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事例:118

クラッチプッシュロッドの摩耗について


【整備車両】

 GSX1300RY (GW71A) "HAYABUSA" 隼 (ハヤブサ)  年式:2000年  参考走行距離:約22,400km


【不具合の状態】

 
クラッチプッシュロッドのオイルシールとの接触面が摩耗し,外に出ている部分が錆びていました.


【点検結果】

 この車両は走行距離が20,000kmを超えていた為,

メガスピードにてエンジンオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)を含め,各所点検整備を実施したものです.

スプロケットカバーを取り外すと,クラッチプッシュロッドが著しく錆びていることを確認しました.



図1.1 新品のプッシュロッド(上)と取り外したプッシュロッド

 図1.1は新品のプッシュロッド(上)と取り外したプッシュロッドを比較した様子です.

取り外したものは,エンジンから外部に露出した部分は完全に錆びていました.

また青い四角aで囲んだ部分に摩耗が見られました.



図1.2 摩耗したオイルシール接触部

 図1.2は図1.1の青い四角aの部分を拡大した様子です.

青い矢印Aの部分はクラッチがつながった状態で常にオイルシールと接触している部位です.

段付き摩耗が生じていていることから,近い将来オイル漏れが発生する原因になる可能性があります.

クラッチレバーを握っている時以外は常にこの位置で接触している為,

使用にともない摩耗が生じたと判断することができます.

また青い矢印Bはクラッチレバーを握った状態でオイルシールが接触する部位であり,

すなわちAからBに間の約1,0mmがプッシュロッドの移動距離となります.

Bより外側は常に大気と接していて,チェーンから受ける油汚れや泥,水分等が付着し完全に錆びていました.


【整備内容】

 プッシュロッドが段付き摩耗しているだけでなく,大気側に著しい錆が発生していたことから,

修正して再使用するよりも,新品に交換する方が部品の信頼性のみならずコスト的にも優位であると判断し,

新品に交換されたオイルシールに合わせて,プッシュロッドも新品に交換しました.



図2.1 新品のオイルシールに挿入された新品のクラッチプッシュロッド

 図2.1は新品のプッシュロッドを新品のオイルシールに挿入した様子です.

この車両はエンジンのすべての部位を分解整備した為,上下に分割したクランクケースを組み立てる時に,

オイルシールも新品に交換しておいたことからプッシュロッド及びオイルシールの両方が新しくなり,

最大限部品の性能を発揮できる状態になりました.


考察】

 発売から10年以上経過した車両のクラッチプッシュロッドは,

かなりの確率でチェーンから飛散した油とほこりの混合物が塊になって堆積しており,

油分がない部位については,まず錆びています.

なぜこの様な事態に陥っているかを考えなければなりませんが,

その答えの1つに,“汚い”という要素が絡んでいるといえます.

おそらく2輪のエンジンの中では1番汚くなる部位であるといっても過言ではなく,

その汚さゆえ,例えフロントドライブスプロケットの交換作業が行われていた車両であっても,

多くの場合,周囲の洗浄は敬遠して実施されておらず,

新車から一度も手入れがされない結果,油汚れが山積みになっています.

フロントドライブスプロケット周囲が一番汚染されているといえますが,

その前方に設計配置されるクラッチプッシュロッドも同等に汚れている場合が少なくありません.


 クラッチプッシュロッドの挿入されているオイルシールも大概汚染されており,

その位置すら完全に隠れてしまっている事例も多々見受けられます.

クラッチプッシュロッドのシール部に直接油圧はかかっていないものの,

エンジンオイルは常に飛散していることから,すき間が生じればオイル漏れの発生源につながります.

やはりオイルシールやロッドの状態を定期的に点検し,必要であれば適切な整備が行われることが望ましいといえます.


【参考】

 クラッチプッシュロッドはフロントドライブスプロケットの近くに設置されていることから,

チェーンからかなりの油汚れの影響を受けます.

したがって,シフトシャフト周囲の汚染と同じくらい汚れていると考えて差し支えありません.



図3.1 著しく汚れているフロントドライブスプロケット下部

 図3.1に参考までに,この車両のエンジンオーバーホール前のスプロケット周囲の様子を示しました.

エンジン台に設置する際に少し汚れを除去しましたが,それでもまだこれだけ泥油が堆積しています.

これはおそらく新車から一度も手入れをされていないと推測することができます.

シフトシャフトカバーは完全に埋もれていて何が何だか分からない状態に陥っており,

チェーンから脱落したOリングが山積みになっている ※1 ことが分かります.

ウォータポンプはすでにホースを取り外してありますが,

実際にはホースのスプロケット側は完全に油まみれになっていました.

ここまで熟成してしまうと,汚染範囲の広さだけでなく,

油の塊の量の多さや硬さ,汚れの落ちにくさ等から清掃洗浄することがかなり大変になります.


 やはりクラッチプッシュロッドやシフトシャフト周囲も含めて,

フロントドライブスプロケット周辺はできるだけ頻繁に手入れをし,この様な状態に陥らないよう維持することが求められます.





※1 “シフトシャフトカバーに堆積した油汚れとシールチェーンから脱落したOリングについて”






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