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事例:E‐84

2サイクルエンジンのオイルポンプ吐出量の測定について(原動機の型式:K301Ⅱ型)


【整備車両】

RG400EW-2W (HK31A) RG400Γ(ガンマ) Ⅱ型  年式:1986年  (参考)走行距離:約18,600km


【不具合の症状】

長期保管によりエンジンがかからない状態でした.


【点検結果】

この車両はお客様が車検が切れてから数年程度保管している間にエンジンがかからなくなり,

再生すべくメガスピードにて整備を承ったものです.

まずエンジン圧縮測定の為にプラグを取り外すと,完全にかぶった状態でした.



図1.1 規定回転数におけるオイルポンプ吐出量の測定

図1.1はカーボン及び未燃焼オイルが付着したプラグ中心電極付近の様子です.

絶縁不良により火花が発生していたと判断できます.

走行直後に取り外したプラグがびしょびしょの場合,ガソリンによるものか,オイルによるものか,

判断が難しい場合があり,まさにその見分けの情報源としてオイルの吐出量は重要になります.

今回の事例では,ガソリンは気化しますが,オイルは数年経ってもほとんど変わらずに存在する為,

このプラグの湿った状態から,キャブレータセッティングのみならず
※1

オイルチェックバルブの衰損によるオイルの流入
※2 や,オイルの吐出量も不具合に関係していると推測できる為,

まず同時に承ったオイル廻りの整備一式から行いました.

ここではオイルポンプの吐出量とその考察を記載します.

RG400ΓⅠ型のオイルポンプ吐出量の測定事例
※3 や,RG500Γのオイルポンプの吐出量の測定事例 ※4 は,

それぞれの関連リンクをご覧下さい.



クランク軸からオイルポンプまでの動力伝達経路は,クランク軸ギヤからパイロット軸ギヤを介して,

プライマリドライブギヤに伝達され,プライマリドリブンギヤ,ファーストドライブギヤへと伝わり,

ファーストドリブンギヤ,そしてオイルポンプギヤへと導かれます.

それぞれ歯数は54T,54T,26T,58T,11T,29T,21Tであることから,

クランク軸からオイルポンプまでの減速比は約4,259となり,

オイルポンプレバー全開でクランク軸2,000rpmでオイルの消費量は7,1ml~7,7ml/2minの規定から,

ウォーム軸までの減速比が4,259であることから,このときウォーム軸は469,594rpmとなります.

すなわちウォーム軸400rpmでオイルの消費量は6,048ml~6,474ml/2minであり,181,440~194,220ml/hに換算されます.

消費したオイルが吐出口に均一にオイルが吐出されることは当社で過去に測定した実験結果から明らかであり,

このことから吐出口1つあたりのオイルの吐出量が45,360ml~48,555ml/hとなります.

つまり常温吐出特性がウォーム軸400rpmにおいて,

オイルポンプのレバー開度55°~64°におけるオイルポンプの吐出口1口当り46,2ml/hの規定は,

その範疇に含まれることが分かります.

これはフルスロットルすなわちオイルポンプのレバー開度が全開の吐出量の基準とし,

アイドリング回転数1,500rpmにおけるオイルポンプのレバー開度全閉の吐出量の基準は次の値をとります.

レバー開度9°以下でのウォーム軸400rpmにおけるオイルポンプからの一口当りの吐出量は3,26ml/hの規定により,

オイルポンプの減速比4,259からウォーム軸400rpmにおけるクランク軸の回転は1703,599rpmであり,

クランク軸1500rpmにおけるウォーム軸は352,196rpmの吐出量2,870ml/hが基準となります.

車両はRG400Γですが,規定値はRG500Γを用いりました.

これはRG400ΓのⅠ型とⅡ型で部品番号が変わる上,Ⅱ型で変更された品番がRG500Γと統一であることから,

Ⅱ型はRG500と同じオイルポンプが使用されていたと考えられ,規定値もそれに沿ったものでなければなりません ※5


今回の点検では,これらを踏まえた上で実際のオイル消費量を測定しました.



