負圧同調の崩れによるアイドリングのバラつきについて |
【整備車両】
GSX1300RY (GW71A) HAYABUSA 隼 「ハヤブサ」 年式:2000年 参考走行距離:25,000km |
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【不具合の状態】
アイドリング時のエンジン回転にバラつきが発生することがありました. |
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【点検結果】
この車両はアイドリングにバラつきが発生するということでメガスピードにて整備を実施したものです.フューエルインジェクションモデルであっても,スロットルボデーが各気筒に1つずつ設置されている場合は,それぞれの開度と負圧がそろわなければ,アイドリングがスムーズにいきません. |
図1.1はひとまず現在の負圧がどのようになっているかを調べている様子です.大きなズレはないものの,数値としてみると明らかに違いが見られました. |
図1.2はアイドリング状態における各気筒の負圧の発生状況です.1番から3番までは0.032MPa程度で落ち着いていますが,4番だけ0.036MPa程度と数値が大きいことが分かります. |
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【整備内容】
アイドリング時におけるバランスの崩れていた負圧の同調を取りました. |
図2.1は同調調整を行った負圧メーターの様子です.すべて約0.034MPa程度に落ち着いていることが分かります.これによりアイドリング時のエンジン回転のバラつきが解消しました.
メガスピードでは,バイク用ではなく一般の工業用の負圧メーターを使用しています.というのは,バイク用のメーターの目盛はあまりにも大雑把で正確な同調調整が難しいものが少なくないからです.一般の工業用のものであれば細かな数値まで読み取れるため,正確に同調調整を行うことが可能です. |
図2.2 基準位置のずれたスロットルポジションセンサ |
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図2.2は負圧の調整スクリュおよびアイドルアジャストスクリュを回したため,スロットルポジションセンサの基準位置が上段にずれたことを示しているメーターインジケータの様子です.この状態では問題がある為正しい位置に調整する必要があります. |
図2.3はトルクスを緩め,スロットルポジションセンサの位置をメーターのインジケーターを見ながら調整している様子です.インジケータの表示が3段階しかない為,中段であっても,上段に近い中段と下段に近い中段とでは微小なズレがあります.しかし信号としては中間という括りでしかない為,調整そのものがある程度ファジーであると言わざるを得ません. |
図2.4 基準内に入ったスロットルポジションセンサ検出位置 |
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図2.4は調整したスロットルポジションセンサの位置が正常であることを示している様子です.これにより負圧同調調整の作業を完了しました. |
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【考察】
2気筒以上のエンジンにおいて,燃料供給装置が2つ以上存在すれば,それは同調調整を必要とします.しかしそれはアイドリング時におけるエンジン回転速度の安定性を求める視点からであることを認識していることが重要で,スロットル全開時にはほとんど影響していないと言えるほど,人間の体では体感できないレベルの開度の差です.つまり,アイドリング時ではわずかなスロットルバルブの開きに対する各気筒のズレの割合が相対的に大きくなるのに対して,全開時の大きな通路に対するバルブの開きの差はは相対的に小さくなるということです.
もちろんバルブの開度が隣同士のシリンダであまりにも違うのであれば,全開時にも影響しますが,その様な状況が考えにくいのは,それ程開き具合に狂いがあれば,エンジンがかからない,あるいはかかってもアイドリングしない,といった致命的な症状がより早く出てくるからです.したがって,同調調整の主な目的はアイドリングの安定ということになります.
この車両もアイドリングにバラつきが発生し始めた為,負圧の同調調整を行いました.もちろんインジェクションモデルであれば,アイドリングのバラつきの原因は電子制御装置に関する不具合の可能性も視野に入れなければなりませんが,徐々にバラついてくる場合はやはり機械的なスロットルバルブ開度の調整のズレが原因であることが少なくありません.
今回の事例では,徐々にバラついてきたこと,そして自己診断で各センサのエラー等が検出されないことを考慮して,同調の狂いの可能性があると仮定し,ひとまず現在の負圧の状態を調べました.そしてズレが確認できたため,各気筒の開度を合わせて負圧同調調整を行いました.バラバラしている車両の同調調整を行うと,驚くほど回転と振動そして音が滑らかになることが少なくありません.やはり10年以上経過している車両であれば,どこかで一度同調調整を実施しておくことが望ましいと言えます. |
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