ホルダのチョークワイヤ固定不良によるキャブレータ始動機構の動作遅れについて |
【整備車両】
NSR250R2J (MC18) 推定年式:1988年 (参考)走行距離:約25,500km |
【不具合の症状】
チョーク機能に大きな不具合はないものの、レバーを引いた際に始動系統が機能するまでの遊びが多くなっていました。 |
【点検結果】
ホルダがねじの損傷により完全にチョークワイヤを固定していない為、レバーの引きに対して初期の動作に遊びが生じ、
キャブレータ始動機構の動作発生時期が操作に対してわずかに遅れていました。
レバーを全開にした状態ではきちんと始動機構のシャフトの移動が完了しているので、
機能そのものは損なわれていませんでした。
図1はねじが空回りしているチョークワイヤホルダの様子です。
ねじはスプリングワッシャが抜けない様に一体化しているスクリューワッシャです。
ねじは左回転、右回転、どちらに回しても空回りして、締め付けトルクのかからない状態でした。
それでも外れないのは、突き抜けた部分が変形しストッパの役割をしていたからです。
ねじの機能が全くなくなっている状態だったので、突き抜けている部分を削り、ねじを抜き取りました。
図2は取り外したスクリューワッシャの様子です。
ねじ溝下部の破損している箇所がホルダにかじっていた部分です。
その先は抜き取る為に削り取りました。 |
【整備内容】
破損したスクリューワッシャは新品に交換することができましたが、
ホルダはキャブレータASSYの一部であり且つ絶版なので、現物を再使用することを考えました。
図3はホルダにタップを立て、雌ねじの溝を修復している様子です。
雌ねじの深さが浅いことをや材質が鉄鋼であることを考慮して、
ヘリサート加工を行わずタップによる修正で十分な締め付けトルクを回復することができると判断しました。
図4はチョークワイヤをホルダに組み付け締め付けた様子です。
十分な締め付けトルクをかけることができ、チョークワイヤの動きに余計な遊びがなくなりました。
これによりチョークレバーの引きに対して正確にキャブレータのチョークを移動させることができるようになりました。 |
【考察】
材質が比較的硬質な鉄鋼であることやヘリサート加工するには寸法が少なかった為、
損傷した雌ねじのねじ山はタップにより修正しました。
必要なトルクがかけられず山が再び損傷してしまえばヘリサート加工をする、あるいはオーバーサイズのねじ溝を切り、
ひとつ上のサイズの雄ねじを利用する等の対策になりますが、
今回はタップ修正のみで十分な締め付けトルクを確保することができました。
ねじが抜けなくなった原因は様々な状況が考えられますが、トルクのかけ過ぎにより、
雄ねじ側の溝をなめてしまった可能性があります。
それは雌ねじのねじ山が、ねじを取り外した時にそれ程損傷していなかったからです。
つまり、トルクのかけ過ぎにより雄ねじのねじ山が崩れた。
それゆえねじをどちらの回転方向に回しても空回りする様になってしまった。
雌ねじも致命的にはならないにしろ、ある程度破損し、突き抜けていた雄ねじのねじ山を受け付けず、
ねじを抜き取ることができなかった。
というようなことが考えられます。
重要なのは、小さいねじに対して無理なトルクをかけないことです。
このねじは径が4mm、ピッチが0,7mmといった小さなものなので、
おそらく過去に整備された方がねじに対する締め付けトルクを誤り破損させたものだと推測できます。
この事例ではチョークの動きのレスポンスが若干スポイルされていたものの、
実際に使用する際には特に問題がない状態でした。
また車両外観からはその不具合が把握できない状態でした。
今回は燃料漏れによりキャブレータの分解整備を行った際に気づき、同時に整備することになりました。
実用面では現段階では問題なかったものの、
ホルダの締め付けねじが空回りしていてきちんとチョークワイヤを保持していなかったので、
もしワイヤが何らかの原因で外れてしまえばキャブレータのチョーク機構を正確に動かせなくなる恐れがあります。
時間のあるときであれば後日修理すれば良いということになりますが、
通勤通学等に使用していて、ギリギリの時間で起床し、いざエンジンをかける段階で外れてしまったら、
始動困難に陥りライダーも焦ることになります。
まして真冬に起きてしまえばエンジン始動にとって致命的な機能不全といえます。
例えエンジンがかかったとしても、それに要した時間により遅刻が迫ってきた状態では、
安全な走行を行うのは非常に困難といえます。
始動性の良さはバイクに求められる最も重要な要素のひとつです。
やはりそれに関連する機関は細部にわたり万全を期す整備が求められるといえます。 |
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