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事例:S-89

旗艦クラスのステムベアリング交換時期について

【整備車両】 
 GSX1300RY (GW71A) "HAYABUSA" 隼 (ハヤブサ)   年式:2000年  参考走行距離:約25,000km
【不具合の状態】 
 ステアリング操作に大きな不具合は発生していませんでしたが,経年と走行距離を考慮し同時に整備したフロントフォークと合わせてステムベアリングを交換しました.
【点検結果】 
 この車両はフロントフォークダストシールに劣化による亀裂が発生していた為,フロント廻りの整備を実施したものです.今回の事例ではステムベアリングについて記載します.

図1.1 ステム廻りの取り外された車体
 図1.1はステムベアリングを交換する為にステム廻りを取り外した車体の様子です.支持部に歪みや損傷は見られず,経年を考えると比較的良好な状態でした.しかし周囲の状況から推測すれば,一度もステム廻りが分解整備されていないこと判断することができます.

図1.2 古いアッパベアリング
 図1.2は古いトップブリッジ側のステムベアリングを取り外した様子です.グリスが経年劣化していたものの著しい破損や段付きはなく,また錆の発生もほとんどないことから良好な状態で維持保管されていたと考えられます.もちろんこのY型の発売が2000年頃であることを考慮すればすでに部品本体が衰損していることは想像に難くないと言えます.

図1.3 取り外した上下のステムベアリング
 図1.3はトップブリッジ側とアンダーブラケット側の両方のベアリングの様子です.同じものを反転して使用していることから状態の比較に適していますが,双方ともにグリスの劣化が見られる程度で大きな破損はありませんでした.またベアリングレースにも傷や損傷,段付きがないことから,長期間一定の姿勢で保持された形跡もなく,車両の状態はフレッシュであると言えます.特にレース部に関しては,乗らずに長期保管されてしまった車両はその部位に打痕や錆が発生していることが多く ※1 ,ステアリング操作に段付きが発生する原因になることから重点的に点検しておかなければなりません.


【整備内容】
 ステムベアリングやワッシャ,ダストシール等衰損あるいは経年劣化していたものを新品に交換しました.

図2.1 新品のベアリング及びダストシール
 図2.1は新品のステムベアリング(上下)とダストシールの様子です.ベアリングを交換する必要がある際には同時にダストシールも損傷している場合が多い為,同時に交換しておくことが求められます.今回の整備ではさらにワッシャやカバーといった細かな部品も交換しました.ステム廻りの整備は実施される頻度が多くない為,整備する際には可能な限り周辺部品を同時に新品にしておくことが車両を美しく保つ秘訣になります.

図2.2 ステムシャフトに圧入されたロアベアリング
 図2.2は点検洗浄したステムシャフトにダストシールを取り付けロアベアリングを圧入した様子です.
ステムシャフトやアンダーブラケット本体は強固に作られていますが,アルミの腐食等が発生している場合が少なくない為,取り外した際には可能な限り綺麗に洗浄しておくことが望ましいと言えます.

図2.3 点検洗浄されたインナレースハウジング
 図2.3はインナレースハウジングを洗浄し細かく点検した様子です.事故等でフロント廻りを大きく破損させていない場合はハウジングが損傷している場合が少なくありません.逆に素性の分からない中古車両はこの部位を確認しておくことが,事故歴があるかどうかという判断材料としての情報源の1つであると言えます.ハウジングはフレーム本体の一部であることから修正が難しい為,車両本体のフロント廻りの状況を探るには欠かせない重要な部位であると言え,ステムベアリングの交換における付随的な点検箇所というよりも,むしろフレームの歪み等を探る手がかりとして積極的に調査すべき部位であると言えます.

図2.4 ハウジングに取り付けられた新品のステムベアリング
 図2.4は新品のステムベアリングを点検洗浄したハウジングに取り付けた様子です.これにより重量のある旗艦を正確に支持する性能が回復しました.

図2.5 車体に取り付けられたステアリングステム
 図2.5はステムシャフト及びアンダーブラケットをステムハウジングに取り付けた様子です.同時にステムナット及びダストカバーを新品に交換し,機能だけでなく光沢の美しさが際立つ通り,見た目の美しさの回復も図りました.トップブリッジやハンドル等に囲まれ,カウルを取り付けた最終的な姿になった場合にステム廻りが外部から見える部位は少ないと言えます.しかしだからこそ逆に部品のすき間から見えたステム廻りが光っていれば,それだけでかなり印象が異なるのです.

図2.6 車体に取り付けられたステム及びフォーク
 図2.6はステム廻りを組み付け,正確な立てつけでフォークを取り付けた様子です.一見成るようにしか成らないと思われがちなフロント廻りですが,実際には正確に取り付けられていない中古車が見られます.したがって,メガスピードでは特に素性の分からない中古車に対して,より正確な立てつけを常に意識しています.

図2.7 整備の完了したフロント廻り
 図2.7は整備の完了したフロント廻りの様子です.実際に走行し,ステアリング操作が非常にスムーズになっていることが体感できました.これは同時に整備したフロントフォーク ※2 の影響も無視できませんが,ベアリング交換による回転部のロス低減によるものが大きいと言えます.


【考察】 
 排気量が大きくなると車重も重くなることから,特に車両を持ち上げなければならないフロント廻りの整備がおろそかになりがちです.特にステムベアリングは車枠を支持しなければならない為,その整備頻度が著しく悪い部位であると言え,手入れがされていない車両の多くは錆が発生したり打痕を生じたりしていて,操作感が完全にスポイルされているケースが多く見られます.しかし重量のある大排気量の車両こそ負荷のかかるステムベアリング類は尚一層の点検整備が求められると言え,理想と現実の乖離が見られる特徴的な部位と位置付けられます.特に旗艦であるモデルなら高速時の直進安定性が求められる為,それに応じた足廻りやハンドリングを維持すべきであるのは今更述べるまでもないことです.そしてステムベアリングの交換時期は,やはり走行距離と経年を考慮しなければならず,その頃にはスイングアームのピボット部等のベアリングも同等の状態に劣化していると言え,同時に包括的にリフレッシュしておくことが大切です.


※1 定位置における長期保管がもたらすステムベアリングの打痕と錆による操作性の低下について
※2 
ダストシールに発生した亀裂とフォークオイルの交換時期について





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