図1.2 規定回転数におけるオイルポンプ吐出量の測定

図1.2はオイルポンプを規定回転数で回し,

オイルポンプからのオイルの吐出量とオイルポンプのオイルの消費量を測定している様子です.

フルスロットル時に必要な最大消費オイル量が満たされているか,

アイドリング時に必要な最低消費オイル量が満たされているか,をそれぞれ検査し,結果を表1.1にまとめました.




a オイルポンプウォーム軸:400rpm オイルポンプウォーム軸:352rpm
2分間 レバー全開 (測定値) 1時間 レバー全開 (換算値) 1時間 レバー全閉 (測定値)
1番 1,55ml 46,50ml 2,90ml
2番 1,40ml 42,00ml 3,05ml
3番 1,60ml 48,00ml 3,70ml
4番 1,50ml 45,00ml 3,60ml
合計 6,05ml 181,50ml 13,25ml
6,20ml 186,00ml 12,15ml
誤差 -0,15ml -4,50ml +1,10ml
規定値 6,00~6,50ml 46,20ml/1箇所 2,90ml
表1.1 K301(Ⅱ型)オイルポンプのオイル吐出量

表1.1において,薄い青で示したセルの数値は規定値であり,薄い赤で示したセルの数値はそれに対する測定値です.

まずウォーム軸400rpm,2分間レバー全開における測定結果は,

1番から4番キャブレータへ接続される吐出口の吐出量は平均1,50mlで,偏りもほとんどなく良好であると判断でき,

これは1時間に換算すると平均約45,38mlになり,規定の約46,20mlを約1,8%下回りますが,

測定誤差の範囲であり,吐出性能は良好であるといえます.

またオイルポンプのオイル消費量は約6,20mlと,規定値中間であり,

消費量と吐出量の誤差が0,15mlであることを考慮すると,

非常に良好であることが分かります.

次にウォーム軸352rpm,1時間レバー全閉における測定結果は,規定の約2,90mlに対して,

1番が規定通りの2,90ml,2番が3,45mlで約5%,3番が3,70mlで約27%,4番が3,60mlで約24%上回っており,

それぞれ余剰分が安全マージンであるといえます.

上記の結果から取り外したオイルポンプのオイルの消費量及びオイルの吐出量を含めた性能は正常であると判断し,

排気量は400ですが,吐出量は排気量500のものであることが確認できたことを念頭にセッティングを行いました.


【整備内容】

オイルポンプの吐出量が正常であることが確認できた為,オイルホースの新品交換やオイルチェックバルブの加工,

オイルタンクの洗浄等を含めたオイル廻りの整備一式を行いました.



図2.1 正常に燃焼しているプラグ

図2.1はキャブレータのセッティング及びオイル廻りのセッティングを行い,

試運転の完了した段階で取り外したスパークプラグの様子です.

全体的に無駄な油分が付着しておらず,かつ燃焼組成物もほぼ碍子をいわゆるきつね色に染め,

中心電極も接地電極も焼け切れていて,燃焼状態が正常であることを示しています.

実際の走行においても始動,発進,そして加速を含めて極めて状態が良好であることが確認できました.


【考察】

この事例ではオイルポンプの吐出量の測定をとりあげましたが,

オイルはライン一式で考えることが必要であり,オイルの入り口であるオイルタンク,そこからオイルポンプまでのホース,

そしてオイルポンプ本体,オイル本体からキャブレータまでのオイルホース,そしてキャブレータのオイルチェックバルブ,

更にはオイルレベルスイッチやインジケータ等すべてが重要であり,どれも欠かすことができません.

中でもオイルポンプは機関の根幹であり,まずオイルポンプが正常でなければすべての不具合につながります.

その為にもオイルポンプの測定は必要であり,データに基づいた確実な測定が求められます.

2サイクルエンジンのキャブレータ調整を行う場合は必ずオイル廻りのセッティングも同時に行われる必要があることからも,

オイルの状態は確実に把握しておかなければなりません.



