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事例:S-134

LOWERを下回ったリヤブレーキフルードとリヤブレーキの重要性について

【整備車両】 
 GSR400 (GK7DA)GSR400AK7  年式:2007年  参考走行距離:約72,000 km
【不具合の状態】 
 リヤブレーキのリザーバタンク内のブレーキフルードがLOWERを下回っていました。
【点検結果】 
 この車両はお客様のご依頼によりメガスピードにて継続検査(車検)やその他の整備を承ったものです。ここでは整備したリヤブレーキリザーバタンクおよびマスターシリンダについて記載します。

図1.1 液の少なくなっているリザーバタンク
 図1.1 はリヤブレーキのリザーバタンクの様子です。ブレーキフルードがLOWERを下回り、液が少ない状態でした。予めリヤブレーキマスターシリンダのオーバーホールをご依頼いただいていたため、まずリザーバタンクを取り外しました。

図1.2 錆びているリザーバタンク取り付け部
 図1.2 はリザーバタンク取り付け部の様子です。かなり錆びていました。あまり肉の無い部位なので錆を除去して補修塗装することにしました。

図1.3 取り外したリヤマスターシリンダ内のピストンカップ
 図1.3 はリヤブレーキマスターシリンダを分解して取り出したピストンカップの様子です。すでに走行距離が70,000kmを上回っていることを裏付けるように摩耗していました。

図1.4 汚れの堆積しているリターンポート上部
 図1.4 はリターンポート上部のマスターシリンダとリザーバタンクホースを接続する部位です。図の様に汚れが堆積していました。


【整備内容】
 リヤマスターシリンダや関連各部を分解洗浄し、内部部品等は新品に交換しました。またリザーバタンクは表面に無数の亀裂が発生していた為新品に交換しました。

図2.1 分解洗浄されたリヤブレーキマスターシリンダ廻り
 図2.1 は分解・洗浄したリヤブレーキマスターシリンダ廻りの様子です。リザーバタンクは新品のASSYを分解して組み立て前にダイヤフラムを中心に手入れします。またリザーバタンクとマスターシリンダを接続するホース (A) はバックオーダーになっていましたが、少し待ち新品が入荷しました。もちろんそのクランプ2つも新品にします。
 パーツリストではイラストに誤りがあった為、ピストンカップセット以外に別途サークリップやブーツを個別に新品注文しました。

図2.2 洗浄されたリヤブレーキマスターシリンダ内部
 図2.2 はリヤブレーキマスターシリンダ内部を点検洗浄した様子です。かなり汚れていましたが、図の様に綺麗にしました。またわずかに摩耗していましたが、まだ使用できる状態だと判断しました。

図2.3 組み立てられたリヤマスターシリンダ
 図2.3 はリヤマスターシリンダを組み立てた様子です。ブーツの金具は大概錆びていますが、これも例にもれず錆びていたので新品に交換してあります。

図2.4 錆取り補修塗装されたリザーバタンク取り付け部
 図2.4 は錆びていたリザーバタンク取り付け部の錆を除去し、補修塗装した様子です。これによりしばらくは錆の発生を防ぐことが可能です。見た目も美しくなりました。

図2.5 規定量入れエア抜きされたリヤブレーキフルード
 図2.5 はリヤブレーキ経路をすべて接続し、エア抜きを実施したリヤブレーキリヤブレーキリザーバタンクの様子です。フルードもUPPERレベル手前まで入れてフタをしました。お客様は琥珀色のフルードを使用されていましたが、メガスピードでは透明のフルードをお勧めしている為(透明だと汚れ具合が良く分かるのに対し、初めから琥珀色だと、点検した時に汚れているのか否か、分かりにくい為)、了解を得てから透明のフルードに変更しました。

図2.6 整備の完了したリヤブレーキマスターシリンダ廻り
 図2.6 は取り付けの完了したリヤブレーキマスターシリンダ廻りの様子です。実際に試運転を行い問題がないことを確認して整備を完了しました。


【考察】
 この事例ではブレーキフルードがリザーバタンクのLOWERを下回っていました。もちろんそれは良くないことですが、フロントブレーキほど深刻ではありません。と言うのも、フロントマスターシリンダがリザーバタンクと一体型の場合、LOWERよりも下回るとリターンポートからエアを吸い込みブレーキがスカスカになる危険性が高いからです。特にバイクは3次元的な動きをする為液面が揺さぶられます。万が一リターンポートよりも液面が下がった状態でブレーキを握ればエアが混入してしまいます。
 それに対しリヤブレーキマスターシリンダは、フロントのリザーバタンク別体式と同様にマスターシリンダがリザーバタンクよりかなり下にあることからホース内部にも液がある為、リザーバタンク側からエアが混入することは通常はありません。しかし液面がどの状態にあるかを知る上ではやはりLOWERよりも上でなければならないので、定期的に見ておく必要があります。

 リヤブレーキマスターシリンダに関しては走行距離なりに摩耗していましたが、ピストン側は新品で対応し、シリンダ側は表面を洗浄・わずかに研磨することで対応しました。今回の整備ではリザーバタンクとマスターシリンダを接続するホースがバックオーダーで1週間待ちでした。現行の車両でさえその様な状況が起こりうることを考えれば、車両生産終了後にすぐに絶版部品になることにも頷けます。特にこの部品は劣化や損傷で交換したい頃には絶版になっているので、予防的整備として早め早めに交換しておいた方が良いと言えます。なぜなら部品が無いから仕方なしに当時もの(30年以上経過)のホースで頑張っている古い車両が少なくないからです。フロントに比べてリヤのこのホースは車種ごとに形状が異なることもその大きな原因ではないかと推測されます。そしてそれは汎用品で対応することの難しさも同時に示しています。

 リヤブレーキはフロントブレーキの補助として車両を安定的に制動させるものですが、むしろ制動よりも主に車両の姿勢や挙動をコントロールする為のものであると言っても過言ではありません。特にスロットルONで大きなトルクを発生させるバイクの場合、それをワインディングでコントロ―ルする為にはリヤブレーキは必要不可欠です。したがっていつでも思い通りに操作できる状態にリヤブレーキを整備しておくことが大切であり、それがライディングを楽しむ要となります。








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