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事例:96

キックペダル取り付けボルトの緩みと強度不足によるワッシャの歪みとの関連性について


【整備車両】

RG400EW-W (HK31A) RG400Γ(ガンマ) Ⅰ型  年式:1985年  参考走行距離:約13,400km


【不具合の状態】

キックペダル使用時に若干の違和感及びガタつきがありました.


【点検結果】

 この車両は他店で購入されたお客様から各所分解整備のご依頼を承り,メガスピードにて整備を行ったものです.

外観目視点検を行っていると,キックペダルの取り付けボルトが純正でないことに気づきました.



図1.1 完全に緩んでいるキックペダル取り付けボルト

 図1.1はキックペダルの取り付けボルトの状態を確認した様子です.

指2本で容易に回ってしまう程ボルトが緩んでいました.

この状態でのキックペダル使用時に違和感及びわずかながたつきが感じられました.



図1.2 キックペダル取り付け部

 図1.2は緩んでいたボルトを取り外した様子です.

雌ねじの状態やシート部に大きな不具合等が見られないことから,

単純にボルトが緩んでいたものであると判断することができます.



図1.3 新品のフランジボルト(左)と取り外したワッシャの歪んでいるボルト

 図1.3は新品のフランジボルト(左)と緩んでいたボルトの様子です.

取り外したボルトはフランジボルトではなく,一般のボルトにワッシャを取り付けたものでした.

純正部品のフランジ部は外径が約24.2mmであり,取り外したワッシャの外径が27.5mmであることから,

古いワッシャは約3.3mmも無駄な部分があり,

それがボルト中心から影響を受けて歪んでしまった原因のひとつであるといえます.

これはキックペダル取り付け部の外径が28.5mmということから,

いくら接触面積が大きくても,最終的にはワッシャの強度によりボルトが確実に締め付けられるか否かを示しています.

すなわち歪みの直接の原因は純正のフランジの厚みが一番薄いところで約2.8mm,

ボルト付け根の一番厚いところで約3.8mmあるのに対し,

取り外した歪んだワッシャは厚みが約1.6mm程度しかないことだといえます.

これでは強度不足により締め付けの際に歪むのも無理はありません.


【整備内容】

 ワッシャが歪んでいることや,外径や厚みが不適切であることを考慮し,部品を新品に交換しました.



図2.1 純正のボルトで正確に締め付けられたキックペダル

 図2.1は純正の新品のフランジボルトをキックペダルに規定トルクで締め付けた様子です.

錆の発生していたペダルのシャフト取り付け部も同時に錆取りを行い,

動作性能に異常が見られないことを確認して整備を完了しました.


考察】

 メガスピードではRG400Γ (HK31A) の整備を承る機会が多く,純正でない部品や取り回しの異常は見た瞬間に分かります.

今回の事例ではキックペダルの取り付けボルトに視覚的な違和感があった為,

確認したところ完全に緩んでいることが分かりました.

純正部品が必ずしも最良とはいえない場合も存在しますが,

基本的には製造元の技術者が設計した意図を尊重すべきであるといえ,

必ずその形状なり性能なりに適した構造になっています.

確かにこの事例でも「ボルトを締め直して,きちんと締まっていれば問題ないのではないか」,

という見方や意見もあるでしょう.しかしそれは賢明ではありません.

なぜならボルトの締め付けに際し,ワッシャが強度不足で3.2mmも歪んでしまっている上,

完全にボルトが緩んでいたからです.

これは一度はワッシャが歪む程度の力がボルトにかけられていたことを示し,

それが緩むということは,再度締め直しても近い将来再び緩む可能性が非常に高いことを意味しています.

すなわち,ワッシャの選定を完全に誤ったことにより,締め付けの際にワッシャが歪む為,

規定トルクで締め付けることができず,結果的に不十分な締め付けでボルトが緩んでしまったと考えられます.

純正のフランジボルトのフランジの厚みが最薄部で約2.8mm,最厚部で約3.8mmあり,

取り外した歪んだワッシャは約1.6mm程度しか厚みがありません.

これでは規定トルクの締め付けに耐えられるはずがなく,ワッシャが歪むのは当然の結果といえます.


 問題はワッシャが歪んでいるのにそれをそのまま他店の販売業者がお客様に納車したことです.

車両を販売した業者が純正部品に交換する手間や費用を惜しんだのか,

それとも,そもそもキックペダルのボルトが違うことやワッシャの歪みに気づくこともなかったのか,それは分かりません.

業者が仕入れる前に所有していた者が素人整備した結果であったとしても,

業者としての立場であれば,やはりキックペダルのボルトの緩みとワッシャの歪みに気づき,是正しなければならないといえ,

少なくともエンジンをかける際にキックペダルを広げた時点で,

視覚はもとより触覚を含めた何らかの違和感を感じ取る能力が必要です.


 優れた整備技術者とは,修理や整備の物理的修復技術があるのは当たり前であり,

最後は異常に気付くことができるかどうか,そして気付いた場合に分析して再発防止を含めた対処ができるかどうか,

人間性の問題によるところが大きいといえます.





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