,バッテリが上がり,エンジン停止に至る,

という現象は,10年落ちの車両から見られるようになり,

20年落ちであればすでに壊れているものと考える必要があります.

電装品は正常であっても前触れなくいきなり故障することから,

中古車を入手された場合で過去の整備記録がなければ,レギュレータは交換前提とするのが望ましいといえ,

それは所有している間に10年落ちや20年落ちとなった車両のオーナーにとっても同様です.



レギュレータが故障することにより,発電電流の整流調圧機能が喪失し,充電不足または過充電に至りますが,

充電不足の場合はバッテリに充電されず,やがてエンジンが停止します.

段々電圧が降下してきますが,その状態で無理の乗っていて,少なくとも10Vを切った状態で使用すれば,

コントロール・ユニットやイグナイタ等を破損させるおそれがあります.

また過充電の場合は,過電圧によりすべてのウインカ・バルブが割れたり,断線したりすることがあり,

バッテリが過電圧により沸騰し,液が蒸発して最終的には液不足による電圧降下により,エンジン停止に至ります.

しかしここで十分に注意を払わなければならないのは,充電不良がレギュレータのみならず,

発電装置そのものに不具合が発生している可能性も古い車両であれば否定できないということです.

大元が発電していなければ,いくら整流器を新品に交換しても充電されるはずがありません.

やはりこの事例の様に,充電不良を発生させている場合,

整流機能の可否を含めて,大元の発電装置が十分に機能しているかを必ず確認する必要があります.



またバッテリによらず点火するC.D.I仕様の車両は,充電系統が故障していてもエンジンがかかる為,

電装知識の不足したユーザーがバッテリを取り外したまま,

あるいはバッテリが完全にダメになっている状態で走行している現状は嘆くべきであり,

その様な状態では行き場を失った発電電流が必ず発電系統や各部の電装部品に悪影響を及ぼし,

それぞれの部品の寿命を著しく低下させてしまうと考えるのが自然です.

したがって,C.D.Iモデルでも,発電された電流は必ずバッテリに蓄える必要があり,

そうでなければ最低限の容量をもったコンデンサが使用されるべきです.



メガスピードでは発売後10年以上経過している車両のお預かり修理等を行う場合は,

折に触れレギュレータの交換をお勧めしています.

またそれと同時に発電系統,整流系統を含めた充電系統の整備一式を随時承っております.

この部品を交換したかどうかが,出先から帰ってこれるか,取り残されるか,という分かれ道になります.

やはり古い車両であれば,迷わず新品に交換しておくことが望ましい最も重要な部品のひとつであるといえます.





(※1)他の型式からのレギュレータの流用の事例は,

レギュレータの移植について”

をご覧下さい.





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