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左クランクケース(セルフスターターカバー)のオイル漏れについて


【整備車両】

CBR250RJ (MC19)  1988年式  走行距離:約64,500km


【不具合の症状】

左クランクケースカバーからオイル漏れが発生していました。


【点検結果】

左クランクケースカバーにはセルモータのピニオンギヤの動力をランクシャフトに伝達するギヤが収められています。

そのカバーとクランクケースの合わせ面からオイル漏れが発生していました。


図1 、漏れだしたオイルがほこりやゴミ等が混ざり固形化した様子

図1は左クランクケースの合わせ面に漏れだしたオイルとほこりやゴミ等が混ざり固形化したものが堆積している様子です。

ほこりやゴミ等とオイルが混ざり固形化する時間や、目立つ液体がないことから、

オイルが漏れているというよりは、にじんでいると表現した方が適切であるような状態でした。




図2、セルモータカバーとその内部の様子

図2はセルモータカバーを取り外した様子です。

まずカバーを取り外す作業がかなり容易であることに留意しました。

通常は生産から20年程度一度も開けられたことのないエンジンの場合は、

熱や劣化等によるガスケット成分の凝固等でカバーが固着していて取り外すのが非常に大変だからです。

そして次に純正ガスケットに青色の液体ガスケットが塗布されていた点にも留意しました。

生産ラインで組み立てられたものであると、液体を挟まない場合が少なくないからです。

これらのことをお客様にお知らせしたところ、

以前車両をぶつけて1991年頃にメーカーの直営店でカバーの交換をしたという説明がありました。

合わせ面を見ると、オイル漏れの原因を特定するには十分な傷がクランクケース側にありました。




図3 、線形の傷が多数あるクランクケースとカバーの合わせ面

図3はクランクケース側にある線状の傷の様子です。

傷の形状や深さ、場所から、これはマイナスドライバーあるいはスクレーパーの様なもので、

ガスケットをはがす時に傷つけたものである可能性が極めて高いといえます。

恐らく1991年にカバーを交換した際に行われた作業中に傷ついたものであると考えられます。




図4 、マイナスドライバーの様なものでこじられた跡のあるクランクケースとカバーの合わせ面

図4はクランクケースの合わせ面上側にあった傷です。

傷が分かりやすいように少し面を清掃研磨してから撮影した様子ですが、

赤の四角AとBで囲んだ部分が凹んでいます。

これはマイナスドライバーの様なものでカバーを取り外す際にこじった痕である可能性が極めて高いといえます。

傷の位置がカバーの上側なのでこの部分からオイルが漏れるとすれば、

ギヤが跳ね上げたものがわずかににじむ程度であるといえますが、

合わせ面にこの様な傷があるのは好ましくありません。

もし下側であればその隙間からエンジンオイルが漏れ出すおそれがあります。





図5、セルモータカバー側の合わせ面とグロメットの状態

図5はセルモータカバー側の合わせ面とグロメットの様子です。

セルモータカバー側の合わせ面には特に目立つ傷はありませんでした。

このことは、マイナスドライバー等でこじられたときに、力がクランクケース側に逃げて、

カバー側は損傷を免れたことを示しています。

また配線のグロメット(図5の黄色い四角で囲んだA)にも大きな損傷はありませんでした。


【整備内容】


図6、こじられた跡を平面研磨し、合わせ面を出したクランクケース

図6はこじられて凹んでいた合わせ面を修正研磨し、平滑に仕上げた様子です。




図7、線状の傷を平面研磨し、合わせ面を出したクランクケース

図7は線状の無数の傷を修正研磨し平滑に仕上げた様子です。

上部とともにすべての部位において平滑にし、オイル漏れを発生しない様にしました。




図8、オイル漏れを修理し、カバー廻りを清掃したクランクケース

図8は平滑にした合わせ面及びグロメットに薄く液体ガスケットを塗布し、

純正ガスケットを組み付けボルトを規定トルクを考慮して締め付けた様子です。


80km程試運転した後にオイル漏れの有無を確認し、オイル漏れが発生していないことを確認して納車しました。


【考察】

固着したガスケットをはがす場合には、刃物を使用する場合があります。

そして鋭利な刃物でやわらかいアルミ合金をこすれば、相手を傷つけてしまうこともあります。

しかしその様な事態になっても、その後にその傷を研磨し、

平滑な面を出しておけば多くの場合全く問題ないレベルまで仕上げることができます。

しかし、この事例では損傷した傷を何もせずに液体ガスケットで埋めるという作業が行われていました。

液体ガスケットは純正のガスケットではシールし切れない傷を埋める役割をします。

しかし合わせ面に傷があるものは、必ずその隙間から液体が染み出してきます。

それが何年後になるかは分かりません。近い将来か遠い未来か。

ですが、機械ものは必ずそのままの状態で残ります。

このセルモータカバーの交換がメーカー直営店行われたのが1991年で、メガスピードで整備したのが2009年10月です。

18年経っても当時の傷がそのまま発見されたことになります。

やはり、特に液体をシールしているところの面の状態は必ず可能な限り良い状態に仕上げて整備する必要があります。

もしカバーを外した時にすでに合わせ面に傷がついていたとしたら、

整備技術者は必ず面を仕上げてからカバーを組み付ける必要があります。



今回は合わせ面を出し、クランクケースの合わせ面及び純正ガスケットの凹凸を埋めるために薄く液体がガスケットを塗布し、

規定トルクを考慮して確実に組み付けました。

エンジンカバーの脱着は一見簡単な作業に見えます。

しかし、液体をシールしなければならないことを考えれば、やはり機能を考えて確実に組み付ける必要があります。





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