トップページ故障や不具合の修理事例【二輪自動車】 電装関係の故障、不具合、定期点検、一般修理の事例 (事例11~20)



レギュレータの移植について


【整備車両】

CBR250F
(MC14) CBR250FG (推定)1986年式  〈参考〉走行距離:約13,900km


【点検測定】

MC14はすでに発売から25年以上経過している為、電装部品にも経年の劣化が発生しています。

特にバッテリ電源のイグニションシステムの場合は充電不良が発生すると、

直接走行中のエンジン停止に結び付きます。

今回の事例ではそのような不具合を避ける為に、

レギュレータが故障する前に予め新品に交換しておくという目的で整備を承りました。

まずはすでにMC14の純正部品が絶版ということを把握しているので、

同等の性能が期待できる代替品を検討することから始めました。


図1、MC14の発売当時のレギュレータ

図1はMC14の正規のレギュレータが車体に取り付けられている様子です。

裏側からボルトが出ていて、それを表からナットで留める固定方式ですが、

ボルトのマウントがゴムであるのは振動を防ぐ為であると考えられます。

電装品は振動を極力避ける為に、対策品を取り付ける場合も同等に行う必要があります。




図2、夜間負荷をかけたMC14のレギュレータの直流充電電流の測定

図2は夜間負荷をかけた状態での充電電流を測定している様子です。

MC14の場合、ヘッドライトが60/55W、テールランプが8W、フロントポジションランプ8Wが左右で16W、

ニュートラルランプが1,7W、タコメータ及び水温計の照明がそれぞれ3,4Wなので計6,8W、

スピードメータの照明が3,4Wと3Wの合計6,4W、
以上の合計98,9Wの電力を明かりで消費しています。

配線の抵抗がないものと考えた時に、電流は合計8,24A流れていることになります。

これにイグニションを加えた値が車両を運転する上での最低限必要な電力ということになります。

夜間負荷をかけた状態で直流電流を測定した結果約8,5A~9,5A程度の電流が充電されているので、

走行上必要な電力と照らし合わせてこの充電電流を考慮しました。


【整備内容】

CBR250F
G(MC14)のACジェネレータの発電能力は18,5A/5,000rpmで、

レギュレータは無接点式で制御電圧が14,0~15,0Vとされています。

これと同等の性能を保有しているのがAという車両に使用されているACジェネレータです。

発電が18,5A/5,000rpmでレギュレータの制御電圧も14,0~15,0VとMC14型と同じ性能を示しています。

ここではAという車両に使用されているこのレギュレータを“レギュレータB”と呼ぶことにします。

ACジェネレータの発電能力が共に18,5A/5,000rpmということから、

少なくともレギュレータBは18,5Aの電流及び発熱に耐える能力があると判断できます。

レギュレータBが整備日時現在で新品で供給されていることから、

今回の事例ではこのレギュレータBをMC14に流用することにしました。



バッテリの容量がMC14の場合12V/8AHなのに対して車両Aは12V6AHと25%少なくなっていますが、

消費電力を計算すると、夜間負荷で照明のみで合計141,9Wとなり、流れる電流は11,83Aになります。

この時MC14よりも車両Aの方が3,59A多くの電流が流れることになります。

つまりレギュレータBの能力は同じままで、充電電流は夜間負荷で車両Aより31%少ないMC14に使用する為、

充電電流に関してはレギュレータの許容電流に安全マージンをとることができます。



次に発熱量に関して考えなければなりません。

MC14も車両Aもバッテリが満充電状態で測定すると、昼間負荷すなわち照明に必要な電力を使わない状態では、

ともに充電電流は1A~2A程度です。

すなわちイグニション及びニュートラルスイッチその他必要最低限の電流が1A~2A程度であるということです。

オルタネータの発電能力は18,5A/5,000rpmなので、

この場合少なくとも15A以上は発電された電流はレギュレータ内部を通りアースされていることになります。

