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事例:S-132

シールの経年劣化とストッパリングの入れ忘れにより発生したフォークオイル漏れについて

【整備車両】   
 GPZ400R (ZX400D) ZX400-D3  年式:1987年  参考走行距離:約19,000 km
【不具合の状態】 
 フロントフォークからオイル漏れが発生していました.
【点検結果】 
 この車両はお客様のご依頼を承り,メガスピードにて不動車の再生を実施したものです.エンジン廻りではミッションカウンタシャフトからのオイル漏れ ※1 などがありましたが,ここでは試運転後に発生したフロントフォークのオイル漏れについて記載します.

図1.1 ダストシール下部より漏れ出しているフォークオイル
 図1.1 は左側のフロントフォークダストシール部から漏れ出しているフォークオイルの様子です.赤色の四角で囲んだ部位が垂れたフォークオイルです.メガスピードにて各部再生整備を実施している間は静止状態だったので漏れはありませんでしたが,整備完了後に試運転を150km程度実施した段階で漏れが発生しました.左側が著しく漏れ,右側は少し滴る程度でしたが共に要修理のレベルに達していた為,左右セットでオーバーホール(分解点検・精密検査)を実施しました.

図1.2 ストッパリングの入っていないオイルシール
 図1.2 はダストシールを取り外して内部を確認した様子です.画像では分かりにくいかもしれませんが,本来あるべきものが見つかりません.何と,オイルシールの抜け止めのストッパリングが入っていない状態でした.かなり非常識な事態になっています.原因は人為的なミスであり,過去の作業者が素人整備した際に入れ忘れたものであると推測されます.これでは内部のオイルシールが完全に固定されない為に動く可能性があり,シール性能が不安定になります.

図1.3 コーティングの剥がれているスライドメタル
 図1.3 はアウターチューブからインナーチューブを取り外した様子です.オイルシールの損傷以外にもスライドメタルのコーティングが剥がれている等の不具合がありました.


【整備内容】
 オイルシールをはじめ,樹脂部品やガスケット等,可能な限り新品に交換してリフレッシュしました.

図2.1 分解されたフロントフォーク
 図2.1 はフロントフォークを分解した様子です.画像の消耗品は新品の様子です.青色で囲んだA(オイルロックピース)およびB(ピストンリング)は今回のオイル漏れと直接は関係ありませんが,樹脂部品でありともに劣化する為,同時に新品に交換しました.また剥がれていたスライドメタルは新品に交換し,その他ゴム類やアレンボルト,そのガスケット等極力新品に交換しました.

図2.2 新品のフォークオイルシール
 図2.2 は新品のフォークオイルシールにサスペンショングリスを塗布した様子です.これによりインナーチューブのストローク部とアウターチューブを正確に密封し,オイル漏れを防止します.

図2.3 新品のオイルシールストッパリング
 図2.3 は新品のオイルシールストッパリングの様子です.今回の事例ではこれが入れ忘れられていたことがオイル漏れを誘発した原因のひとつであると言えます.メガスピードではフォークをオーバーホールする際にはこの部品は必ず新品に交換します.口の開きが抜け止め防止性能を低下させているだけでなく,大抵オーバーホールが必要な時期になるとこの部品が錆びているからです.

図2.4 新品のオイルシールおよび抜け止めのストッパリング
 図2.4 はフォークに新品のオイルシールを圧入し,抜け止めのストッパリングを取り付けた様子です.黄色の矢印で指した部分がストッパリングです.これによりオイルシールが動くことなく,内部のオイルを密封することができるようになりました.

図2.5 オイル漏れの解消したフロントフォーク
 図2.5 はオーバーホールの完了したフロントフォークを車体に取り付け150km程度試運転した様子です.今回は右側も漏れが始まっていた為,左右同時に整備しました.
 この車両は足回りが他車種に交換されていましたので,お客様の情報を元にその車種のサスペンションとGPZ400Rの車体を考慮して包括的にオーバーホールしました.


【考察】 
 この車両はメガスピードにて数か月かけてエンジンオーバーホールやキャブレータオーバーホール、外れかかっていたサイドスタンド ※2 等様々な部位を整備しました.その間の静止状態ではほとんど車体を動かさない為,フロントフォークオイルは漏れていない状態でした.しかし少なくともお預かりするまでの間に4年程度は公道を走行していない状態で保管されていたので,実際はそれ以上の年月置きっ放しの様な感じであったと考えられます.その様な場合,すでにフォークのオイルシールが劣化していて,いざ整備後に動かすと漏れ出すケースがあります.

 今回の事例でも継続検査(車検)取得後に試運転を100km程度実施した段階で,静止状態にもかからわず地面まで漏れ出したフォークオイルが垂れる状態に陥りました.しかしこれは想定内のことであり,不動車を再生して走らせるとフォークオイルはかなり高い確率で漏れ出します。またお預かりして整備している間に漏れ出すことも決して少なくありません.

 問題は,漏れではなく,本来あるべきのオイルシールのストッパリングが入っていなかったことです.これはどれくらい問題があることかというと,電車のドアを開けっぱなしで駅から発車するのと同じくらいあってはならないことです.この状態ではいつ乗客がドアから落ちても不思議ではありません.同様に,この車両ではオイルシールが固定されていない為,いつ傾いたり外れたりするか分からない状態だったのです.100%過去の作業者が取り付け忘れたものであると考えられますが,かなり致命的なミスであり,それを防ぐ為にも少なくとも「オーバーホール」という語句を用いるのであれば,何度も作業を確認する必要があります.

 人間やめて化け物になるか,サイボーグにでもならない限り,生身の人は必ずミスをします.しかし早い段階でそれを補うことができれば,結果的にそれは無かった事にできる状態にまで復帰することができます.その為にも,『確認』という作業がとても重要です.単純なことですが,単純なことほど大切なのです.


※1 ガソリン漏れによるオイルシールの変形がもたらすカウンタシャフトからのオイル漏れについて
※2 
ボルトの曲りおよびナットの緩みにより外れかけていたサイドスタンドについて





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