例えば整備書(サービスマニュアル)ではオイルポンプの点検は,

クランク軸2,00rpmにおいてオイルポンプが消費するオイルの量を測定する方法しか記載されていません.

その点検すら実際に実施される整備施設はほとんどないといっても過言ではありません.

私が2サイクルエンジンの車両について,他店や他者から今まで目にしてきたパターンで一番多いのが,

“オイル関係は何も見てないけど,とりあえずエンジンかかっているから大丈夫”,という発言です.

一体何をもって大丈夫なのか,何が大丈夫なのか,そしてどの部分がどの様に大丈夫なのか,

まったく科学的根拠や数値的裏付けがなく,その都度落胆していました.

何も見ていない車両の整備を承った際に,実際に当社で危ないと感じた事例は多々あり,

その中でもオイルホースのオイルチェックバルブの付け根が切れている事例 ※6 や,

オイルホースがオイルチェックバルブから半分抜けていた事例 ※7

オイルタンクについては,フィルターが詰まっていた事例
※8 があり,

これらがもし整備されなければ近い将来エンジン焼き付きといった,

甚大な不具合を発生させる可能性が極めて高いといえます.



メガスピードでは可能な限り,測定に基づいた細かな点検整備を行うことにより,

数値的根拠に基づいた安心を提供させていただけるよう日々研鑚を重ねております.

例えばRG500Γをとれば,整備書に記載されている点検方法では極めて不十分であり,

ミッションやクランク,パイロットのギヤ数からオイルポンプまでの減速比を割り出し,

規定回転における吐出数値を割り当て,

そこから得られた規定値に対して実際に測定した数値が整合するか確認しなければ,

厳密にオイルポンプが正常であるとはいえません.

メガスピードではそのレベルまで調査,点検測定,整合性の有無,部品の判断,を行い今後の見通し等を立てます.

過去に測定したオイルポンプからの自然落下量
※9 や,それに対するオイルチェックバルブの保持圧力の測定等,

RG500/400Γのオイルポンプに関して最高水準の点検測定を行っております.

なぜそこまでするか.

答えは簡単です.

RG500/400Γに乗る方に,少しでも安心して楽しく乗っていただきたい,それだけです.

メガスピードでは何も見ずに“~だろう”という整備は行いません.

必ず点検測定し,数値等を含めて確実な論拠に基づいた整備を行うことにより,確かな安心をお届けします.

そしてそれがお客様の人生における楽しい時間に少しでもつながる結果をもたらすことができれば,

これ以上の喜びはありません.





※1 キャブレータのオーバーホール【overhaul】やキャブレータのセッティングに関する事例

   “ジェットやポート等燃料通路への腐ったガソリンの詰まりによる始動不可について”



※2 オイルチェックバルブの衰損に関する整備事例

   “オイルチェックバルブの衰損によるエンジン始動不可能について”



※3 RG400ΓⅠ型のオイルポンプ吐出量の測定事例は,

   “2サイクルエンジンのオイルポンプ吐出量の測定について(原動機の型式:K301Ⅰ型)”



※4 RG500Γのオイルポンプ吐出量の測定事例

   “2サイクルエンジンのオイルポンプ吐出量の測定について(原動機の型式:M301型)”



※5 RG400ΓⅠ型とRG400ΓⅡ型及びRG500Γのオイルポンプの違いについて

   “K301Ⅰ型及びⅡ型とM301型の2サイクルエンジンオイルポンプ吐出量の違いについて”



※6 オイルホースの取り付け部が切れている事例

   “オイルホースの破損によるエンジン焼き付きの危険性について”



※7  オイルホースが取り付け部から半分抜けていた事例

   “オイルホースの取り付け不良によるオイル漏れとエンジン焼き付きの危険性について”



※8 オイルタンク内蔵フィルターが詰まっていた事例

   “オイルフィルタに堆積した固形物によるオイル供給量の低減について”



※9 オイルポンプからの自然落下量の測定事例

   “オイルチェックバルブの衰損によるキャブレータ内部への2サイクルエンジンオイルの流入について”






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