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事例:E-267

長期保管中におけるオイルチェックバルブの衰損がもたらすエンジン始動不能について

【整備車両】 
 RG500EW (HM31A) RG500Γ(ガンマ) 1型  年式:1985年  参考走行距離: ― 
 
【不具合の状態】 
 エンジン始動不能に陥っていました.
【点検結果】 
 この車両は長期保管中にエンジンがかからなくなり,メガスピードにて再生のご依頼を承ったものです.リングが硬化していたり,エアフィルタが劣化していたり,フロントブレーキが引きずっていたり,様々な不具合が発生していましたが,今回の事例では衰損していたオイルチェックバルブについて記載します.

図1.1 2ストオイルがあふれ出している1番シリンダキャブレータ
 図1.1 は点検の為エアパイプを取り外したところ,1番キャブレータの口から緑の液体が噴き出てきた様子です.エアパイプ内部にも液体が確認でき,液体の正体は2サイクルエンジンオイルに他なりません.毎回おなじみの症状ですが,こうなるとキャブレータの中身も,おなじみの結果が懸念されます.

図1.2 2ストオイルで満たされたフロートチャンバおよびボデー
 図1.2 は懸念通りフロートチャンバ内部にあるはずのガソリンがすべて2サイクルエンジンオイルで置換されている様子です.各ジェットやフロートもオイルまみれになっています.これでは絶対にエンジンをかけることはできません.

図1.3 オイルチェックバルブの抜き取られたハウジング
 図1.3 はオイルチェックバルブの抜き取られたハウジングの様子です.まったく傷をつけることなく抜き取りに成功しています.再度オーバーサイズのニップルを圧入する為にも,可能な限り接続部を含め傷をつけずに抜き取らなければなりません.

図1.4 不具合の発生していたオイルチェックバルブ
 図1.4 は不具合の発生していたオイルチェックバルブの様子です.新品の基準が不明な点や,目視では確認できない傷等がある為,物理的な漏れの原因は究明できませんが,結果的にオイルラインを密封できなかったことが今回の不具合の直接の原因になります.


【整備内容】
 2ストオイルまみれになったキャブレータをオーバーホール(分解整備・精密検査)し,オーバーサイズのニップルを圧入すると同時にその上流に新品のオイルチェックバルブを取り付けることで対処しました.

図2.1 洗浄されたキャブレータ構成部品
 図2.1 は点検洗浄したキャブレータボデーおよびフロートチャンバの様子です.オイルが細かな隙間まで浸透していた為,特にメインエアジェットが埋め込まれているスロットルバルブガイドを始め,細部も確実に洗浄する必要がありました.


図2.2 新品のオーバーサイズのオイルチェックバルブニップル
 図2.2 はオーバーサイズの新品のオイルチェックバルブニップルの様子です.材質が新品になったことにより今後長年にわたり使用できるようになりました.また圧入に対してもオーバーサイズであることから信頼性が確保されます.

図2.3 ボデーに圧入された新品のオーバーサイズのオイルチェックバルブニップル
 図2.3 は洗浄したハウジングに新品のオーバーサイズのオイルチェックバルブニップルを圧入した様子です.これによりキャブレータ側がストレート化され,オイルを供給する際に無駄な抵抗がなくなりました.

図2.4 内部の洗浄されたキャブレータボデー
 図2.4 は新品の当社特性ガスケットを使用してスロットルバルブガイドとボデーを取り付けている様子です.スロットルバルブガイドを取り外す一番のメリットはメインエアジェットを確実に洗浄できることですが,カバーを取り外せば合わせ面がドロドロになっていることが大半ですから,その汚れを洗浄するだけでも十分にこの段階まで整備する価値があります.

 もちろんこれは当社専用のガスケットですが,例えウェブサイトでこのガスケットのみ入手できるルートがあったとしても,それを使用して確実にオーバーホールできる知識と技術・故障診断能力・経験等がなければ何の意味もありません.メガスピードに持ち込まれた車体のうち,どこかのバイク屋で整備したとされる500/400Γのキャブレータが全く出鱈目でグチャグチャのケースが多いことからも,それは明らかです.

図2.5 整備の完了したフロートチャンバ内部
 図2.5 はフロートを始め,取り外しできるキャブレータ構成部品をすべて新品に交換した様子です.これにより不具合の発生原因を残すことなく,この先長年正常に機能することになります.単純な構造のVM28型キャブレータですが,単純なものでも4気筒同時に調整する必要がある為,非常に奥深いものとなっています.

図2.6 オーバーホールの完了したキャブレータ
 図2.6 はオーバーホールの完了したキャブレータを車体に取り付けた様子です.性能を取り戻すのは当たり前のことですが,メガスピードで実施したものとして私が強調したいのは,やはりその見た目の美しさです.手作業により何時間も,何日も洗浄し磨き続けることになりますが,それだけ大変でも結果として美しさを取り戻せるのであれば,やはりやりがいがあります.どんなにバイクの調子が良くなったとしても,キャブレータの外観が汚れていたのでは何もかも台無しですし,漏れや不具合を確実に検査する為には可能な限り洗浄して美しくしくする必要があります.見た目が美しくなり,性能が戻って初めて人は満足するものです.少なくとも私はそうです.特に古い車両に関してメガスピードには【極上フルコース】しか存在しないのはその為です.もし【並コース】でやって予算削減ばかりしていては,点検すべき個所もすべて見れず,結果的にやり残しが存在し,不具合の原因を排除しきれなくなるからです.かかるものはかかるのです.中途半端ならできません,そう言うしかないのです.


【考察】 
 キャブレータに2サイクルエンジンオイルが流れ込む不具合はRG500/400Γにとってはごく自然な現象です.1985年頃に製造されたものですから,数十年経過すればダメになって当たり前であり,取り立てて騒ぐほどのことではありません.この問題に対してメガスピードではキャブレータ内部をストレート加工し,新品のオーバーサイズのニップルを圧入してオイルラインに新品のオイルチェックバルブを取り付けることで対応しています.

 この事例に出くわすたびに思うことがあります.それは,発売当時の設計者は耐久性に30年も40年もあとのことは考えていないということです.むしろ考える必要すらありません.バイクブームで毎年モデルチェンジしていたことろの産物です.次から次へと買い換えるムードがあったでしょう.その中で何十年も使い続けるという概念そのものが存在するはずがないのです.そして私がこの様に何十年も未来のインターネットが張り巡らされた世界においてホームページで御託を並べているなどとは夢にも思っていなかったはずです.







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