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事例:S-72

金属プレートの歪みによるタンクロックの解錠困難について


【整備車両】

 RG400EW-2W (HK31A) RG400Γ(ガンマ) 2型  年式:1987年  実走行距離:約1,200km


【不具合の状態】

 タンクロックが変形して解錠が困難な状態でした.


【点検結果】

 この車両はお客様が10年程度の長期保管されている間に始動不能に陥ったものですが,

各部を点検した結果,エンジン始動不能以外にも様々な不具合が見つかりました.

今回の事例では,タンクロックが解錠しにくい不具合について記載します.



図1.1 歪んでいる金属プレート

 図1.1はタンクロック部品の金属プレートが歪んでいる様子です.

歪みが内部のフックの動きを途中で止めてしまう為に完全に開き切らず,

タンクがひっかかって取り外す抵抗になっていました.



図1,2 脱落していたワッシャ

 図1.2はタンクロックをフレームから取り外して合わせ面を確認した様子です.

フレームの上に,タンクロックの金属プレートと樹脂をカシメてあるワッシャが脱落していました.

また長年の取り付けによる汚れがフレームに発生していることが分かります.



図1,3 歪んだタンクロック

 図1.3はフレームから取り外したタンクロックの様子です.

左側の歪みはわずかですが,右側のロック部分の金属プレートが上側に大きく歪んでいることが分かります.

黒矢印で示したAの部分が最も歪みが大きく,その為にロックを解除する際に動くツメが引っ掛かってしまい,

大きな力を加えなければ移動しない状態になっていました.

また黄色楕円Bの部分は取り付けスクリュの座面の樹脂がエグレたものであり,

これはタンクが取り付け時に干渉したことが原因で破損したと推測することができます.



図1.4 抜けかけているピン

 図1.4は金属プレートを斜め横から見た様子です.

プレートが大きく歪み,樹脂部と連結しているピンが上に引き抜かれてしまっていることが分かります.

これは最大で黒矢印で示した長さL分だけプレートが上に持ち上げられたことを表しています.

すなわちここで重要なのは,金属プレートをカシメてあるピンをそれだけの距離移動させた外力が何であるかということです.

通常の使用ではこの様に極端に金属が歪むことはあり得ません.

したがって,この様な歪みを発生させるシチュエーションを推測すれば,

それは何らかの原因でタンク側のストライカがタンクロックに噛み込んでしまった為,

無理やり外そうとした際に歪めてしまったものであると考えられます.



図1,5 ワッシャの脱落したタンクロック裏側

 図1.5は取り外したタンクロック裏側の様子です.

黄矢印で示したbはピンがカシメられており,いわゆる抜け止めが取り付けられた状態です.

わずかに歪んでいるものの,機能としては問題ない程度であると言えます.

それに対してプレートが歪んでいたaの側は,本来あるはずのカシメワッシャが脱落し,

ピンが奥(上側)に移動していることが分かります.



図1,6 取り外したタンクとそのストライカ

 図1.6はタンクロックに嵌め込まれるタンク側のストライカの様子です.

大きな変形や歪み,腐食その他異常は見受けられず,タンク側に不具合の原因はないと判断することができます



【整備内容】

 金属プレートの歪みが著しいことから,新品に交換することで整備を進めました.

またキーシリンダ周囲を分解整備することにより戻り性能の回復を図り,更にワイヤーを新品に交換しました.



図2.1 新品のタンクロック

 図2.1は新品のタンクロックの様子です.

品番変更になっていて,細部で形状が変わっていました.

まずワイヤのタイコを引っ掛けるフック【hock】の材質が樹脂製からアルミニウム合金製に変更されていることが分かります.

樹脂部分は力が継続的にかかる場合はもちろんのこと,経年劣化により破損するため,

材料としては改良されたと捉えて良いと言えます.



図2.2 新品のタンクロック裏側

 図2.2は新品のタンクロックの裏側の様子です.

