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事例:S-129

シンタード系へのパッド交換とキャリパのオーバーホールによる制動力強化について

【整備車両】 
 GSX1300RY (GW71A) "HAYABUSA" 隼 ハヤブサ  年式:2000年  参考走行距離:約26,500 km
【不具合の状態】 
 機能的には何も問題ありませんでしたが,もう少し強力な制動力が欲しいところでした.
【点検結果】 
 ブレーキの機能に問題はないものの,もう少し制動力を向上したいということで,シンタード系のパッドに交換してみるといった実験的な目的からこの車両の整備は開始されました.

図1.1 制動力のイマイチなリヤブレーキ
 図1.1 は制動力がイマイチなリヤブレーキの様子です.状態も良く不具合はありませんでしたが,経年を考えてキャリパのオーバーホールをはじめ同時にリヤブレーキホースの社外新品への交換 ※1 やリヤマスターシリンダのオーバーホール等リヤブレーキラインをすべて整備しました.

図1.2 汚れの存在するリヤブレーキキャリパ
 図2.1 はリヤブレーキキャリパのピストンを抜いた様子です.ブレーキフルードの交換等のメンテナンスがされていても,図の様に底の部分に排出しきれない汚れが存在していました.少なくとも毎回車検の時に交換されていればこの様にはなりにくいと言えるため,発売から当社に入庫するまでの間に,メンテナンスされない期間が存在したことを示しています.車両に錆ひとつないことから新車時より屋内保管されていたと考えられますが,乗られていても,置きっ放しでも,メンテナンスされていなければ同じことです.

図1.3 ピストンシールおよびダストシールに堆積した汚れ
 図1.3 はダストシールとピストンシールを取り外した様子です.ハウジングにブレーキフルードの固形化した汚物が付着していることが分かります.この程度では引きずりの発生には至りませんが,やはりクリーンな状態が望ましいと言えます.


【整備内容】
 ピストンやシール類はセットで新品に交換し,キャリパは可能な限り洗浄しました.

図2.1 新品のピストンセット
 図2.1 は新品のピストンセットの様子です.左上がピストンとキャリパの合わせ面のシール,左下がダストシール,右下がピストンシールです.もちろんシールだけ新品にする手もありますが,古いピストンを洗浄して磨く暇があるのであれば,新品にしておいた方が確実で時間的にも早いと考える為,絶版でなければメガスピードでブレーキを整備する際には必ずピストンも新品に交換します.
 ブレーキは安全にかかわる最も重要な部位ですから,わずか数千円の部品代でピストンを新品にできるのであれば,迷わず交換しておきたいものです.

図2.2 新品のキャリパ構成部品とシンタードブレーキパッド
 図2.2 はキャリパを構成する新品構成部品およびシンタード系のブレーキパッドの様子です.特にキャリパは路面に近い位置にあり,内部を清掃する機会が少ない為,金属部品に錆が発生している車両が非常に多いのが現状です.したがって,ピストンと同じく新品の部品供給があるのならば迷わず新品にしておきたいものです.キャリパを洗浄したところで,ピンやシム,ブリーダが錆びて赤くなっていたのではオーバーホールしたという説得力がありません.分解整備は性能の回復は当然として,見た目の美しさも可能な限り取り戻す必要があります.
 光モノに弱いのは女性だけではないのです.

図2.3 点検洗浄されたキャリパ
 図2.3 は点検洗浄したキャリパの様子です.ダストシールとピストンシールのハウジングにはそれなりに汚物が発生していましたが,その他は合わせ面が少し荒れていた為に研磨した程度で,おおむね状態は良好でした.

図2.4 新品のピストンシールおよびダストシールを取り付けたキャリパ
 図2.4 は新品のピストンシールおよびダストシールをハウジングに取り付けた様子です.これにより柔軟な運動性能が回復され,ピストンの動きがよりスムーズになることが期待できます.

図2.5 組み立てられたキャリパ
 図2.5 はピストンをキャリパに取り付け,左右を合わせて組み立てられたキャリパの様子です.ブリーダプラグも新品になったことで非常にさっぱりとした状態になりました.

図2.6 シムおよびパッドの取り付けられたキャリパ
 図2.6 はキャリパに新品のシムおよびパッドを取り付けた様子です.

図2.7 オーバーホールの完了したキャリパ
 図2.7 はオーバーホールの完了したリヤブレーキキャリパの様子です.ピンやスプリングも新品になり,非常に美しい状態が確保されました.最終的にはカバーにより内部は見えなくなりますが,中身が綺麗になっていることを知っていれば,それだけでもブレーキが良く効くようになった気がします.気のせいですが,それも重要です.

図2.8 整備の完了したリヤブレーキキャリパ廻り
 図2.8 はオーバーホールの完了したリヤブレーキキャリパを車体のブラケットに取り付け,新品のブレーキホース (SWAGE-LINE) を取り付けた様子です.ブレーキホースも同時に新品に交換したことにより,非常に美しい外観になりました.
 そしてパッドにあたりを付ける為に走行に注意しながら試運転を実施し,最終的に50km程度走行して各部の機能が問題なく液漏れや損傷もないことを確認して整備を完了しました.パッドが交換されたことにより制動力が向上した形になりました。またブレーキラインを一式整備したことによりフィーリングが良くなりました.


【考察】 
 ブレーキパッドの材質も時代とともに改良され,昨今ではシンタードと呼ばれるものが高性能のパッドの代表格になりました.実際に試してみると確かに制動力が強くなった印象を受けます.しかし取り付ける車両が古ければ,ブレーキの性能低下はパッドだけでは解決しないことが少なくありません.
 まずタイヤです.いくら溝があっても製造後10年経過したもの等は著しく性能が低下しています.グリップ力が低下していれば,どんなに高性能なブレーキシステムを用いても,タイヤがロックして滑るだけで全く止まりません.またマスターシリンダも製造から20年程度経過しているものはフィーリングが悪化している為,決してコントローラブルであるとは言えません.もちろんキャリパにも当てはまります.したがって,本当に制動力UPを狙うのであれば,関連部位すなわちマスターシリンダ,ホース,キャリパ,パッド,ローター,そしてタイヤを包括的に整備する必要があり,その上でパッドの材質をシンタード系にするのであればBESTであると言えます.


※1 古くなったリヤブレーキホースの予防的整備について





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