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事例:S-102

不適切な燃料タンクドレインホースの取り付けによる車両火災の危険性について

【整備車両】 
 RG400Γ (HK31A) RG400EW  年式:1985年  参考走行距離:約15,200 km
【不具合の状態】 
 燃料タンクとコックを接続するホースが抜かれていたり,ドレインホースの配置が滅茶苦茶な状態でした.
【点検結果】 
  この車両はカスタムショップという他店で燃料漏れが直らない
※1 ということで,メガスピードにて整備を承ったものです.今回の事例では燃料タンクの滅茶苦茶にされたドレインホースについて記載します.

図1.1 滅茶苦茶なホーシングをされたタンク裏側➀
 図1.1は車体から燃料タンクを持ち上げた様子です.バッテリのフタが浮き上がる ※2 等,当該車両は驚愕の連続でしたが,今回の事例でも尋常ではない雰囲気が漂っていました.
 図の黄色のAのホースは出口が結束バンドで縛られていて,燃料コックにしか接続されていない状態でした.ホースを途中で縛るということがすでに“緊急事態発生”のような印象を受けますが,Bのホースに関しては宙ぶらりんになっていて,完全に外れていました.どこをどうすればこうなるのか理解に苦しむところですが,やはり目の前の現実を受け止めなければなりません.

図1.2 滅茶苦茶なホーシングをされたタンク裏側②
 図1.2は燃料タンクを取り外して単体で状態を点検している様子です.図1.1と同じように黄色のAは出口が縛られているホースで,Bは宙ぶらりんになっているホースです.Cのホースは唯一正常であり,Dのホースは本来燃料コックと接続されていますが,これはどこにも接続されていない状態でした.
 まず機能について,Aのホースは本来Dのホースの取り付け口と接続されていて,燃料タンク内部最上部のパイプ口からあふれた燃料がコックに流れる仕組みになっています.これは燃料タンクに燃料を入れ過ぎたときに,タンクからあふれる前にコック側に送る役割があります.
 次にBのホースですが,これはガソリンキャップ口の脇にある穴とつながっていて,キャップの外にこぼしたガソリンや,雨水がタンク内部へはいらないように,穴からホースを通って外部に排出する役割を担っています.本来車体下部まで伸びて,そこで排出しなければなりませんが,このホースは宙ぶらりんになっていて,タンク下のエンジンの上に落下している状態でした.これは非常に危険であり,給油しようとしてキャップ脇にこぼしたガソリンがそのままエンジンの上に落下する状態です.車両火災につながりかねません.
 次にCのホースですが,これは燃料残量計のフロートセンサーのパッキンからガソリンが漏れたときに,このホースを通って車体下部に排出するようになっています.唯一これだけがまともでした.
 Dのホースはそのまま出口が下にある為,もし燃料を給油しているときに気付かなければ,満タンになり切らないままこのホースから燃料が下に漏れ続けることになります.

図1.3 出口のふさがれたホース
 図1.3は結束バンドにより出口の縛られたホースの様子です.本来タンク内最上部からのパイプとつながっていなければなりませんが,これは外れている上,コック側から伸びてきた末端が図の様に結束バンドで縛られていました.縛った理由は燃料コックから逆流してくるガソリンが漏れないようにするためだと推測されます.燃料漏れが直らないのでこの様な苦しい対策をしてみたのか,あるいはカスタムショップと称する他店が入手する前からこうなっていたのか,それは分かりません.
 しかし他店でバッテリを新品にしたということですから,少なくとも燃料タンクは外されていることになります.なぜならRG400Γのバッテリは燃料タンクを外さなければバッテリ交換どころか見ることすらできないからです.その際にホースがこうなっていたのに気付かなかったのか.あるいは気づいても無視したのか.それともこれは新手のカスタムの一つなのか.

図1.4 不適切な燃料コックホース部
 図1.4は燃料コックに最後までホースが差し込まれていない上,結束バンドとクリップという統一性の無さだけでなく,結束バンドのベロがカットされずそのままの状態になっている非常にだらしない様子です.
 ➀ ホースがきちんと奥まで差し込まれていない
 ② 片側が結束バンドで片側がクリップ
 ③ 結束バンドのベロがカットされていない
という3連コンボを喰らった感じがしますが,まだまだこれでKOされるわけにはいきません.

