トップページ故障や不具合の修理事例【二輪自動車】 エンジン関係の故障、不具合、修理、整備の事例 (事例:161~170)


事例:168

ねじれたまま取り付けられているラジエータマウントブッシュについて


【整備車両】

 R250EW-4W (GJ21B) RG250Γ(ガンマ) 4型  推定年式:1986年  参考走行距離:約3,900km


【不具合の状態】

 ラジエータマウントブッシュがねじれて取り付けられており,

 ダンパ機能の低下やゴムの早期消耗が懸念される状態でした.


【点検結果】

 この車両はお客様のご依頼により各所分解整備をメガスピードにて承ったものです.

外観目視点検を実施したところ,ラジエータマウントブッシュが著しくねじれていることが分かりました.

RG250Γは型式GJ21AもGJ21Bもともにラジエータの設置をリジッドではなく,

ブッシュを介してフローティングマウントさせる設計になっている為,4か所に同様のゴムボルトが使用されています.



図1.1 大きくねじれているラジエータマウンブッシュ

 図1.1の黄色丸で囲んだ部分はラジエータマウントブッシュです.

大きく時計回りにねじれていて,見た瞬間に取り付け作業ミスであると判断することができます.

これではねじれによる力がゴム内部に存在し続けることにより,

亀裂や損傷を引き起こす原因にもなるといえます.



図1.2 正常な形状のラジエータマウントブッシュ(左)とねじれたマウントブッシュの比較

 図1.2は正常な形状の中古ラジエータマウントブッシュ(左)と取り外した大きくねじれているブッシュを比較した様子です.

取り外したゴムのねじれ方向から,明らかに締め付け時にねじってしまったこと断定することができます.

図の様にすでに取り外しても形が戻らない状態なので,ある程度この状態で固まってしまったと考えることができます.

 このラジエータマウントブッシュはコンプレッション・タイプであり,

インシュレータゴムの圧縮方向のばね力を利用して振動吸収効果を発揮するものですから,

ねじれという現象そのものが本質からずれているといえます.



【整備内容】

 すでに部品が絶版であることから,新品を使用するという選択肢はありませんでした.

ねじれているゴムは加熱加工することによりある程度元の状態に復元することが可能ですが,

今回の事例ではお客様が部品取り車を所有されていたことにより,そこから部品を調達していただきました.

お客様が予備の部品を保管されていた場合は非常に助かる格好の事例であるといえます.



図2.1 正確に取り付けられた良質のラジエータマウントブッシュ

 図2.1はエンジンオーバーホール完了後にラジエータを取り付けた様子です.

塗装されたホイールや新品のタイヤ,ラジエータホース,クランプ等の装着により,

図1.1のほこりをかぶった状態と比較して非常に綺麗になっていることが確認できます.

正確に取り付けられたラジエータマウントブッシュはその六角形を正しくかつ美しく保ち,

ラジエータを正確に保持するだけでなく,外観の美しさを演出していることが分かります.

もう一度図1.1のねじれたマウントを見ていただいた後,再びこの正確に取り付けられたゴムをご覧いただければ,

いかにねじれているゴムが不自然かつ機能的幾何学模様を無視した取り付けられ方をしていたかを

より一層明確に認識することができるはずです.



考察】

 どの分野においても言えることですが,最後にその出来栄えの質を決定するのは人間性です.

ヒューマンエラーは必ず存在しますが,明らかなミスである場合,それに気づいて修正されなければなりません.

この事例の場合はゴムがねじれたまま取り付けられていました.

背景には作業者が素人であり,全く機能を考えずに取り付けた結果ねじれてしまったという点,

そしてねじれたまま放置されてしまった点の大きく分けて2つが原因であるといえます.


 部品を見た時に,なぜゴムに六角部分が2つあるのかを考えなければなりません.

部品に無駄な機能は一切ありません.

コストがかかる為,わざわざ意味のないことはしないのです.

したがって,まずこの点について,部品を分析する必要があります.

ダンパの役割はゴム部が受け持つ,取り付けは両端の2か所のスタッドボルトが受け持つ,

では六角部分は何か.

例え仮に六角の意味が分からずそのまま付けてしまっても,ラジエータを取り付ける時にゴムがねじれる為,

何の為に2か所の六角があるか,気付くチャンスがあります.

そう,フレーム側は部品そのものを,ゴム部がねじれない様にフレームに取り付ける為の六角,

そしてラジエータ側の六角は,部品のゴム部がナット締めの際に共回りしてねじれない様に保持する為にある,と.

そこを見逃してはなりません.


 人は必ずエラーを起こします.それは決して免れようのない現象です.なぜなら人間そのものが不完全だからです.

しかしそれをいかにゼロに近づけることができるか.

そしてその為の努力をいかに惜しまずにできるか.

それが人間性を左右していき,実はそれは整備以外の他のどの分野・職業でも等しく言えることなのです.


 人間は不完全です.そして確かに葦の様に弱い存在ですが,しかしそれは考えることができるのです.





Copyright © MEGA-speed. All rights reserved.