事例:E-149
スパークプラグ電極部が2サイクルオイルで満たされたことによるエンジン始動不能について |
【整備車両】
SE50MSJ (AF19) DJ1.RR 推定年式1988年 参考走行距離:10,000km(メータ1周)+約50km |
【不具合の状態】
数年間の屋内保管にてエンジン始動不能に陥っていました. |
【点検結果】
この車両は数年間屋内保管された後にエンジン始動不能になったものをメガスピードにて整備を実施したものです.
機械的な不具合は2サイクルエンジンオイルのエンジン内部への流入によるウォータハンマ現象が原因のロック ※1 ですが,
燃焼室まで充満していた2サイクルエンジンオイルはスパークプラグにもまとわりついていました.
この事例ではそのプラグの様子について取り上げます.
図1.1 2サイクルエンジンオイルがまとわりついている電極部 ① |
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図1.1はロックしたエンジンから取り外したスパークプラグ電極部の様子です.
燃焼室を形成するねじ溝まで2サイクルエンジンオイルが付着していました.
このことから,エンジンがロックしたのは燃焼室に2サイクルエンジンオイルが満たされたことにより,
液体の非圧縮性からいわゆる“ウォータハンマ現象”を引き起こしていたものであると断定することができます.
図1.2 2サイクルエンジンオイルがまとわりついている電極部 ② |
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図1.2は図1.1のプラグの撮影角度から時計回りに45度回転させた様子です.
中心電極と接地電極が完全に2サイクルエンジンオイルによりつながってしまっている為,
短絡あるいは絶縁状態になっており正常な火花を放電出来ないばかりでなく,
火炎核を形成するスペースがすでに2サイクルエンジンオイルで埋め尽くされていることから,
どう頑張ってもこの状態ではエンジンを始動させることは不可能です. |
【整備内容】
エンジン内部に流入した2サイクルエンジンオイルの除去,
2サイクルエンジンオイルの流入したキャブレータの整備を中心に各部を整備しました.
スパークプラグについては各部のリフレッシュに合わせて新品に交換しました.
図2.1はキャブレータのオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)及び,
エンジン内部から2サイクルエンジンオイルを排出し,各所整備した段階で試運転,セッティングを実施し,
走行後に取り外したプラグの様子です.
混合気の空燃比が理想的ないわゆるきつね色になっていて,焼け色に美しささえ感じ取れます.
スムーズな始動そして力強い加速だけでなく,フィーリング面からも楽しく走行できることを確認して,
すべての整備を完了しました. |
【考察】
今回のエンジン始動不能の原因は,
2サイクルエンジンオイルがキャブレータ内部及びエンジン内部に流入したことによるエンジンロック,
ガソリンの供給不能,スパークプラグの放電不能という3つの要素が絡み合っていました.
この事例ではスパークプラグについて取り上げましたが,
整備完了後の図2.1で確認できるように,2サイクルエンジンオイルを同時に燃焼するエンジンであっても,
正しく調整されることによりプラグ電極部はその自己清浄性能から燃えカスを寄せ付けず,
非常にさっぱりした状態になります.
搭載されているエンジンが2サイクルであることから,
整備後にかぶりを発生させてエンジン停止に陥らない様にする為にも,
やはり正確にキャブレータを整備・調整し,プラグを理想的な焼け具合にさせる技術的水準が求められるといえます.
※1 “2サイクルオイルのエンジン内部への流入によるエンジンロック(ウォータハンマ現象)について”
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