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事例:E-50

シリンダヘッドのウォータジャケットメクラ栓の穴あきについて


【整備車両】

GSX250RCH (GJ72A) GSX-R250  推定年式:1987年  参考走行距離:約32,400km


【不具合の状態】

シリンダヘッドウォータジャケットのメクラ栓に穴があいている状態でした.


【点検結果】

 この車両はお客様が個人売買により不動の状態で購入されたものであり,

長期保管ということで,入手された時点ではすでにエンジンオイルと冷却水が抜き取られた状態でした.

ご希望によりエンジンのかかる状態に整備することを含め,

古い車両なので公道を走行する前に各所分解整備しておきたいとのご依頼を承ったものです.



 まず現在のコンディションを確認する為にエンジンの圧縮測定を行い,

4気筒とも約1,200kPa程度あり,燃焼機関の密封性能は良好であることを確認しました.

次に冷却系統に問題がないかを把握する為,ウォータラインに圧力をかけ内部の状態を点検しました.


図1.1 圧力のかからないウォータライン

 図1.1はラジエータキャップからプレッシャゲージによりウォータラインに圧力をかけた様子です.

いくら加圧してもまったく保持されず,どこかに漏れている箇所があると判断しました.

今回の整備では圧縮はあるものの,念の為ピストンやシリンダ廻りを整備しておきたいとのご依頼を承っていた為,

まずはエンジンの冷却通路の状態を確認する為にシリンダヘッドを取り外し,

ウォータラインの一部が破れていることが分かりました.



図1,2 穴のあいているシリンダヘッド

 図1,2は取り外したシリンダヘッドの様子です.

黄色の四角Aで囲んだ部分はウォータラインの天井に該当する箇所であり,破れていることが分かります.

この部分の肉厚は非常に薄く,わずかな腐食や外力等から穴のあく可能性があります.

この事例では穴がかなり大きい為,腐食だけの原因であると断定することはできませんが,

場所がエンジン内部であり,人為的なミス等による破損の可能性は低いといえます.

もしこの状態で冷却水を入れたとすれば,

シリンダヘッドより上に位置する冷却水がとたんにシリンダヘッド内部にあふれ出し,

カムチェーンの間を通り,クランクケース,オイルパンまで落下して水と油が混在した状態に陥ります.


【整備内容】

 破損部位を修正しなければ冷却水を入れた途端にカムシャフトに流れ込んでくる為,

冷却通路とシリンダヘッド駆動部の隔壁を製作しました.

図2.1 破損部の修正されたシリンダヘッド

 図2.1は穴のあいていた部分を肉盛補修した様子です.

赤い四角Aで囲んだ部分が補修個所であり,耐油,耐薬品に優れた曲げ強さ870kg/c㎡,

引っ張り強さ486kg/c㎡,圧縮強さ726kg/c㎡という強靭な材料を使用しました.


上部を面一にすることにより,非常に美しく仕上がっていることが分かります.



図2.2 整備の完了したエンジン

 図2.2は修正を行ったエンジンのウォータラインの漏れの点検をしている様子です.

約100kPaにおいて圧力を保持していることをが確認できた為,

キャブレータ等整備したすべての部品を取り付け,試運転を行い,

水漏れその他の不具合が発生していないことを確認して整備を完了しました.


考察】

 二輪自動車の場合は陸上を走行することから,冷却水は真水に不凍液を50%程度混合したものが使用され,

腐食の進行具合はかなりゆっくりであるといえます.

しかし厳密にいえば,ウォータポンプの水圧が冷却水路すなわちウォータジャケットにかかっていて,

微小ながらも局部的に見れば水の流れにより削れが発生しています.

また不純物との化学反応により金属そのものが腐食する場合があります.


 今回の事例ではお預かりしたのが不動の状態であり,

公道を走行する前にエンジンの分解整備をご依頼いただいた為大事には至りませんでした.