図1.5 錆だらけのコックとタンクの接続部
 図1.5は取り外した燃料コックの様子です.結果的にタンク内部の錆が今回の燃料漏れの大きな原因であり,それを裏付けるようにコックの取り付け部が錆だらけになっていまいsた.またフィルター上部が大きく潰れて曲がっていました.


【整備内容】
 燃料コックはOFFの状態でも漏れが発生していたので新品に交換しました.またタンクのドレインホースはすべて新品に交換し適切な取り付け位置に設置しました.

図2.1 新品の燃料コック
 図2.1は新品の燃料コックの様子です.フィルターも同時に新品になることによりタンク内の錆をまずこの部位である程度ろ過することが可能になります.

図2.2 ユニバーサルジョイントの取り付け
 図2.2は新品の燃料コックに取り外した燃料コックからユニバーサルジョイントを取り外し,新たに移植している様子です.RG500/400Γは燃料コックを新品にしてもユニバーサルまで付属されない為,このようにピンを圧入して移植しなければなりません.

図2.3 移植されたユニバーサルジョイント
 図2.3は新品の燃料コックに点検洗浄されたユニバーサルジョイントを移植した様子です.

図2.4 整備の完了した燃料タンク下部
 図2.4は各ホースを正しく取り付け,新品の燃料コックに交換された燃料タンク下部の様子です.黄色のAが結束バンドで縛られていた部分です.本来このようにタンクとコックを結んでいます.これは燃料タンクの内側の一番上にパイプの口があり,燃料を入れ過ぎたときに,キャップから噴き出す前にAのホースを通ってコックに行く通路になります.
 次にBのホースは,タンク上側の燃料キャップのわきにある穴から続いているパイプの通路になります.これは燃料をタンクに入れる際ににキャップ周りにこぼしたとき,それが流れ込み,Bのホースを通って車両下側に排出されます.また雨水などがキャップにかかったとき,タンク内部に行かず,やはり脇の穴を通って車両下側に排出されるようになっています.
 最後にCのホースは,燃料計のフロートセンサが燃料漏れを起こした場合に,このホースを通って車両下側に燃料が排出されるようになっています.
 このようにあふれた燃料の排出経路が確実になっていれば万が一の時に安全であり,安心です.

図2.5 燃料コックに確実に取り付けられたホースおよびクリップ
 図2.5は燃料コックに新品の燃料ホースを取り付けた様子です.また抜け止めのクリップも同時に新品にしたことにより,機能だけでなく見た目の美しさも取り戻すことができました.この状態を見れば,図1.4の状態がいかに不適切であるか理解できるはずです.ホースは最後までしっかり差し込まなければなりません.


【考察】 
 燃料タンクには燃料漏れした場合の排出ホースが取り付けられているモデルがあります.RG500/400Γの場合,
 ➀ 燃料の入れ過ぎ時にタンク内上部の入口からパイプを通って下部に排出されるホース
 ② 燃料注入口からこぼれた燃料がタンク外部の上にある入口からタンク内を通過するパイプを通って下部に排出されるホース
 ③ 燃料残量メーターのフロートセンサーの付け根から燃料が漏れた場合に,タンク底部から排出されるホース
の3本が設置されています.どれも正確に配管する必要があり,特に②のホースを誤ってコックに取り付ければ,雨水が直接燃料タンクに入る経路ができます.そうなれば比重から底に沈んだ水分がタンクを錆びさせるだけでなく,キャブレータに流れ込めばエンジン停止に至ります.もちろんこの事例の様にコックからのホースを途中で結束バンドで縛ることは許されませんし,②のホースが短ければ,出口から排出された燃料がエンジンやチャンバの高温部にかかり車両火災を引き起こす可能性があります. 確かにこのタンクのドレインホースは本数と配置が複雑ですが,ひとつずつ確実に整備しなければならないのはこの為です.また燃料ホースをはじめ,各ホースを取り付ける際には特に断りがなければ,きちんと最後まで差し込まなければなりません.そのような正確な整備ができてこそ,初めてカスタムという選択肢が見えてくるものです.


※1 フィルターの破れによりフロートバルブに挟まった錆によるキャブレータからの燃料漏れについて
※2 
取り付け不良によるフタの浮き上がった密封式バッテリについて





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