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事例:S-97

整備お預かり中に漏れ出したフォークオイルについて

【整備車両】 
  R1-Z (3XC) 3XC1  推定年式:1991年  参考走行距離:約15,200 km
【不具合の状態】 
 整備でお預かり中に右フォークからオイル漏れが発生しました.
【点検結果】 
 この車両はメガスピードで整備を承る前に他店でヘッドガスケットおよびピストンリングを交換したとされるものです.当社で点検したところリザーバタンクには全く冷却水が入っておらず,ラジエータにもキャップ口元付近は冷却水が無い状態でした ※1 これではオーバーヒートに陥る危険性があります.その他各部に異常が見られましたが,今回の事例では,整備お預かり中に漏れだしたフォークオイルについて記載します.

図1.1 保管中に漏れだした右フォークオイル
 図1.1は各部を整備している間に漏れだした右側フォークオイルの様子です.夜戸締りをするときには漏れておらず,朝一番で漏れを発見したことから,夏季とはいえ,一夜でキャリパ上部までオイルが流れ落ちたことになります.幸いパッドやディスクまで到達しておらず,制動性能に影響はありませでした.

図1.2 錆の発生しているストッパリング
 図1.2は簡易的に確認する為ダストシールを持ち上げて内部を確認した様子です.オイルシール上部にオイル溜まりが数か所存在していました.またストッパリングがかなり錆びていたことから,シール部分は長期間手入れが成されていなかった可能性があります.

図1.3 黒くなった古いフォークオイル
 図1.3は漏れ出していたフォークからオイルを排出した様子です.全体的に黒く濁っていました.このオイルが何の銘柄かは分かりませんが,どのオイルにしろ本来の色を考えれば,かなりの長期間オイル交換されていなかったと推測することができます.

図1.4 衰損しているオイルシール
 図1.4は抜き取り時にインナーチューブに引っ掛かって出てきたオイルシールやバックアップリング,スライドメタル等の様子です.オイルシールは衰損していた為,それが原因でオイル漏れが発生したと考えられます.またインナーチューブの摺動部に点錆が発生していたことも,漏れの原因であると言えます.

図1.5 ヘドロが堆積しているアウターチューブ内部
 図1.5はインナーチューブを取り外したアウターチューブ内部の様子です.そこにはヘドロのような固形化したオイルが溜まっていて,抜き取ったオイルと同様に全体的に黒ずんでいました.この状態では十分にサスペンションオイルの性能が発揮されているとは言えません.少なくともヘドロになっている部分は使い物にならず,全体としても流動性が低くなり,乗り心地にも悪影響を及ぼしていると考えられます.


【整備内容】
 
 衰損していたオイルシールとあわせて,運動する相手側のインナーチューブも新品にすることにより,漏れに対して完全な対応をとりました.またアウターチューブ内部やピストン内部のヘドロの洗浄等を実施し,可能な限り性能を取り戻す作業を行いました.

図2.1 点検洗浄されたアウターチューブ内部
 図2.1は洗浄したアウターチューブ内部の様子です.ヘドロを完全に除去し,シリンダ内部の傷等を確認しました.

図2.2 正確に取り付けられた新品のフォークオイルシール
 図2.2は新品のインナーチューブに新品のオイルシールを取り付けた様子です.動く側と密封する側双方が新品になったことにより,摺動部は新車時と同じ状態になり漏れに対する不安を払しょくしました.


図2.3 インナーチューブに入れた新品のフォークオイル
 図2.3はインナーチューブに新品のYAMAHA指定オイルを入れた様子です.抜き取った古いオイルの銘柄がどこかを知ることは難しいと言えますが,少なくともYAMAHA指定オイルはこの様にワインレッドの色をしています.今回新品の指定オイルを入れたことにより,整備記録を適切に保管すれば,次回のオイル交換時には走行距離だけでなく,オイルの変化も比較することができます.
 この車両もそうですが,中古でバイクを購入した場合は,過去の整備記録が分からなければ,どこかの段階でデフォルト化して,そこを起点に整備記録を作成することが非常に大切です.

図2.4 整備のj完了した右フロントフォーク
 図2.4は整備の完了した右側フロントフォーク摺動部の様子です.試運転を実施し,オイル漏れの解消およびサスペンションの路面への追従性能が良好になったことを確認しました.


【考察】 
 メガスピードでは各部の分解整備を承った場合,整備期間中にフォークオイルが漏れ出す事例が少なくありません.今回の事例でも同様に,フォークオイルの劣化具合やインナーチューブの錆,そしてオイルシールの状態から判断すれば,漏れる寸前でお預かりしたと推測することができます.

 実際に漏れたのはお預かりして静止状態で保管している状況において,ひと月程度経過してからですが,右が漏れていれば,左右同じ環境で乗られていたとするならば,左も近い将来漏れ出す可能性が高い為,今回の整備では両側のフォークの分解整備を実施しました.

 フォークオイルがシール部から漏れ出す頃にはオイルの状態も劣悪になっている為,乗り心地が悪くなっている場合が少なくありません.所有しているバイクに乗り続けるということは,いわば縦断的観察に近く,変化の度合いが緩やかな場合は,その変化そのものに慣れてしまい,性能の低下に気付き辛い傾向があります.しかし分解整備いわゆるオーバーホール【overhaul】を実施して乗り比べれば,腰が出て路面への追従性も良くなっていることが分かることが多く,それだけサスペンションが衰損していたと言えます.例えるのであれば,ゆで過ぎて伸び切ったうどんを食べてから,温泉郷の腰のあるうどんを食べた時の歯応えの違いに近いかもしれません.もちろん腰があり過ぎると顎が疲れるのと同様に,サスペンションも腰があり過ぎるのは問題です.しかし,少なくともオイル漏れが発生するという状態は,かなり悪い状態であり,そこから整備されたサスペンションは別物であると言っても過言ではありません.

 特にこの車両の様に中古で購入された場合は,この車種のサスペンションはこんなものかな,と無理に納得することなく,一度分解整備を実施してデフォルト状態を体感しておくことをお勧めします.そしてそれを体感して初めて,20年前30年前のバイクに対して,この車種は足廻りが良いだのダメだのという権利が生じるのだと思うのです.


※1 空になったリザーバタンクとラジエータ内の冷却水不足によるオーバーヒートの危険性について 





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