事例:E-141
希薄燃焼がもたらすプレイグニションによる融解したスパークプラグ電極部について |
【整備車両】
R1-Z (3XC) 3XC3 推定年式:1993年 参考走行距離:約19,400km |
【不具合の状態】
高速走行中にエンジンが停止しました. |
【点検結果】
この車両は高速を走行中にエンジンが停止したということで,メガスピードにて点検整備を承ったものです.
各部を詳しく点検したところ,
原因はプレイグニションが引き金のピストン融解によるエンジン焼き付き ※1 であることが分かりました.
ここではその際に取り外したスパークプラグについて記載します.
図1.1はピストンが溶解していた2番シリンダのスパークプラグ【NGK BR8ES】の様子です.
詳しく分析する為,プラグの周りを60°ずつ6箇所で撮影しました.
接地電極が溶解していて長さが半分程度しか残っていませんでした.
原因が燃焼温度の上昇によるものであるとすれば,
局部的には2,000℃程度あるいはそれ以上になっていた可能性があります.
また碍子部やその周囲には融解したピストンと見られるアルミニウム合金が,
いわば火砕流が冷えて形成された様な状態になっていました.
これにより燃焼室内で放電が不可能になると同時に溶解したピストンがシリンダに流れ込み,
エンジンを停止させたものであると考えられます.
|
【整備内容】
エンジンそのものはオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)により修復された為,
キャブレータのセッティングを変更することによりプレイグニションによる焼き付きの防止を図りました.
図2.1はエンジン慣らし運転を含めて500km程度走行してから取り外したスパークプラグ【NGK BR9ES】の様子です.
熱価はプレイグニションを警戒して9番を使用した為に多少のカーボンの付着は見受けれらますが,
走行そのものは非常に良好で,2サイクルパラレルツインらしい鼓動と加速を得られました. |
【考察】
プレイグニションが発生すると,燃焼温度の上昇が際限なく続く為,
ピストンが融解してエンジン焼き付きに至ります.
この事例ではプラグの電極も溶解していたことから,
燃焼室内部は部分的に2000℃あるいはそれ以上に加熱されたと考えられます.
断定できないものの,状況からプレイグニションの発生原因は希薄燃焼であると推測されます.
やはりガソリンの気化潜熱による燃焼室内の冷却作用を損なうことなく,
かつスムーズな吹け上がり,豊かなトルクを実現する最適なセッティングが求められるといえます.
※1 “希薄燃焼によるプレイグニションがもたらすピストン融解とエンジンの焼き付きについて”
|
|