取り外した古い物に比べて穴の空いている位置や数が異なりますが,

それらはみな使用していない部位であり,機能に影響する部分の寸法は同じになっていることが分かります.



図2,3 新品のタンクロック内臓スプリング

 図2.3はタンクロックを水平方向から見た様子です.

改良された新品は,ワイヤ保持部にリターンスプリングが取り付けてあるのが確認できます.



図2.4 ばね秤

 図2.4はフルスケール2〔kgW〕のばね秤の様子です.

新品のタンクロックの解除レバーを動作させた際の戻りの強さが取り外した古い物と明らかに違うと感じた為,

測定値から比較することで検証しました.



図2.5 新品のタンクロックのばね力

 図2.5はタンクロックのレバーがフルストロークした時点でのばねの力を測定した様子です.

取り外した古い方は約8.0〔N〕で,新品のタンクロックは約11〔N〕と古い方より約38%程度強いことから,

古い方が使用や経年によりスプリングが衰損したのか,あるいは新品が改良されて,

よりばねの力が強くなっているのか,という2通りの見方ができ,

これをどう捉えるかにより部品に対する考え方が大きく変わります.

ワイヤ保持部が樹脂からアルミニウム合金に改良されていることを考慮すれば,スプリングを強化することにより,

ロック解除の戻りをよりスムーズにすることを狙ったものであると肯定的に捉えるのが自然であるといえます.



図2.6 清掃され美しくなったフレーム

 図2.6はタンクロック取り付け部を清掃した様子です.

わずかに磨きをかけたことにより,アルミニウム合金本来の美しさも楽しめる様になりました.

また,同時に整備したエアフィルタ
※1 ボックス取り付けスクリュも新品に交換されたことにより,

美しい光沢を得ることに成功しています.



図2.7 フレームに取り付けられた新品のタンクロック及びワイヤ

 図2.7は新品のタンクロックを洗浄したフレームに設置した様子です.

正常にタンクをロック,そして解除できるようになりました.

今回の整備では動きの渋くなっていたワイヤを同時に交換することにより,

強化された新品のタンクロックリターンスプリング,分解整備されたキーシリンダ廻りとの相乗効果で,

非常に節度ある動きを実現することができました.

新品になったタンクロック廻りだけでなく,

磨かれたフレームによる見た目の美しさの再現も整備をする上で欠かすことのできない大切な要素であることは,

この様子を見れば容易に理解することができます.



【考察】

 今回の事例ではタンクロックの解除に不具合が発生していました.

タンクロックが歪んだ直接の原因としては,

タンクがロックされた状態から無理やりタンクを取り外した際に金属プレートのが歪んでしまったと考えられます.

そしてプレートが歪んだ為に,キーを回してワイヤがレバーを引っ張っても,

歪んだプレートにロック部分が当たってしまい,スムーズな解錠ができない状態でした.

部品が絶版である場合は,板金して修正する方法や程度の良い中古部品に交換するといった手立てが考えられますが,

今回は新品に交換することができた為,スムーズに整備を進めることができました.

また動きの渋くなっていたワイヤも新品に交換することにより,

キーを介してロックを解除する力をロスなく伝達することが可能になり,

かつキーシリンダの外観を分解整備することにより,単体での戻りの良さも取り戻すことができました.


 鍵があるものは,必ずそれをロックして保持する部品が使用されます.

そして特に古い車両では,ロックを解除したつもりでも,動きの渋くなったツメが残っていることにより完全に解除されず,

そのまま外力を加えればロック機構が歪み,極端な場合はロックしたまま変形して外れなくなる恐れがあります.

したがって,やはりロック部分は常に動作を確認しておく必要があり,

万が一引っ掛かってしまっても無理に取り外すことは避けなければなりません.

その様な事態を避ける為にも,折に触れ潤滑材の塗布等による手入れをしながら点検することが望ましいといえます.





※1 “経年劣化により極度に脆くなったエアフィルタスポンジと完全に潰れたガスケットについて”






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