事例:E-176
腐敗したガソリンと錆の発生によるドレンボルトの固着となめた頭について |
【整備車両】
RG250EW (GJ21A) RG250Γ (ガンマ) 1型 推定年式:1983年 参考実走行距離:約9,200km |
【不具合の状態】
ドレンボルトの固着により,フロートチャンバからガソリンを抜き取ることが不可能な状態に陥っていました. |
【点検結果】
この車両はエンジンの吹け上がりが悪い回転数が存在するという症状を改善するために,
お客様によりメガスピードに持ち込まれ修理を承ったものです.
直前に他店でキャブレータの燃料漏れの修理をされたものですが,
燃料漏れ以外に多数の不具合が発見されたため,メガスピードにて確実に整備を施しました.
ここでは固着したドレンボルトについて記載します.
図1.1 頭のなめた2番キャブレータフロートチャンバのドレンボルト |
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図1.1はキャブレータのフロートチャンバ下部の様子です.
1番,2番ともにドレンボルトの頭がなめていますが,特に2番は損傷が著しい状態でした.
またドレンホースが純正でないものが取り付けられており,耐ガソリン性の有無の分からない状態でした.
図1.2は固着しているドレンボルトの様子です.
ボルトとフロートチャンバのすき間に堆積した腐敗したガソリンは長期間ねじが回されていないことを示しており,
そのために固着したねじを無理に回そうとして頭をなめてしまい,
それにより更にボルトを回すことが困難になるという悪循環に陥っていたと考えられます.
頭の破損状況を見れば,締め付け方向と緩め方向のどちらにもなめた形跡がありますので,
このボルトが最後に取り付けられた段階ですでに最低1回はなめたと推測されます.
図1.3 腐敗したガソリンの堆積しているハウジング |
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図1.3はドレンボルトを抜き取り,ハウジングの内部を撮影した様子です.
周囲に付着したガソリンがボルトのねじロックすなわち接着剤の役割をしていたことにより,
ボルトが固着していたものであると判断することができます.
図1.4はメガスピードの技術によりほとんど加工せずに抜き取ったドレンボルトの様子です.
各部が腐敗したガソリンに覆われていますが,締め付け部に当たるテーパー部位に錆が発生していたため,
固着のもとになっただけでなく,燃料漏れを発生させる原因にもなっていました. |
【整備内容】
フロートチャンバ側のドレンボルトハウジングを洗浄すると同時にドレンボルトを新品に交換しました.
図2.1 洗浄及び修正研磨されたフロートバルブシートハウジング |
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図2.1は洗浄されたドレンボルトハウジングの様子です.
これによりガソリン漏れおよびドレンボルト固着の防止を図りました.
図2.2は新品のドレンボルトの様子です.
すでに頭の破損が著しいことから再使用は難しい状態でしたが,
ハウジングとの締め付けのテーパー部の錆も問題であるため新品に交換しました.
図2.3 オーバーホール【overhaul】の完了したキャブレータ |
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図2.3はドレンボルト廻りの整備を含めオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)の完了した
キャブレータフロートチャンバ廻りの様子です.
やはりフロートバルブを交換するためにフロートチャンバを取り外したのであれば,
その他に不具合が発生していれば同時に修理しておく必要があります.
図2.4 エンジンに取り付けられた整備の完了したキャブレータ |
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図2.4はエンジンに取り付けたキャブレータの様子です.
ドレンボルト廻りの整備により,長期間バイクに乗らない場合でも確実に燃料をキャブレータから排出できるようになりました.
またドレンホースも正規の新品に交換し,かつ適切なパイピングにしたことにより,
排出された燃料でその他の部位を汚染することがなくなりました. |
【考察】
ドレンボルトはキャブレータを構成するねじ部品の中でも,その形状からなめている可能性が高く,
放置された車両ではその多くが固着しています.
部品の周囲の肉厚や,材質の強度,そしてボルトが内側に入り込んでいるというアクセス状況等を総合すると,
特に頭のなめているものは非常に抜き取りが難しいといえます.
今回は他店で修理されたとするキャブレータをメガスピードで整備し直したものですが,
実際にドレンボルトが固着してフロートチャンバからガソリンが抜き取れない状況で納車されていたため,
もし長期保管する予定があれば,それはキャブレータ内部の腐敗を招くことにつながりかねません.
ドレンボルトは適宜使用することによりキャブレータ内部のガソリンを排出させられるようにすべきであり,
それが本来の姿です.
ドレンボルトはねじの頭の十字が上下左右で長さが異なる場合が少なくなく,比較的なめやすい部品であるといえます.
そしてなめたことにより回せなくなり,回せないことにより固着して更に別の人間がそれを回そうとしてなめるという,
悪循環に陥っているのです.
そのような事態を極力避けるためにも,まずドレンボルトは慎重に回さなければなりませんし,
もし固着したりなめたりしている場合にも,
キャブレータを取り外して分解整備する場合は必ず同時に整備しなければならないといえます.
ドレンボルトはキャブレータを正しく取り扱う上での要であるといえ,
キャブレータの内部を見なくても,まずドレンボルトを見ればある程度は状態を推測することができるといえるほど,
ドレンボルトは実に多くの情報を持っているのです. |
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