トップページ故障や不具合の修理事例【二輪自動車】 エンジン関係の故障、不具合、修理、整備の事例 (事例:121~130)


事例:130

ウォータポンプシャフトシールの劣化とインペラシャフトの摩耗について


【整備車両】

 R1-Z (3XC) 3XC3  推定年式:1993年  参考走行距離:約19,000km


【不具合の状態】

 走行における不具合は発生していないものの,各部品が消耗していました.


【点検結果】

 この車両はお客様のご依頼により,クラッチカバー下部のミッションオイル漏れの修理を承ったものです.

ここではクラッチカバーを外した際に,念の為ウォータポンプ廻りの整備を実施した際の様子を記載します.



図1.1 千切れているシャフトシール

 図1.1は劣化して端部の破損しているウォータポンプインペラシャフトシールの様子です.

ウォータポンプは冷却水から軸を密封する為に,

いわゆるメカニカルシールとオイルシールを併用する場合が少なくありませんが,

R1-Zの場合,メカニカルシールではなく,厚めのゴム製のシールで密封する設計になっています.

水漏れ等は発生していませんでしたが,実際にはシールが消耗している状態でした.



図1.2 摩耗しているインペラシャフト

 図1.2は取り外したインペラシャフトASSYの様子です.

軸のシールとの接触面がかなり摩耗して変色していることが分かります.

参考走行距離からも,この程度の摩耗は必至であると考えることができ,

漏れが発生する前に修正される必要があります.


 ウォータポンプのインペラの構造として,シャフトとインペラが組み立て式のものが少なくありませんが,

R1-Zの場合,それらが一体構造になっています.

またインペラはアルミ合金製のものが少なくありませんが,このエンジン型式は樹脂を採用しています.



【整備内容】

 劣化していたシールは新品に交換するとともに,摩耗していたシャフトも新品に交換することにしました.

シャフトはインペラとASSY構造であることから,同時にインペラも交換されることになりますが,

材料が樹脂であることから,経年を考えてるとむしろ一緒に交換されることが望ましいといえます.



図2.1 新品のウォータポンプシャフトシール

 図2.1は新品のウォータポンプシャフトシールの様子です.

取り外したシールと比較するとゴム質に柔軟性があり,シャフトと接触する部分の追随性も高く,

またシール性能を維持するスプリングも締まっている為,整備後に長期間密封性能を保つことが期待できます.



図2.2 ハウジングに圧入されたシャフトシール

 図2.2は点検洗浄の完了したクラッチカバーのハウジングにシールを圧入した様子です.

通常のオイルシールとは比較にならない程度に厚みがある為,

傾きやカジリ,歪み等を発生させずに確実にハウジングに圧入される必要があります.



図2.3 新品のインペラシャフトASSY

 図2.3は新品のインペラシャフトASSYの様子です.

摩耗していた軸は新品に交換されることにより径の太さと表面の平滑さ及び均一性を取り戻し,

緑色に染まっていたインペラは新品の状態では白であることが分かります.

これにより,新品のシールとあわせて冷却水とオイルの密封性能を取り戻すことができます.



図2.4 クラッチカバーに組み付けられたインペラ

 図2.4は新品のインペラを取り付けた様子です.

節度ある回転抵抗はシールとシャフトの密封性能を約束するものであり,

それが大き過ぎても小さ過ぎてもいけないのです.



図2.5 新品のインペラシャフト駆動ギヤ

 図2.5はインペラシャフトに新品のギヤ及びワッシャ,Eリングを取り付けた様子です.

2サイクルエンジンのウォータポンプのギヤは樹脂製であることが少なくありませんが,

この車両も例に漏れず樹脂である為,大きな歯の破損等はないものの,経年劣化を考慮し,

新品の部品供給があるうちに交換しておく方が良いと判断しました.

インペラ同様新品の樹脂部品は美しく,内部の歯車が綺麗になったと思うだけで所有する喜びが増すものです.



図2.6 新品のインペラカバー

 図2.6は整備の完了したウォータポンプの様子です.

劣化していたラジエータホースや錆びていたボルト及びクランプ,

腐食していたインペラカバー等もあわせて新品に交換することにより,非常に美しい外観を取り戻すことができました.


 実際に試運転を行い,水漏れやオーバーヒート等の不具合がなく,

2サイクルエンジン独特の走行フィーリングが楽しめることを確認して整備を完了しました.



考察】

 ウォータポンプに関しては,メカニカルシールはもちろんのこと,

シャフトやインペラも実際には消耗品と考えた方が間違いありません.

特に20,000km程度走行した車両や発売から20年程度経過しているものの大部分は,

例え水漏れ等の症状が出ていないとしても,

実際に分解すれば部品の寿命はもはや尽きる寸前であるケースが少なくありません.

これは走行によりオイルシールとインペラシャフトの接触部が摩耗することや,

メカニカルシールの劣化,経年によるインペラシャフトの錆や腐食が発生する為です.


 ウォータポンプに関してはメガスピードでもかなり多角的重点的に整備を実施している為,

他のウォータポンプ関連の整備・修理事例をご覧いただければ様々な形態を理解していただけるようになっています.

やはり水漏れを未然に防ぐ為にもウォータポンプ廻りは走行距離や経年を考慮し,

定期的に分解整備されることが望ましいといえます.





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