もしヘッドにあいた穴をそのままにしていれば,そこから漏れ出した冷却水がカムシャフト廻りに流れ込み,

エンジンオイルが乳白色に変化してくる
※1 頃には冷却水がウォータラインから抜け落ちてオーバーヒート気味になり,

且つ水と混ざったオイルの潤滑性能の低下が発生し,

水温計の上昇等を見逃せば,潤滑,冷却の双方の焼き付きを同時に発生させていた可能性も否定できません.

お客様が入手された段階ですでにエンジンオイルと冷却水が抜き取られた状態であったので,

それ以前に水とオイルが混じった症状を把握していたと推測せざるを得ないのは,

シリンダヘッドの状態を実際に確認したという立場からすればもっともなことであるといえます.


 メガスピードでは長期間の不動車の再生整備を承る場合は,必ずエンジン燃焼機関の圧縮測定と,

冷却機関の漏れの測定を行います.

エンジンの圧縮がなければエンジンをオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)しなければなりませんが,

それと同じくらい冷却系統の状態は大切です.

エンジン外部の不具合により漏れが発生している場合はもとより,

長期間そのままにされたエンジンは,内部の腐食等による冷却水路の穴あき等の可能性が否定しきれません.


 やはり大きな不具合を発生させてエンジンを破損させない為にも,

長期間動かされていない中古車両を入手された場合は,エンジン内部も分解整備しておくことが求められるといえ,

それにより無用な心配をすることなく,楽しくライディングを行うことに集中することができます.

基本的に中古車の現在に至るまでの経緯を知ることは不可能であり,

知ったところで実際に内部を分解してみなければ本当の状態を把握することは難しいといえます.


 メガスピードでは他店から購入されたものであれ,個人売買で入手されたものであれ,

購入直後の整備のご依頼を承る場合が少なくありません.

そして必要であればエンジン内部まで分解整備し,

より良い状態にして再び十分に走行ができるレベルにもっていくことが当社の使命であると考えております.


【研究】

 J702型エンジンのウォータラインは,シリンダヘッドに垂直に2本のパイプを埋め込み,

そのパイプはシリンダヘッドカバーを貫通してラジエータホースを介し,サーモスタットに接続されています.

今回の破損部は,パイプとして使用されていない,いわゆるメクラ栓に該当する部位であるといえ,

肉厚が約1mm程度しかなく,設計上エンジン壁としては最も薄い部位であるといえます.



図3.1 メクラ栓とウォータジャケット内部

 図3.1は研究,参考にシリンダヘッドウォータラインのメクラ栓を抜いた様子です.

圧入により固定されており,材質は鉄を中心とした金属であることが分かります.

したがって,冷却水が不適切であれば,錆による穴あきが発生する可能性があります.

図のメクラ栓内部はウォータジャケットであり,シリンダからの冷却水が圧送され,

ヘッドに圧入された2本のパイプを通ってサーモスタットへとつながります.



図3.2 メクラ栓裏側と肉厚の測定

 図3.2は取り外したメクラ栓の裏側の様子です.

メクラ栓は左右両端にもあり合計4つ存在しますが,外側の2つは腐食した冷却水や水垢等が裏側に堆積していました.

厚みは約1mm程度であり,冷却水の通路の壁としては,おそらく一番薄い部分であるといえます.

これだけしか肉がない為,使用による冷却水の流れで腐食や減肉作用が発生して穴があくおそれもあります.


 今回の事例では穴が大きい為,水の流れや腐食で一度にこれだけの破損が起きると考えるのは無理があります.

したがって原因を特定することは極めて困難であるといえますが,

もし穴があいていない状態でもシリンダヘッド上部からは肉厚を測定することはできない為,

状況を踏まえて予め補修しておくことが重要であるといえます.


 この事例では補修により水漏れの修理を遂行しましたが,オーバーサイズのメクラ栓を新規に設計製作して,

ヘッドに圧入し直す手段もあります.

コストは大幅に増加することは避けられませんが,どうしてもオリジナルの形状を保ちたいというお客様に対しては,

あらゆる選択肢を排除せず,最適なプランを提供させていただけるようメガスピードでは日々精進してまいります.






※1
 “エンジン内部への雨水の侵入によるエンジンオイルの乳白化について”






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