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雨水の侵入によるミラー可動部の固着について


【整備車両】

RG250EW (GJ21A) RG250Γ(ガンマ)Ⅰ型  推定年式:1983年  参考走行距離:約7,500km


【不具合の状態】

ミラーが固着していて、ライダーの意図する任意の位置に傾けられない状態でした。


【点検結果】

この車両は他店で購入されたものの、ミラーが固着していて動かせないということでメガスピードに持ち込まれました。

点検すると、ミラーを保持する軸受が固着していて、全く動かない状態でした。

この固さからもしこのミラーを生かすのであれば、

オーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)が必要であると判断しました。

通常ミラーはASSY扱いなので分解せずに丸ごと交換になりますが、

すでに絶版なので新品を取り寄せることができません。

したがって中古を使用するという選択肢が考えられますが、30年近く経過した中古のミラーを取り寄せても、

結局それが使用可能か点検整備しなければ使用できません。

またそれ以上にお客様からこの純正ミラーを使用されたいという強いご希望があったので、

現在ついているミラーを再生することになりました。



図1、可動部の固着した右ミラー

図1は車両から取り外した固着している右ミラー外観です。

上部に傷があり全体的に色あせが起きていました。

樹脂の部分は表面が劣化してボロボロしていたものの、素材そのものはまだしっかりしていました。




図2、錆で固着している連結部

図2はミラーを取り外し内部の状態を確認している様子です。

ナットとスプリング、スプリングシートは錆で完全に固着していました。

錆の程度から長年雨ざらしの場所に保管されていたのではないかと推測できます。

またミラーの取り付け枠が表面劣化により塗装がはげ落ち白くカサカサになっていることが分かります。



図3、錆で固着しているスプリングシート

図3は錆で固着しているスプリングシートとミラーケースの様子です。

ナットとスプリングを取り外しても通常の力では全く動かず、完全に固着していました。



図4、錆びた鉄粉に塗れたスプリングシートハウジング

図4はスプリングシートを取り外しその下部を点検している様子です。

シートから出た錆が周囲に付着し摩擦力が増大したことにより、

可動部が固着していたと考えられます。



図5、固着していた連結部

図5は固着していた連結部のミラー取り付け側の様子です。

図4のシートハウジングと同様に錆の粉が可動部に堆積していて摩擦を増やし、固着につながったと考えられます。



図6、錆びているスプリングシート、スプリング、ナット

図6は錆びて固着していたスプリングシート、スプリング、ナットの様子です。

長年雨風にさらされていたことにより、これだけ金属部が錆びてしまい、部品そのものだけでなく、

周囲に錆びた鉄粉を放出しそれが可動部の固着をもたらしたといえます。


【整備内容】

可動部の金属部品が錆で固着していたことから、まずそれらの部品の再生から行いました。

図7、錆取りを行い点検整備の完了したスプリングシート及びスプリング

図7は錆取り及び点検洗浄の完了したスプリングシート及びスプリングの様子です。

錆がひどかった為に錆取りにより部分的に肉がえぐれてしまった箇所がありますが、

機能に影響するものではなく、スプリングは十分にストロークする余裕があり、

シートも目立つ損傷がないことから再使用しました。



図8、錆取りの完了したスプリングシート裏側

図8はシートとハウジングの接触面の様子です。

錆取りにより錆が溶けた分ぽつぽつ部分的に肉が減っていますが、大きな段付き等はなく、

再使用可能と判断しました。



図9、清掃、塗装された可動部の接触面

図9は可動部の接触面を滑らかにした上で塗装した様子です。

これにより節度あるミラーの動作の回復を見込みました。



図10、整備、連結された可動部

図10は新品のセルフロックナットを取り付け可動軸とミラーホルダを連結した様子です。

スプリングの張りがある為に、もともと取り付けられていた通常のナットを使用しても問題ないと判断できますが、

頻繁に分解整備される箇所でないことからなるべく機能を維持する期間を長くする為にセルフロックナットを使用しました。

また錆を防止する為にウォータレジスタンスグリスを塗布しました。



図11、コーキングされたミラーはめ込み部

図11は雨水の浸入を最小限に抑える為に、ミラーとはめ込み部のすき間をコーキングした様子です。

ミラーとケースのすき間はわずかですが、そこをしっかり防水対策しておかないと、

長年雨風にさらされれば水分の侵入を許します。


純正ではミラーとケースのすき間に対する防水対策は何も取られていませんが、

新品であれば密着度も高く、防水性も問題ないかもしれません。

しかし30年近く経ったものであれば、歪み等ですき間が生じ、そこから雨水が侵入するのはむしろ自然であるといえます。



図12、オーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)の完了した右ミラー

図12はオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)の完了した右ミラーの様子です。

ガラスの合わせ面の防水処理やハウジングの塗装、可動部金属のグリスアップ等を行い、

長期にわたり性能を発揮し、見た目も美しく仕上げました。




図13、塗装された右ミラー外観

図13は塗装されたミラーの外観です。

図1との比較で明らかですが、ミラーは雨風、紫外線等を受ける環境に長年置かれると、

素材の劣化により表面がカサカサになるだけでなく、

色あせ等が生じ外観が著しく見苦しくなる場合が少なくありません。

ミラーはマスキングしても、淵等は厳密にいえばテープの厚みの分塗り残しが発生します。

やはりオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)の際にミラーを外したのであればハウジング単体で塗装を行い、

きれいに仕上げる必要があります。

また可動部も分離しないと構造上確実に塗り残しが発生します。

この点も、オーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)の際に分離したのであれば、

塗装しておくことが望ましいといえます。

塗装は見た目の美しさはもちろんのこと、ミラー本体を保護する為にもなります。


【考察】

ミラーは車両を構成する中で最も外側に位置する部品の一つです。

その為、太陽光線や雨風等の影響を受けて非常に劣化しやすい部品であるといえます。

今回の修理でお預かりした際の車両の走行距離はメータ読みで約7,500km程ですが、

この事例の様にすでに発売から30年近く経過した車両のミラーは走行距離にかかわらず固着している割合が高く、

またかなりのケースで色あせが発生しています。

それだけならまだしも、レンズが割れていたり、ミラーそのものが破損しているものも少なくありません。

固着していた場合は無理にミラーを動かそうとすれば、ミラーそのものを破損させるばかりでなく、

取り付け部分にてこの原理で大きな外力が加わり損傷させます。

特にアッパーカウルが共締めになっている場合はカウルのひび割れや損傷に直接結び付きます。

やはり無理をせず、不具合のある場合はすみやかに整備される必要があります。



この事例では純正ミラーがすでに絶版であったことや、

やっと当時憧れていた初期ガンマを入手したのでガンマオリジナルのスタイルを維持されたい、

というお客様のご要望に応じてミラーをオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)しました。

通常は丸ごとASSY(アセンブリ)で新品に交換される部品ですが、

メガスピードではその技術で可能な限りオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)を行い、

様々なご要望に対応させていただきたいと考えております。



今回記載したのは右側の修理事例ですが、実際の車両は両側のミラーが固着していました。

またこの事例ではミラーが固着するといった不具合を取り上げましたが、

別のお客様の車両ではミラーの可動部が緩んで走行中にミラーが傾いてしまうといった不具合が発生していました。

ミラーといえども使用された経緯や環境等で全く別の症状が発生します。

やはり古い車両のミラーであれば、

一度オーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)を行っておくことが望ましいといえます。





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