事例:S‐40
転倒によるファスナの破損とサイドカウルのバタつきについて |
【整備車両】
RG500EW-2W (HM31A) RG500Γ(ガンマ)Ⅱ型 年式:1987年 参考走行距離:約14,000km |
【不具合の状態】
ファスナが完全に締まらずサイドカウルがバタつく状態でした. |
【点検結果】
この車両は他店で購入され,公道を走行する前に一通り点検してほしいとのご依頼を承り,
メガスピードに入庫されたものです.
法定定期点検を承ったので,エンジン廻りを点検する為にサイドカウルを取り外そうとしたところ,
左後部のカウリングファスナがきちんと締め付けられていない状態でした.
取り付けを確認しようとねじを回しても締め付けができない為,
カウルを取り外して点検すると,ファスナを固定するピンが折れていました.
図1.1はスプリングピンの口が広がっている様子です.
スプリンピンは圧入される為,口を広げなくても抜け落ちる恐れがないといえ,
故意ではなく,何らかの外力が加わった結果口が開いたものであると推測できます.
図1.2は口の広がったピンの逆側の様子です.
ピンが折れていることが確認できます.これによりステーに完全に固定することができず,
サイドカウルがバタついていたと考えれらます.
ファスナの頭が削れていることやステーが曲がっていること,そしてサイドカウルに再塗装された形跡があることから,
左側への転倒により破損したものであると推測できます.
その際に破損したサイドカウルは補修したものの,
現在の状況から曲がったステーとファスナはそのまま再使用したものであると考えられます.
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【整備内容】
ファスナ本体は削れているものの大きな損傷はなく再使用可能なレベルでしたが,
スプリングピンは新品に交換する必要があり,
この機会に合わせてダンパゴム及びカウルへの固定に使用されるEリングも新品に交換しました.
図2.1はファスナを構成する新品部品です.
Aがファスナ本体,Bがダンパラバー,Cが抜け止めのEリング,そしてDが固定用のスプリングピンです.
図2.2は組み立てたファスナにスプリングピンを圧入している様子です.
やはり正確な位置で無理な衝撃をかけずに取り付けるには,間違えても叩き込んだりせず,
冶具を用いた油圧プレスによる圧入が最適であるといえます.
図2.3はスプリングピンを正確に圧入したファスナの様子です.
それぞれ新品を使用したことにより,見た目の美しさもさることながら,
ゴムの厚みが回復した為,サイドカウルの取り付けクリアランスを適正に保つことができるようになりました。
図2.4 サイドカウルに取り付けられたファスナ裏側 |
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図2.4はサイドカウルに取り付けたファスナの裏側の様子です.
Eリングを新品にしたことにより,ファスナがサイドカウルから脱落する可能性を極力低減することができました.
図2.5 サイドカウルに取り付けられたファスナ表側 |
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図2.5はサイドカウルに取り付けられたファスナの表側の様子です.
ねじ部のなめた溝がきれいになり,また削れた表面もなめらかさを取り戻し,
サイドカウルを固定するだけでなく,そのデザインの美しさを十分に引き出すことができるようになりました.
図2.6は同時に承っていた各所オーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)を完了し,
試運転を行った際に撮影した車両の様子です.
黄色の四角Aで囲んだ部分が今回の事例で整備したファスナの取り付け位置です.
走行後も確実にサイドカウルが固定されていることを確認し,整備を完了しました. |
【考察】
この事例では転倒による損傷と考えられる傷がファスナ表面にあり,固定ピンが折れていました.
そのことからファスナを分解整備する運びになりましたが,もし取り付けピンが損傷していなくても,
ファスナ表面の傷は,錆を誘発するだけでなく,見た目の点からもできればないに越したことはありません.
車両の外装の状態が良くても,カウルの取り付けボルトが錆びていたり削れていたり ※1 すると,
それだけで大きく美しさが低減してしまう場合が少なくなく,逆にいえば取り付けボルトが光っていると,
多少カウルが損傷していても,全体をイメージする印象は美しいものになります.
錆びたボルトや損傷したボルトを新品に交換することは,そのわずかな投資に対して機能のみならず,
車両を魅せる大きな効果があります.
やはりこだわりのある車両を所有しているオーナーであれば,外観も可能な限り美しく保つことで,
尚一層車両を所有する満足度が上がる可能性が高いということも,少なからず注目すべき点であるといえます.
※1 “不適切なドライバで回したことにより破損したファスナの頭について”
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