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事例:121

バルブに堆積したカーボンや燃焼生成物によるエンジン出力の低下について


【整備車両】

 CBR250RJ (MC19)  推定:1988年  走行距離:約65,000km


【不具合の状態】

 
エンジン高回転時のパワーが低下している状態でした.


【点検結果】

 この車両は無くなってしまった高回転のパンチ力を取り戻したいというお客様のご希望を承り,

メガスピードにてシリンダヘッドのオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)を実施したものです.

ここでは特に手入れを必要としたバルブや燃焼室について記載します.



図1.1 燃焼室に堆積しているカーボン及び燃焼生成物

 図1.1は燃焼室に堆積したカーボンや燃焼生成物の様子です.

シリンダヘッドの燃焼室よりもむしろバルブに堆積していることが分かり,

特にバルブヘッドに関してはエキゾースト側に顕著に見られます.



図1.2 インテークバルブのフェース部に堆積したカーボン

 図1.2はインテークバルブの傘に盛り上がったカーボンの様子です.

約65,000km分のカーボンが堆積していることになります.

これでは吸入混合気の流れの妨げになり出力が低下するのも無理はありません.




図1.3 ピストンクラウンに堆積したカーボン

 図1.3はピストン頭部に堆積したカーボンや燃焼生成物の様子です.

堆積したカーボンの層は薄くても,ピストンクラウンの表面積4気筒分の量は無視できず,

異常燃焼の防止の点からも除去する必要があります.



【整備内容】

 カーボンの堆積していたバルブを各部点検する為にもまずカーボンを完全に除去し,

バルブシートはフェースとの密封性能を上げる為に擦り合わせを行いました.

またシリンダヘッド側の燃焼室や各ポート,ピストンクラウンに堆積したカーボンも除去しました.




図2.1 点検洗浄の完了したインテークバルブ

 図2.1は堆積していたカーボンを除去し,各部を点検したインテークバルブの様子です.

滑らかに仕上げられたバルブフェースはスムーズな混合気の流れに寄与します.

特にMC19の場合,CBR250シリーズの中でも18,000rpmという許容回転を誇ることから,

動弁系統の設計は極めて軽量になっています.

部品を見れば一目瞭然ですが,小さなバルブにとってはわずかなカーボンの堆積でも出力低下の大きな原因になります.



図2.2 インテークバルブ擦り合わせの実施

 図2.2はインテークバルブのフェース部とバルブシートの擦り合わせを行っている様子です.

バルブ及びシートともに大きな損傷は見られないことから,擦り合わせにより密封性能を確実に向上することができました.



図2.3 整備の完了したシリンダヘッド燃焼室

 図2.3は点検洗浄されたシリンダヘッド側の燃焼室の様子です.

表面に堆積していたカーボンを可能な限り除去し,異常燃焼の発生源を除去しました.



図2.4 点検洗浄されたピストンクラウン

 図2.4はカーボンの堆積していたピストンクラウンを洗浄し,損傷を点検した様子です.

全体的にピストンそのものは可視部において状態は良好でした.

堆積していたカーボンを除去したことにより,シリンダヘッド側と同様に異常燃焼の発生を抑制する効果が得られました.


 整備を完了して実際に走行すると,高回転のみならず低速トルクも豊かになっていることが体感できました.

これはバルブの密封性能とカーボンの除去による混合気の流れのスムーズ化によるものであるといえ,

シリンダヘッドの整備がいかに重要であるかを改めて知らしめる結果になりました.



考察】

 4サイクルエンジンにとってシリンダヘッドは最重要機関であり,

バルブ性能がエンジン性能を左右するといっても過言ではありません.

したがって,特にバルブ廻りの状態は常に気にかけることが大切であり,必要に応じて分解整備することが求められます.


 バルブを整備するということは,もちろんバルブとシートの密封性能を取り戻すことが主といっても過言ではありませんが,

それと同様に,バルブフェースに堆積したカーボンを除去することにより,

吸気ポートからの混合気を滑らかなバルブフェースでスムーズにシリンダ内部に流れ込むようにすることも重要です.

そしてカーボンがなくなったバルブは軽量になり,慣性も小さくなる為,運動性能を取り戻すことが可能です.

特にこの事例のエンジンの許容回転は18,000rpmであり,その時にバルブは1秒間に150回も上下します.

1秒に150回もバルブが往復運動をすることを考えれば,わずかなカーボンの堆積がバルブを重くし,

またそこに流れる混合気の妨げになることは容易に想像することができます.


 今回の事例では整備車両の走行距離が60,000kmを超えていましたが,

性能の面から考えれば30,000km,大きく譲っても,少なくとも40,000kmを超えた場合は,

そのエンジン性能を維持する為にも,定期的にオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)しておきたいものです.

ましてや許容回転数が18,000rpmという超高回転型エンジン搭載の極めて趣味性の強いバイクであれば尚更,

高回転の性能を楽しむ為にもエンジンの手入れを実施する必要があるといえます.





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