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キャブレータ始動系統の固着やホルダの破損によるチョークワイヤケーブルの動作不良について


【整備車両】

CBR250RJ(MC19)  推定年式:1988年  (参考)走行距離:約38,500km


【不具合の症状】

チョークワイヤの動きがかなり渋くなっていました。

また取り付け部のホルダが破損していて、手で支持部を押さえながらでないとチョークワイヤを引けない状態でした。


【点検結果】

チョークワイヤガイドホルダが図1の様に破損していました。



図1 、樹脂部の破損したチョークワイヤホルダ

破損箇所した樹脂の箇所は、車体に締め付けられてワイヤを保持するいわゆるホルダの部分です。

ホルダの部分を手で押さえればチョークワイヤを引くことができますが、

そのままではホルダが破損して自己保持機能が失われ、チョークを引くことができない状態になっていました。

チョークワイヤケーブル自体は動く状態だったものの、キャブレータの始動系統が固着していて、

そのままではかなり強力な力をかけないとワイヤを引くことができない状態でした。

このことから、キャブレータの始動系統で動きの悪くなったワイヤを無理に引いていた為に、

樹脂のホルダ支持部がその力に耐えられずに破損したものだと考えられます。


【整備内容】

チョークワイヤホルダは単体での部品設定がなく、チョークワイヤとASSYの設定だったので、

チョークワイヤASSYとして交換しました。


図2、新品のチョークワイヤホルダとその支持部

図2は新品のチョークワイヤASSYを取り付けた様子です。

指で挟んでいるのが樹脂ホルダの部分です。

チョークワイヤを交換する前に不具合の根本的な原因であるキャブレータの始動系統を

分解整備して動きを滑らかにしました。

しかし例えキャブレータ側の動きがスムーズでもホルダの材質が樹脂なので、

そのままチョークのつまみを引けばホルダにかなりの疲労をあたえます。

一般の家庭用電源プラグをコンセントから抜き取る場合にプラグの根元をつかむのと同様に、

チョークワイヤを動作する時も支持部の根元を指等で支えながら行う必要があります。


【考察】

CBR250R(MC19)ではチョークワイヤホルダが破損しているものがかなり見られます。

何故ホルダの破損が多く発生するのでしょうか。

この事例の場合は2つの原因が考えられます。

ひとつはキャブレータの始動系統の動きが悪くなっているにも拘らずチョークワイヤを引いて使用していた可能性、

もうひとつは使用者がホルダ部を保持しないでチョークワイヤを引いていた可能性があることです。

樹脂のホルダ部分は当然経年により劣化します。

極端に劣化したものは触れるだけで破損してしまうものもあります。

しかしそれ以前に、キャブレータの始動系統が固着しているのに無理にワイヤを引けば、

必ず余分な力が支持部にかかります。

その結果比較的強度の弱い樹脂のホルダに負担がかかります。

またキャブレータの始動系統が固着していなくても、

ワイヤを引く際にホルダを指等で保持しないでチョークワイヤを引けば同様にホルダに負担がかかります。

キャブレータの始動系統を分解整備したものに、新品のチョークワイヤASSYを組み付けたときは、

指2本で軽くチョークワイヤのノブをつまむだけでチョークを引くことができます。

しかしホルダが樹脂であることを考慮すれば、やはりワイヤのノブを引くときはホルダを支持しながら行う必要があります。



よく、あのバイクには○○という持病がある、ということが言われます。

しかし私はこの“持病”という言葉を努めて使用しないようにしています。

メーカーが商品として利益を追求する為に製造されたオートバイは、

性能、耐久性、安全性、生産コスト等様々な条件を擦り合わせたもので成り立っています。

設計の段階で当然妥協せざるを得ないものもあります。

この事例の場合、ワイヤホルダが樹脂でできています。

新車の時はキャブレータの始動系統は滑らかな動きをし、ワイヤホルダも劣化していません。

この状態であれば、ホルダを支持しなくても片手でスムーズにチョークを引くことができます。

しかし経年によりキャブレータの始動系統の動きはやがて渋くなり、ワイヤホルダも劣化してきます。

その様な中で、劣化したホルダを支持せずに動きの渋くなったワイヤを片手で引けば、

そこが破損するのは無理もありません。

しかし、実際にはきちんとキャブレータを定期的に整備していれば始動系統の動きが渋くなることはありませんし、

チョークワイヤを引くときにホルダを支持していれば破損することはあまりありません。



一般ユーザーから見れば、起こりがちな不具合に対して、

それは時として“持病”ということにすれば都合が良い場合があります。

メディアや情報媒体にも“持病”という言葉が良く使われています。

しかし整備技術者の立場からすると、場合によっては“持病”として処理してしまうのは早計で、

もう一度その機構の仕組みや使い方を考えてみるのもいかがでしょう、

と問いかけてみる必要があると思わざるを得ないことがあります。

素材や原料、力のかかり具合、設計等を考えれば、

“持病”は“持病”ではなく、起こるべくして起きるただの不具合の一つに過ぎないということが分かります。

原因が分かればあとはどの様に対処するかを考えて整備を施し、

そして同じ不具合を起こさない、あるいは起こしにくくするにはどうすれば良いかを考えていけば良いのです。



現在までに様々な種類の二輪自動車が市場に登場してきました。

中には過渡期にあった成熟していないモデルもあったでしょう。

またコストや様々な制限から耐久性の低い部品を使用せざるを得なかったモデルもあったでしょう。

しかし、そのことに起因される不具合に対しても、メディアや定説、

過去の情報等から先入観をもって“持病だから”と決めつけることをせずに、

どの様にすればより良く使用できるのだろうと考えることが、一般ユーザーにとっても整備技術者にとっても、

重要なことなのです。





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