トップページ故障や不具合の修理事例【二輪自動車】 エンジン関係の故障、不具合、修理、整備の事例 (事例:71~80)



取り付け面の荒れとスプリングワッシャの衰損による排気漏れについて


【整備車両】

RG500EW-2W (HM31A) RG500Γ(ガンマ) Ⅱ型  年式:1987年  参考走行距離:約14,000km


【不具合の状態】

1番シリンダから4番シリンダまで4気筒すべてにおいて排気漏れが発生していました.


【点検結果】

この車両は他店でお客様が購入されたものの,公道を走行する前に一通り点検整備しておきたいというご希望を承り,

メガスピードに入庫されたものです.カウルを取り外して外観目視点検から行うと,

1番から4番までのすべてのシリンダ付け根から排気漏れが発生していることを確認しました.



図1 排気漏れの発生している4番シリンダ

図1は排気漏れの発生している4番シリンダと排気チャンバの付け根の様子です.

すべてのシリンダで漏れが発生していましたが,特に4番に著しい漏れが確認できました.



図2 エンジンに落下,付着した漏れ出した排気ガス

図2は4番シリンダの排気チャンバを取り外した様子です.

黄色い四角Aで囲んだ部分は燃焼し切れなかったオイルとガソリンの混合物で,

漏れ出した結果,黄色い四角Bや黄色い四角Cの部分に落下し堆積していました.



図3 シリンダとの接触面が荒れている排気チャンバ

図3は排気チャンバのシリンダの取り付け部です.

黄色い四角Aで囲んだ部分の傷は内側から外側まで達していました.

これでは排気圧力がかかれば容易にそのすき間から排気ガスが外部に漏れ出すといえます.

また黄色い四角で囲んだB,C,Dは,それぞれ肉がえぐれる様に痩せているのが分かります.

周方向の傷は取り付け時の接触部分であると判断できますが,

これらの傷やへこみ等が排気ガスが外部に漏れ出す原因になっていたと考えられます.



図4 新品のスプリングワッシャ(左)と取り外した潰れているスプリングワッシャ

図4は新品のスプリングワッシャ(左)と取り外したスプリングワッシャを比較した様子です.

取り外したものは使用された結果,スプリングが潰れて単なるワッシャになっていました.

部品の役目はナットの緩み止めですが,同時に不要な振動を防止し,

チャンバ付け根をシリンダに押し付ける役割も担っている為,取り外したワッシャにはその性能が衰損していたといえます.

新品のワッシャの厚みは約2,67mmで取り外した古いワッシャの厚みは約1,54mmでした.

このことから取り外したワッシャが当時のスズキ純正部品であると仮定すると,

部品統合あるいは改良により変更されたことが考えられます.

測定すると新品の厚みは取り外した古いものに比べて約73,3%厚みが増していて,

これは緩み防止性能のみならず,チャンバをシリンダに押し付ける力も増加していると判断でき,

取り外したものが指定外の部品であれば,不適切なスプリングワッシャが排気漏れを助長していたと推測されます.


【整備内容】

エンジンシリンダの排気チャンバ接続部の洗浄から整備を行いました.

図5 点検洗浄した4番シリンダと排気チャンバの付け根

図5は点検洗浄した3番及び4番シリンダ排気側の様子です.

シリンダ側の接続面の状態は比較的良好な状態でした.



図6 シリンダとの合わせ面を研磨した排気チャンバ

図6は排気チャンバのシリンダ接続部の面を修正研磨した様子です.

内部と外部がつながる傷や,腐食による崩れ等,荒れていた面を平滑に研磨しました.



図7 漏れが停止した4番シリンダと排気チャンバ

図7は4番シリンダに接続された排気チャンバの様子です.

試運転を行い,排気漏れが解消したことを確認して整備を完了しました.


【考察】

排気漏れが発生するということは、シリンダ端面の排気ポートとエキゾーストチャンバにすき間が発生し,

そこから排圧のかかった排気ガスが漏れ出しているということです.

厳密にいえば排気圧力はわずかに漏れ出すことにより低下し,脈動等排気を利用した性能に影響します.

しかし市販車でわずかに排気漏れが発生してもそれが性能の低下に占める割合は微小であるといえ,

性能云々より,漏れ出した排気ガスとオイルの黒い粘液がエンジンを始め周囲を汚してしまうことが問題であるといえます.

この事例では特に4番シリンダの排気漏れが著しく,そこから漏れ出した液体がエンジンに堆積していました.

その液体により直接性能の低下に陥る箇所はないといえますが,エンジン外観はそのコンディションを把握する為にも,

可能な限りきれいな状態にしておく必要があります.

それは見た目の清潔感もさることながら,

オイル漏れが発生した場合にその発生源を突き止めることが正確かつ容易になる為です.

2サイクルエンジンは構造から排気ガスに未燃焼混合気やオイルが含まれ,それらが黒い液体として周囲に堆積します.

特に20年以上経過した古い車両になると,排気漏れを発生させたまま乗られているユーザーを見ることが少なくありません.

やはり黒い液体をダラダラ垂らしたまま乗る姿は美しいとはいえず,

症状に気づいた場合は機能の面のみならず,外観からも早急に修理されることが望ましいといえます.





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