ハブカラーが無いことによるリヤ廻りからの異音について |
【整備車両】
RG400EW (HK31A) RG400Γ(ガンマ) 1型 年式:1985年 参考走行距離: 9,100 km |
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【不具合の状態】
車体を起こしたりする時にリヤ廻りから骨の軋む様なギシギシという異音が発生していました. |
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【点検結果】
この車両は様々な不具合が発生していた為,お客様のご依頼を承りメガスピードにて各部の点検整備を実施したものです.リヤブレーキホースの配管が見苦しい ※1 等の不具合がありましたが,今回の事例ではスタンドをかけた状態で車体を水平に起こしたりする時に,ギシギシ,ミシミシという骨のきしむ様な異音が発生していたことについて記載します.聴診器で各部に棒を当てて異音を聴き比べると,特にリヤサスペンション取り付け下部から音が響いていました.
異音の発生部を絞る為にサスペンションリンク部やサスペンション,スイングアームその他各部を点検し,最終的にリヤホイールのアクスルナットを強く締めると異音が増大し,緩めると減少するという現象を確認した為,リヤホイール廻りに不具合があると判断しました. |
図1.1 削れて凹凸の発生しているホイールベアリングハウジング |
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図1.1 は取り外したリヤホイールからハブおよびダンパを取り外した様子です.驚くべきことに黄色の矢印で示した部位がかなり削れていて,本来あるはずのハブカラーが装着されていませんでした. |
図1.2 削れて凹凸の発生しているハブベアリングハウジング |
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図1.2 はハブ側の様子です.赤い矢印で示した部位がかなり削れていました.これは図1.1 の削れている部位と直接接触した為に削れてしまったものであると推測されます. |
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【整備内容】
ハブカラーが無い状態だったので,新品のカラーを取り寄せ組み付けました. |
図2.1 は新品のハブカラーの様子です.この車両はリヤホイールがKAWASAKI (カワサキ)のZRXに交換されている状態で購入されたということをお聞きしていた為,まずはZRXの部品を調べることから整備を開始しました.すると,初期モデルから最終型までハブカラーの品番が同一であることが確認でき,またメーカーに在庫が存在することから新品を取り寄せることができました. |
図2.2 はハブにカラーを取り付けた様子です.上段の赤い矢印と下段の矢印の差が高さの差に相当し,この差がハブ側とホイール側のハウジングが直接接触するのを防ぎます. |
図2.3 はハブカラーを取り付けたホイールを車体に取り付け,異音の消えたリヤ廻りの様子です.赤色楕円の部位にハブカラーが収まっています.実際に試運転を行い,問題がないことを確認して整備を完了しました. |
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【考察】
今回の事例ではハブとホイールが直接接触することにより骨のきしむ様な異音が発生していました.一見取り付け位相が決まっているように見えますが,実際にはゴムのダンパが介している為,圧縮伸長の運動が発生し,その時にハブとホイールが接触していたものであると考えられます.この様な事態に陥ったのはハブに本来あるべきはずのカラーが取り付けられていないことでした.車両はホイールがZRXに交換されていましたが,作業した人間が入れ忘れたか,あるいは構造を知らないような無知によるものであると考えられます.
この事例ではたまたま新品が入手できたからスムーズに整備が進みましたが,もし絶版であればカラーを製作するところから始めなければなりませんし,製作するにも元になる寸法が不明なのでその段階からつまずくことになります.本来あるべきものが無いという事態はそれほど緊張感をもって臨む必要があります.
世の中カスタムと称して安易に他車種の部品を取り付ける流れがありますが,メーカーの設計者以上の脳が無い限りはバランスを崩したりデチューンになることは必至です.この車両の様にホイールを換装するにしても,作業時にハブカラーが無い時点でおかしいと気づかなければなりません.
特にRG400Γ(HK31A) はカスタムと称して素人整備されたグチャグチャになった哀れな車両が数多く存在する為,今回の様な事例に遭遇する危険性があります.そして不幸にもその様な車両を購入してしまった場合は,現物に合わせて対処するしかないのです.
しかしバイクはユーザーが気軽に整備したり社外品に部品交換したりして楽しめる点も無視できません.したがって何でもかんでもグチャグチャにしてしまうのではなく,あくまで己の技量の範囲内で,少なくとも機械的に正しいといえるレベルでカスタマイズすることが望ましいと言えます. |
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