事例:116
ガスケットの劣化によるジェネレータカバーからのオイル漏れについて |
【整備車両】
GSX1300RY (GW71A) "HAYABUSA" 隼 (ハヤブサ) 年式:2000年 参考走行距離:約22,400km |
【不具合の状態】
ジェネレータカバーからオイル漏れが発生していました. |
【点検結果】
この車両は極上美車ということで大手量販店から購入されたものですが,
走行距離が20,000kmを超えていた為,メガスピードにてエンジンオーバーホールを含めて各所分解整備を実施しました.
ここではジェネレータカバーから発生していたオイル漏れについて記載します.
図1.1 オイル漏れの発生しているジェネレータカバー |
|
図1.1はオイル漏れの発生しているジェネレータカバーの様子です.
オイルがカバー下部で滴になっている程漏れの程度が甚大でした. |
【整備内容】
この車両はエンジンをオーバーホールした為,オイル漏れもその際に修理しました.
図2.1 合わせ面の修正研磨されたジェネレータカバー |
|
図2.1は取り外したジェネレータカバーとそれに取り付けられているステータコイルの様子です.
カバーとエンジンの合わせ面を修正研磨し,ステータコイルは測定の結果良好であると判断しました.
図2.2 オイル漏れの修理されたジェネレータカバー廻り |
|
図2.2はオイル漏れの修理されたジェネレータカバー周辺の様子です.
ボルト等はすべて新品に交換した為,オーバーホールされたエンジン本体や新品に交換されたラジエータホース類,
新品のリザーバタンク等と相まって非常に美しく仕上がっていることが分かります.
実際に試運転を行い,オイル漏れの解消したことを確認して整備を完了しました. |
【考察】
この車両は販売元の大手量販店で前オーナーの依頼により長年メンテナンスされていたということですが,
ひとたびカウルを取り去れば,不具合を多数内在している水準でした.
今回はジェネレータカバーからのオイル漏れをとりあげましたが,
車両の発売が2000年ということから,オイル漏れの原因はガスケットの劣化による密封性能の低下等が考えられます.
GSX1300RY (GW71A) "HAYABUSA" 隼 (ハヤブサ)はその高速時における性能設計からフルフェアリングであり,
繋ぎ目が重ね合わせられているフルカバードの構造であることから,
カウルを取り外す作業に非常に時間と手間がかかります.
その為に実際には外装が取り外されず,外部からの目視点検で良しとされる嫌いがあります.
しかしそれでは正確な車両の状態など把握できるはずはありません.
この車両をメンテナンスしていたという大手量販店の人間が,
実際にどのレベルの知識と技術を持ち合わせていたかは分かりませんが,
少なくとも,これだけのオイル漏れが瞬時に発生するはずがなく,
長期間に渡りじわじわ起こっていたと考えるのが自然です.
それを見過ごす程度の技量であったのか,あるいは手抜きにより外装を取り外して確認しなかったのか,
いづれにせよ車検のある車両であることから,車検整備の際には是正されなければならないレベルの漏れといえます.
当然フルフェアリングの状態では当該個所は隠れてしまう為,車検場の検査官も気づくはずがありません.
オイル漏れは,密封している部品の経年劣化等により必ず発生します.
したがって,特にカウルが装着されている車両は尚更事細かにオイル漏れの点検がされるべきであり,
その中でもフルカバードされている車両はより一層入念にエンジン廻りの点検が行われる必要があるといえます.
この様なことを記載しなければならない現状レベルの低さを嘆いてばかりいられないのは,
何しろ人間がかかわっているからです.
人間は元来怠惰である,あるいは楽な方へと流れたくなる傾向にある,という見解に完全に同意することはできないものの,
実際にこの様な事例ばかり見ていれば,ある程度はうなずかざるを得ません.
整備技術者の資質の1つとして,私は,
“面倒なことを当たり前の様に,そしてすべての段階において同様に神経を尖らせた作業ができること”,を挙げます.
例えば小学生の漢字練習で言えば,10ページも20ページも連続して遂行する様な,
一見不毛ともいえる動作を確実に行える忍耐力,集中力が必要です.
ましてや大人であれば,5時間6時間は当たり前にひとつのことに集中して取り組める能力が必要です.
したがって点検の為にカウルを取り外すのが面倒などと思ってしまう様では到底水準に到達することはできません.
面倒でも何でもやらなければなりません.やらなければ中身は分からないのです.
“面倒”という単語が一瞬でも脳裏をよぎる様では,まず優れた整備技術者になることは不可能です.
300km/h超という最高速を誇る車体を目の前にして面倒という意識が浮かぶこと自体,
そのメーカーや設計者,ひいてはオーナーに対して非常に失礼であるといえます.
逆輸入車がまだ高嶺の花であった頃,
その車体を整備する機会が逆輸入車を知ることのできる数少ないチャンスであった頃,
整備者は今よりもずっと,車両に対する接し方は謙虚で優しかったはずです. |
|