事例:132
使用にともなうミッションオイルポンプ摺動部の摩耗について |
【整備車両】
R1-Z (3XC) 3XC3 推定年式:1993年 参考走行距離:約19,100km |
【不具合の状態】
走行における不具合の症状は発生していないものの,ミッションオイルポンプの各部品が著しく摩耗していました. |
【点検結果】
この車両はお客様のご依頼によるミッションオイル漏れを修理する為にクラッチカバーを取り外したものです.
ここではその際にあわせて実施した,ミッションオイルポンプの分解整備について記載します.
図1.1 摺動面の摩耗しているインナロータ,アウタロータおよびカバー |
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図1.1はミッションオイルポンプを分解した様子です.
変形等の著しい損傷は見られないものの,カバーとインナロータ,アウターロータのそれぞれが摺動する部位に,
深いひっかき傷の様に摩耗が発生していました. |
【整備内容】
摺動部に生じた傷によるオイルポンプの密封性能の低下は,油圧を下げる原因になる為,
極力避けなければなりません.
わずかな摩耗等であれば修正研磨することができますが,傷の深さ等を考慮し,
今回の事例ではすべて部品が新品でメーカーより入手可能であった為,一式新品に交換しました.
図2.1 新品のポンプカバー及びインナロータ,アウタロータ |
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図2.1は左から新品のポンプカバー,インナロータおよびアウタロータの様子です.
接触面が平滑である為,オイル漏れを発生することなく,正確にミッションオイルを圧送することが可能になります.
図2.2 組み立てられたミッションオイルポンプ内部 |
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図2.2はオイルポンプを組み立て,ハウジングに取り付けた様子です.
シャフト及びハウジングはすでに絶版であった為再使用する運びになりましたが,
ともに摩耗等の消耗は見られないことから,洗浄して再び使用しました.
またボデークリアランスやチップクリアランス,サイドクリアランスはすべて規定の範囲であることを確認しました.
図2.3 クラッチカバーに取り付けられたミッションオイルポンプハウジング |
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図2.3はオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)の完了したミッションオイルポンプを,
点検整備の完了したクラッチカバーに取り付けている様子です.
図2.4は整備の完了したクラッチカバー周囲の様子です.
クラッチカバーやウォータポンプカバー,オイルポンプカバー,各取り付けボルト,
ラジエータホース,そのクランプ等,錆の発生や腐食していたものはすべて新品に交換されたことにより,
銀の光沢の非常に美しいエンジン側面を再現することができました.
最終的に不具合のすべての部位を整備し,試運転において問題がないことを確認して整備を完了しました. |
【考察】
オイルポンプは大別してギヤ式とトロコイド式の2つに分類されますが,
2輪用エンジンにおいてはエンジンオイルポンプもミッションオイルポンプもトロコイド式が主流であり,
2サイクルエンジンオイルはプランジャ式が設定されている場合が少なくありません.
トロコイド式の場合,インナロータとアウタロータによるすき間がポンプの役目を果たしますが,
ボデークリアランスやチップクリアランスと同様に,
サイドクリアランスすなわちポンプカバーと各ロータのすき間も非常に重要であり,
当然深い傷や歪み等によりすき間が生じた場合,オイルが流出して油圧の低下につながります.
それは潤滑部の焼き付きの原因になる為,極力避けなければなりません.
今回の事例では部品供給があることや,コスト的にもわずかな投資で新品が得られること等から,
絶版であるボデー及びシャフト以外はすべて新品に交換しました.
これにより,今後一定期間は十分にオイルポンプの性能維持が期待され,
ミッション等の損傷といった無用な心配から解放されました.
金属摺動部は使用にともない必ず摩耗します.
やはり車両の症状として不具合が露見した時には,
すでにエンジン内部で重大な損傷を引き起こしている可能性が高いといえ,
そうなる前に走行距離やその他の要因から判断して必要な時期に適切に分解整備されることが大切であるといえます. |
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