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事例:S-96

オーバートルクによる締め付けで曲がったタンク固定ボルトステーについて

【整備車両】 
 R1-Z (3XC) 3XC1  推定年式:1991年  参考走行距離:約15,200 km
【不具合の状態】 
 燃料タンクを固定するボルトのステーが曲がっていました.
【点検結果】 
   この車両はメガスピードで整備を承る前に他店でヘッドガスケットおよびピストンリングを交換したとされるものです.当社で点検したところリザーバタンクには全く冷却水が入っておらず,ラジエータにもキャップ口元付近は冷却水が無い状態でした
※1 これではオーバーヒートに陥る危険性があります.その他各部に異常が見られましたが,今回の事例では,曲がっていたタンク取り付けステーについて記載します.

図1.1 曲がっているステー
 図1.1は曲がっているタンク取り付けボルトの台座であるステーの様子です.R1-Zではかなりの高確率でこのステーが曲がっています.またボルトの取付部に回転傷があることが分かります.

図1.2 曲がっているステー
 図1.2は曲がっているステーを横から見た様子です.ボルトを強く締め付け過ぎたことにより,ボルト部が凹み,その周囲が反り返っています.機能だけ考えれば全く問題ありませんが,見た目が悪く,もし自分のバイクがこの様になっていたら,一秒でも早くこの部品を新品にしたいと思います.そして自分がそう思うのであれば,お客様にも同じ様にすべきであるという結論に至ります.


【整備内容】
 新品がなければステーを加工して元に戻す必要がありますが,今回は部品供給がまだあった為,ボルトと一緒に新品に交換しました.

図2.1 新品のタンク取り付けステー
 図2.1は新品のタンク取り付けステーの様子です.当然ですが,新品は図の様に水平です.

図2.2 タンクに取り付けられた新品のボルトおよびステー
 図2.2は新品のステーを新品のボルトで固定した様子です.同時にタンクも磨き,可能な限り白の美しさを取り戻しました.“シートで見えなくなる部分も綺麗になっているということを知っている”ことにより精神衛生面からも非常に気分良くバイクに乗ることができるようになりました.
 シートを取り外した瞬間に曲がったステーが目に入るのと,この様に美しい状態が見えるのでは気分に天地程の差が出ます.ライダーが人である以上,常に人が主であり人の目線で物事を考える必要があります.例え機械的に完璧な構造物があったとしても,人を無視したものであれば何の意味もないことです.


【考察】 
 発売が1990年頃であることを考えれば,複数のオーナーがタンクを脱着する際に,いづれかの段階でボルトを締め過ぎた経緯がただ一度でもあれば,その車両のタンク取り付けステーはこの事例の様に必ず曲がっています.そして個人的な経験的見解を述べるのであれば,非常に多くの車両がその様な事態に陥っています.

 確かに法令を順守して無茶な運転をしなければ,事故や転倒が無い限り,例えボルトを締めずに車両を運転してもタンクが外れることはありません.それはタンクを取り付ける段階ですでにイグニションコイル上部2か所とバッテリ前の計3か所の位置決にタンクを嵌め込む構造になっているからです.しかし設計上ボルトがあるように,ボルトでタンクを固定すれば万が一の際にもタンクが外れることはなく安全性は保たれます.だからと言って不必要に強いトルクで締め付ければ,この事例の様にステーは容易に曲がります.したがって,目的と用途を正しく理解・把握し,その為に必要なトルクで正確に締め付けることが,部品を長持ちさせる上で非常に重要になるのです.


※1 空になったリザーバタンクとラジエータ内の冷却水不足によるオーバーヒートの危険性について 





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