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事例:S-88

ダストシールに発生した亀裂とフォークオイルの交換時期について

【整備車両】 
 GSX1300RY (GW71A) "HAYABUSA" 隼 (ハヤブサ)   年式:2000年  参考走行距離:約25,000km
【不具合の状態】 
 ダストシールに亀裂が発生していました.
【点検結果】 
 この車両はオイル漏れは発生していないものの,ダストシールに亀裂が入っていた為,経年劣化が生じていると判断してステアリングステム廻りの整備
※1 やサスペンション一式を含めたフロント廻りを整備したものです.
ここではフロントフォークの整備について記載します.

図1.1 排出されたフォークオイル
 図1.1はトップキャップを取り外して最初に排出したフォークオイルの様子です.著しい汚れは見られないもののオイルは変色していました.

図1.2 濁りの生じているフォークオイル
 図1.2はアウターチューブを取り外して排出した際のオイルの様子です.底部に堆積していたオイルからは著しい汚れが確認できます.一見オイル漏れがなく正常と見られがちなサスペンションですが,実際に内部を確認すればこの様に底部が汚染されているケースが少なくありません.つまり外観から内部を把握することは不可能であるということです.

図1.3 比較的きれいなインナロッド内部のオイル
 図1.3はインナロッドを取り外して内部のオイルを排出した様子です.排出されたオイルの中では一番汚れが少ないと言えます.

図1.4 衰損しているオイルシール
 図1.4はアウターチューブに残っているオイルシールの様子です.オイル漏れは発生していないもののシールの張りが失われ弾力性も低下していることが分かります.

図1.5 分解された倒立式フロントフォーク
 図1.5は分解した倒立式フロントフォークの様子です.スプリングの自由長や損傷,メタル,ワッシャ等の構成部品を個々に点検し,基準に満たないものは新品に交換しました.

図1.6 亀裂の生じているダストシール
 図1.6は数か所にわたり亀裂が発生しているダストシールの様子です.中古で購入されたものなので過去の整備記録は残っていませんが,ダストシールに亀裂が発生していることから長年サスペンションの手入れがされていなかったと推測されます.


【整備内容】
 
 消耗品であるオイルシールやそのストッパリング,ダストシール,ボルト等を新品に交換し,オイルも指定を使用することによりサスペンションのデフォルトを図りました.

図2.1 修正研磨されたオイルシールハウジング
 図2.1は多少接触面の荒れていたオイルシールハウジングとストッパリング溝を中心に洗浄した様子です.オイルシールとの接触面を滑らかにするとともに,ゴミの堆積していたストッパリングハウジングを可能な限り洗浄しました.

図2.2 新品の各ヘッドライト構成部品
 図2.2は左から新品のバックアップリング,オイルシール,ストッパリング,ダストシールを撮影したの様子です.バックアップリングとストッパリングは手入れをすれば再使用可能な状態でしたが,ともに新品に交換し,特にストッパリングはその役割に万全を期しました.

図2.3 修正研磨されたインナーチューブストローク部
 図2.3は汚れていた保持部を洗浄しインナーチューブのストローク部を修正研磨した様子です.分解した段階でオイル漏れは発生していませんでしたが,詳しく見れば細かな傷が発生していたため,可能な限り修正研磨することによりオイル漏れの防止を図りました.

図2.4 オイルのエア抜き
 図2.4は新品のスズキ純正フォークオイルL01を入れエア抜きをしている様子です.新品のオイルの状態は透明に近くサラサラしています.特にインナロッド内部のエアを重点的に抜き取ることにより適切なオイルの流入・流出を図ります.

図2.5 特殊工具の使用によるスプリングの圧縮
 図2.5は特殊工具を使用してスプリング及びカラ―を圧縮し,インナロッドのナットの位置を調整している様子です.GSX1300R (GW71A) は重量から見ても,それに見合ったスプリングが設定されているため,中型の倒立サスペンションのばねに比べて人力では圧縮不能なくらい反発力が強いことから,作業の際には安全を確保した上で正確に圧縮する必要があります.

図2.6 取り付けられた新品のダストシール
 図2.6は新品のダストシールをアウターチューブに取り付けた様子です.これは外部からホコリや小さなゴミの侵入を防ぐだけでなく,次回の手入れ時期を決める為の基準をリセットしたという2つの大きな効果があります.

図2.7 車体に取り付けられた分解整備した倒立式フロントフォーク
 図2.7はオーバーホール(overhaul)の完了したサスペンションを車体に取り付けた様子です.今回の整備では同時にステムベアリングを交換し,足廻りのリフレッシュ及び初期化を図りました.特に減衰力が伸び側と圧側の両方で調整できるフォークの場合,中古車ではセッティングが狂っている場合があるため,一度基準にリセットしておくことが今後のライディングの指標になるといえます.


【考察】 
 倒立式のフロントフォークの場合,ダストシールを交換する為にはアウターチューブを外さなければならず,フォークを分解する必要があることから,正立式のそれに比べてダストシールだけ交換されてぱっと見では外観だけ良くなっているといった誤魔化しができません.したがってダストシールに亀裂が発生している状態は,確実に数年経過していると考えるのが自然であり,その場合は当然フォーク内部の状態も同様である可能性が高いと読む必要があります.というのも,正立式の様にトップキャップだけ取り外して内部のオイルを交換するという方法は,倒立式の場合には構造上出来ない場合が少なくない為,倒立式のフォークは正立式と比較して手入れがされていないケースが多いのが現状です.
 今回の事例でもダストシールに亀裂が入っていた為,内部の状態も同様であると推測して分解整備しました.フォーク上部のいわば上澄み部分のオイルは比較的きれいでしたが,やはり底部のオイルは汚れが著しい為,オリフィスやバルブをオイルが正確に往来することができなくなり,それはフィーリングに直接影響を及ぼします.やはりダストシールがダメになってきている場合は包括的な内部の整備が必要になり,特に1300ccという大きな排気量を支える足廻りであれば,尚更気を配る必要があるといえます.


※1 旗艦クラスのステムベアリング交換時期について





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