この時レギュレータ内部の抵抗が電流により発熱しますが、電流に比例して発熱量が増えることから、

発熱量は昼間負荷で消費電力が最小の時に最大となる為、

MC14でも車両Aでもレギュレータでアースされる電流による発熱量はともに同等であるといえます。

つまり、最大許容電流及び最大許容発熱量が同じということになります。

このことから現在の法律での昼間点灯の状態でレギュレータ本体に生じる発熱量が、

車両AよりMC14の方が約3,6A分多くても問題がないと判断できます。




図3、レギュレータB及びMC14に取り付け加工したハーネスカプラ

図3はレギュレータB
をMC14に取り付け加工したハーネスカプラです。

MC14はレギュレータからの出力電源及びアースが2本ずつ合計4つになっていますが、

レギュレータBは出力、アース共に1本ずつの合計2本になっています。

MC14の車体側のカプラはメーンハーネスからの張り出し寸法が短い為加工せず、

それに合わせる形で250端子を使用しました。

つまりレギュレータBからの出力及びアースをそれぞれ一度2つに分岐させて、

MC14純正の250の4極カプラに差し込む方法をとりました。

MC14の配線図では直後に電源同士、アース同士で一つになっている為、見掛け上では2本ずつでも、

実際はそれぞれ1本が出ていることになります。

分岐に使用したギボシは許容が200Wすなわち12Vで使用した場合は、

約16,7Aまでがメーカーの許容範囲なので十分余裕があるといえます。

予測充電電流は10A程度であることから、配線は許容電流を十分に確保している1,25sqにしました。





図4、夜間負荷をかけたレギュレータBの直流充電電流の測定

図4は夜間負荷をかけた状態でのレギュレータBを使用した場合の充電電流を測定している様子です。

アイドリングの約1,500rpmでレギュレータからの直流電流が約8,5A~9,5Aなので、

もともとのMC14用のレギュレータとほぼ同等の性能を示していることが確認できます。

また1,500rpmから16,000rpmまでの充電電流を測定したところ、安定して直流電流が約8,5A~9,5Aであるので、

消費電力に対して充電電流がきちんと流れていることが分かります。

充電電圧も、1,500rpmで13,7V程度、2,000rpm~16,000rpmで安定して14,5Vと良好であることを確認しました。




図5、MC14に移植されたレギュレータB

図5はレギュレータBを取り付けるにあたり、MC14用のボルトは短いものに変更し、

製作したアルミ合金プレートをナットで取り付けました。

そしてレギュレータBをスペーサでクリアランスを設けることにより空気の層で放熱性の向上を図りました。

またレギュレータ側のカプラから分岐ギボシまではビニール被覆により配線を保護しました。



取り付けを完了し20km程試運転を行い、

充電状況やレギュレータB本体の蓄熱等に問題がないことを確認して整備を完了しました。


【考察】

レギュレータは充電電流を調整する電装系で最も重要な部品の一つであり、消耗品でもあります。

これが故障すると充電不良により電圧が足りず、

エンジンが停止するばかりでなく、特に10V以下の状態で無理に走行しようとすれば、イグナイタ等のスパークユニットや、

コントロールユニットを破損させてしまうことがあります。

あるいは電圧制御ができないことによる過充電によりバッテリ液が沸騰して蒸発してしまい、

電圧不足によりエンジン停止に至る場合もあります。



古い車両の純正部品は絶版になっていることが少なくありません。

その場合、適合できる部品を探して使用することになりますが、

発電機の発電電流、それによる発熱量等を確実に許容したものでないと、

取り付けたレギュレータの損傷を始め、カプラの溶解、配線の損傷から、

車両火災といった最悪の事態に至る可能性があります。

やはりレギュレータ本体の半導体の熱損傷はもとより、カプラの変形や溶解等を防ぐ為にも、

発電量や発熱量が安全な範囲かどうかを必ず確認した上でレギュレータを流用することが必要であるといえます。





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