トップページ故障や不具合の修理事例【二輪自動車】 エンジン関係の故障、不具合、修理、整備の事例 (事例:251~260)


事例:E-259

電極の摩耗で過大になったプラグギャップがもたらすエンジン始動不能について

【整備車両】 
 ギア (UA63J)  推定年式:2007年  参考走行距離:メーター故障により不明
【不具合の状態】 
 緩やかに停止するときにエンジンがストールし,以後不動になりました.
【点検結果】 
 この車両は当社の前を通りがかったお客様のご依頼により修理したものです.近くの自動販売機で止まろうとしたろころ,そのまま回転が落ちてエンジンが止まり,それ以降かからなくなったということでした.たまたますぐそばに当社があったので,ご依頼されたものです.
 まずエンジンがかからなくなる条件は無限にあることをお伝えし,分かる範囲で簡易的に診断を行い,その結果スパークプラグに異常があるのではないかと考え,プラグから見ることにしました.


図1.1 プラグを取り外したホール
 図1.1はプラグホール周辺の様子です.比較的汚れは少なかったものの,プラグを緩めるときに不快な手ごたえがあり,取り外したプラグのネジ溝には油と泥の硬化した混合物が付着していました.


図1.2 電極の摩耗しているプラグ
 図1.2は取り外したプラグの様子です.中心電極と接地電極の両側が摩耗している上,碍子部にはカーボンが堆積し,全体的にガソリンがかぶっていました.これではインジェクションモデルと言えどもエンジンをかけるのは困難です.


図1.3 摩耗しているプラグ(左)と新品のプラグの比較
 図1.3は取り外した摩耗しているプラグ(左)と新品のプラグを比較した様子です.取り外したプラグは中心電極と設置電極が著しく摩耗し,プラグギャップも大きくなり過ぎていることが分かります.また不完全燃焼時に発生したと推測されるカーボンが堆積していることも特徴です.


【整備内容】
 電極の金属部が摩耗してなくなっている為,スパークプラグを新品に交換しました.


図2.1 エンジンに取り付けられた新品のスパークプラグ
 図2.1は新品のスパークプラグをエンジンに取り付けた様子です.その後はセルを回した瞬間にエンジンがかかりました.


【考察】 
 まずプラグに異常があるのではないかと推測した背景には,セルが回ることやオーバーヒートしていないこと,走行中にエンストしたのものではないこと,その他さまざまな要因から判断できたことにあります.今回は一発目で故障個所にたどり着きましたが,問診だけでは分からないこともあり,むしろ実際に各部を点検しなくては分からない事例の方が多いかもしれません.

 スパークプラグの電極がここまで摩耗するにはかなりの走行距離が必要です.メーター表示では2,000km台でしたが,おそらく1周以上しているはずです.問題なのは,プラグがこの様になる前に交換されなかったことです.そしてプラグを見る限り,車両全体がこの様にヤレている可能性があります.特に原付は点検整備されず乗り潰される場合が少なくありませんが,快適に安心して乗るには,やはり定期的に点検整備するというランニングコストは避けられず,それを惜しめば出先でのエンストといった仕打ちが待ち受けています.つまり“乗る”ということは大型バイクであれ原付であれ費用がかかり続けるということです.

 今回の不具合の原因は,プラグの湿り具合と煤の状態から判断して,電極が開いていくうちに放電が弱くなり,燃焼不良が発生しプラグに煤が付着して更に火花が弱くなるという負のスパイラルであると言えます.一度臨界点を超えてプラグが完全にガソリンでびしょびしょになれば,その後火花はリークして発生せず,エンスト後は二度とエンジン始動ができなくなります.いくらインジェクションになっても,どんなにECUが発達しても,ここまでプラグがやせ細れば何の意味もないことです.

 この車両はインターネットオークションで購入されたということですが,メーターが故障していたり,不具合がそのままになっている状態で乗られていたので,やはり
インターネットオークションでバイクを購入した場合は,整備のプロフェッショナルが整備して出品していたものでなければ,乗る前に自己点検することが必須です.未整備の車両はその手間の分安く落札できるのです.もし一度でも点検していれば,今回の様な極度に摩耗したプラグによるエンストは回避できたはずです.ましてや遅刻が許されないような通勤で使用する場合は安心できるレベルまで常に整備しておかなければならないと言えます.


(インターネットオークションについて)
 インターネットオークションは素晴らしいシステムです.このシステムのおかげで入手困難な車両やアイテムを手にすることも可能になりました.ですので私はインターネットオークションで購入することを否定する立場を取りません.しかしそのシステムの使い方を誤ると,この事例の様な事態に陥ります.
 安かろう悪かろうは当たり前です.安くて良いバイクがあれば私が買います.いえ,その様なものがあるのであれば,私が見つける前にすでに仕入れ専門のバイク業者が仕入れの為に落札しています.それほど業者はインターネットオークションを見ています.24時間見ています.とにかく見ています.どの世界でも必ず業者が介入しています.そして相場を超えた段階で業者は手を引きます.その様な連中を相手に素人が安くて良いものを見つけるのは中々難しいものです.逆に言えば,そうであるからこそ,自分が安く落札したモノが手元に来たときに当たりであれば嬉しさ倍増なのかもしれません. 本当に “当たり” であれば.


(ひと口メモ)
 今回の不具合において原因はスパークプラグ本体,つまりスパークプラグそのものが原因でカブリが生じ,エンストに至るケースだったことから,プラグ本体を新品にすることで症状が改善しました.しかしプラグ以外に何らかの原因があった場合,プラグを新品にしても瞬く間にカブリが発生する為,根本的な大元の不具合を改善しておく必要があります.





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