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事例:E-156

不適切な長さにより垂れ下がった燃料ホースについて


【整備車両】

 RG400EW-2W (HK31A) RG400Γ(ガンマ) 2型  年式:1987年  実走行距離:約1,200km


【不具合の状態】

 燃料ホースの長さが不適切でジェネレータカバー側面に垂れ下がっていました.


【点検結果】

 この車両は不動に陥ったものであり,お客様の再生のご依頼をメガスピードにて承ったものです.

今回の事例ではキャブレータ間の燃料ホースについて記載します.



図1.1 不適切な燃料経路

 図1.1は入庫して現状を確認する為にエアパイプを取り外した様子です.

明らかに不適切な燃料経路であることが分かります.

燃料コックからのメインホースについては,

お客様がタンクを取り外した際に仮付けされたままの状態なので不具合から除外します.

私はRG500/400Γを体系化している為,見た瞬間に異常に気づくことができますが,

一般論として,この状態を見て整備技術者であれば気がつかなければならない最低限のポイントが2点あります.

1つ目はホースが垂れさがってしまっている点です.

燃料供給が自然落下方式である場合,このような垂れ下がったパイピングは致命的であるといえます.

したがって,これを見た瞬間に異常であると認識する能力が必要です.

そして2つ目はそれを裏付ける様にホースの保護スプリングがホース全体をカバーしきれていないということです.

多くの部位に置いて擦れ防止の保護スプリングはホース全長をカバーする設計になっているので,

これを見た瞬間に,ホースが不適切なほど長い,あるいはスプリングが極端に短い為純正ではない,

という2つのポイントを引き出す必要があるのです.

そしてホースが垂れ下がっていることから,スプリングは適当でホースが長過ぎる可能性がある,

という診断結果を導かなければなりません.


 次に,3番キャブレータのドレンホースが1番と3番を連結する燃料ホースより外側に出ている点が望ましくないといえます.

本来位置関係からドレンホースの方が内側を通って下部に配管されるべきであり,

取り回しのスムーズさ以上に見苦しさの問題も無視することはできません.


 新品の燃料ホースは長さが600mmで入荷する為,

整備する人間が使用部位に対して適切な長さで切り詰める必要があります.

このホースが長過ぎていることは明白ですが,お客様が乗らなくなる直前に整備した業者によるものであると推測されます.

ホースの長さを資料等により予め候補としての寸法を認識しておくことは必須ですが,

少なくとも交換する際に取り外した古いホースの形状を見て,

これから取り付けるべきものと比較して整合性を確認していれば避けることのできた整備ミスです.

ホースの長さはメーカーが指定した数値を基準に整備技術者が現物に合わせて多少の工夫をするものですが,

この事例の取り付けは“アウト”です.

例えフロートチャンバのドレンボルトに工具が入りやすくする為の逃げを狙ったものだとしても,

これだけホースが垂れていては燃料供給に影響を及ぼすことを考える必要があるのは,

何も2スト400という燃料を多量に消費するエンジンでなくても,当然のことなのです.



【整備内容】

 コストを削減するのであれば,確かに長い燃料ホースを一旦取り外して切り詰めるという作業も不可能ではありませんが,

少なくとも10年放置されて硬化した燃料ホースに実際にその様な処置をして再使用するという行為は愚かであり,

そういった類の選択肢は初めから存在しません.

したがって今回の整備では新品の燃料ホースに交換して適正な長さに調整すると同時に,

擦れ防止スプリングや取り付けクリップ等も新品に交換しました.



図2.1 適切な長さに調整された新品の燃料ホース及び防護スプリング

 図2.1は適切な長さに調整した新品の燃料ホースの様子です.

ジェネレータカバー上部を沿う様に配管され,全く無駄がありません.

図1.1と比較すればその違いが明確に把握できます.

また擦れ防止の為の保護スプリングの長さも新たに調節したホースに適合していることが分かります.

今回の整備では経年等を考慮し,その他のホース類もすべて新品にしました.

オーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)されたキャブレータのアルミニウム合金の光沢と,

それに共演する様にスプリングやクリップが銀色の光を放ち,

とても美しく,非常に機能的でさっぱりしたキャブレータ廻りを取り戻すことができました.



考察】

 特に燃料供給方式がタンクからの自然落下式の場合,

必ず燃料ホースの下流側が下側になる様にパイピングすることが重要であり,

わずかな傾斜が思わぬ燃料供給不足を引き起こす場合が少なくありません.

やはり正規の指示に沿った形で燃料ホースの切り取りを実施すべきであり,

“大は小を兼ねない”ことが明確なケースであるといえます.

燃料ホースは単に規定より長ければ良いというものではないのです.


 RG500/400Γのキャブレータ廻りの配管は,キャブレータ間を連結する燃料ホース,そのスプリング,

スタータホース,SIPCホース,エアベントホース,ドレンホース,オイルホース及びそれらのクリップ,

そしてスロットルケーブルとチョークケーブルといった他車種に見られない多くの配線,配管が複雑に,

それでいて機能的に,配置されています.

これだけの配管配線が集合している為,素人整備により不適切なホースやクリップがついていたり,

あるいは取り回しがいい加減で不適切といった,見るからにグチャグチャにされている車両が少なくなく,

その様なキャブレータ廻りはかなり悲惨であるといえますが,

優れた整備技術者により正しくパイピングされたそれは,非常に美しく機能美を感じずにはいれません.

その様な理想を追求し,更なる高みに達する為に,メガスピードでは日々研鑚を重ねてまいります.

そしてそれをお客様にフィードバックさせていただけることが何よりの喜びであるということを付け加えておきます.





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