事例:S-73
ワイヤの劣化及びリターンスプリングの錆によるタンクロック解除操作後の戻りの悪化について |
【整備車両】
RG400EW-2W (HK31A) RG400Γ(ガンマ) 2型 年式:1987年 実走行距離:約1,200km |
【不具合の状態】
タンクロックを解除してもキーが自然に戻らず,ライダーが手で戻す必要がありました. |
【点検結果】
この車両はお客様が10年程度の長期保管されている間に始動不能に陥ったものですが,
各部を点検した結果,エンジン始動不能以外にも様々な不具合が見つかりました.
今回の事例では,車体廻りを目視点検した際に発見したタンクロックの不具合の中でも,
キーシリンダ廻りについて記載します.
図1.1 錆の発生しているリターンスプリング及び劣化したワイヤ |
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図1.1は車体から取り外したタンクロックを解除するためのワイヤとそれを動作させるためのキーシリンダ廻りの様子です.
ワイヤを引くために回転させたレバーを戻す機能を担うリターンスプリングが錆により動きが悪くなっているだけでなく,
ワイヤケーブルそのものの経年劣化による錆や内部抵抗の増大により動きが渋くなっていました.
図1.2は分解したキーシリンダ廻りの様子です.
左からキーシリンダ,レバー,ワッシャ,リターンスプリング,Eリングとなっており,
金属部品はすべて腐食や錆が発生していました. |
【整備内容】
キーシリンダはASSY扱いであり,部品単体での供給がないため,
今回の事例では各部品を細部まで点検し,再使用可能と判断して,そのための整備を実施しました.
図2.1 防錆研磨されたキーシリンダ廻りの構成部品 |
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図2.1は錆を除去し,防錆・研磨処理を実施したキーシリンダ廻りの部品の様子です.
Eリングは当社で在庫していた新品を使用し,残りのワッシャやリターンスプリング及びレバーは,
錆を除去してから全体的に研磨して光沢を取り戻し,防錆処理を施して再使用の準備を行いました.
図2.2は再生させた構成部品を組み立て,新品のワイヤを取り付けた様子です.
ワイヤによって引かれたレバーを元の位置に戻す動作が滑らかになっただけでなく,
キーシリンダ内部への潤滑改善により,キーを差し込む段階から回す動作まで,
一連の動きが非常にスムースになりました.
図2.3 車体に取り付けられた整備されたキーシリンダ廻り |
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図2.3は車体に整備したキーシリンダ廻りを取り付けた様子です.
取り付けに使用されるフランジキャップボルトも新品に交換し,外観の美しさも取り戻すことができました.
このボルトは車両外側からは見えにくい位置にありますが,
やはり錆や腐食が発生していた場合はすみやかに新品に交換されることが求められます. |
【考察】
この車両は何らかの原因によりタンクロックが歪んでロック解除が困難な状態 ※1 でした.
しかしそれとは別に,長期間動かされていない機械的部品は,例え新車からの走行距離がわずかであっても,
経年劣化や錆による摩擦抵抗の増大で動きが悪くなっている場合が少なくありません.
したがって,リンクされている部位であれば包括的に整備が行われる必要があり,
今回の事例においては,タンクロックとそれを連結しているワイヤ,キーシリンダ廻りという3点すべてを整備しました.
やはり一か所でも見ていない部位を残してしまえば,
性能が回復されない場合には,結局は残りの部分がやり直しになります.
そうであれば,少なくとも発売から25年程度経過しているものであれば,
総合的にトータルの視点で取り組まなければなりません.
つまり動かすところ,動かされるところ,そしてそれらを連結しているところ,という具合に,
必ず部品はセットで成り立っています.
ブレーキでいえば油圧をかけるところ,伝達するところ,受け止めるところ,
あるいはキャブレータでいうのならば,燃料を送るところ,
取り入れるところ,保持するところ,排出するところ,といった具合です.
当社の今までの事例でいえば,一か所状態が悪い場合は決まって他の部位もダメになっている場合が多く,
やはり大切に,そして安全に乗るのであれば,それらへの合算的な投資を惜しむ選択の余地はないのです.
乗っていて安心が一番良いことです.
不安箇所を残したままでは楽しむことはできません.
そのためにも,メガスピードでは整備技術者が総合的に車両を診断し,整備を実施してまります.
※1 “金属プレートの歪みによるタンクロックの解錠困難について”
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