トップページ故障や不具合の修理事例【二輪自動車】 エンジン関係の故障、不具合、修理、整備の事例 (事例:171~180)


事例:E-173

腐敗したガソリンによるフロートバルブとシートの固着がもたらすエンジン始動不能について


【整備車両】

 RG250EW (GJ21A) RG250Γ(ガンマ) 1型  推定年式:1983年  参考実走行距離:約8,000km


【不具合の状態】

 長期保管により始動不能に陥っていました.


【点検結果】

 この車両はメガスピードの在庫です.

私がコレクションとして保管しておいたものですが,入手当初はエンジンがかかったものの,

半年程度の保管中にエンジンがかからなくなりました.

エンジンの状態や点火系統は問題ないことを確認していたため,残りの燃料系統を点検しました.



図1.1 エンジン内部圧縮圧力の測定

 図1.1はキャブレータの整備を実施する前にエンジンの圧縮圧力を測定した様子です.

約1,000kPaと非常に良好な数値を示したことから,問題であると推測されるキャブレータの整備に移りました.

この車両は入手時にエンジンが動くことのみ確認していたため,

不動に陥った原因がエンジン本体である可能性は低いといえます.

しかしそれは推測に過ぎず,整備には確実性が求められることから,

一番の根幹であるエンジンの状態を押さえることにより,より正確な整備につなげました.



図1.2 取り外した腐敗臭のするキャブレータ

 図1.2は不動に陥っていたキャブレータを取り外した様子です.

ドレインボルトを緩めてもホースからガソリンが排出されないことから,

すでに内部で詰まりが発生していると推測することができました.

つまりガソリンが腐敗していたということです.



図1.3 完全に詰まっているメインジェット

 図1.3は腐敗したガソリンにより完全に通路の詰まっているメインジェットの様子です.

この状態では例え始動することができても,走行することは絶対に不可能です.



図1.4 固着しているフロートバルブ

 図1.4はフロートバルブとバルブシートが固着している様子です.

もはや弁としての機能は全く働いていない状態でした.



図1.5 側面に腐敗したガソリンの付着しているフロートバルブ

 図1.5は取り外したフロートバルブの様子です.

バルブシートと接触する側面が腐ったガソリンにより完全に固着していました.


バルブが閉じた状態で固まっていたためにガソリンがキャブレータに供給されず,

エンジンがかからなくなったと判断することができます.



図1.6 腐敗したガソリンの堆積しているバルブシート

 図1.6はバルブシート内部の様子です.

腐敗してガム質化したガソリンがフロートバルブとシートの間を埋める形で接着剤の役割を果たしていました.



【整備内容】

 フロートバルブはASSYで新品に交換することにより燃料供給の問題解決を図りました.

また腐り切っていたメインジェット等真鍮部品をすべて新品に交換し,

通路をはじめとしたキャブレータ本体を可能な限り点検洗浄しました.



図2.1 洗浄及び修正研磨されたフロートバルブシートハウジング

 図2.1は側面の荒れていたフロートバルブシートの設置されるハウジングを修正研磨して洗浄した様子です.

これによりバルブシート外周のOリングの密着性を高め,燃料漏れの防止性能が増しました.



図2.2 新品のフロートバルブ及びバルブシート

 図2.2は新品のフロートバルブシート(左)とニードルバルブの様子です.

VM28の場合はこれらがASSYとして部品供給されているため,確実に燃料を止めることが可能です.



図2.3 オーバーホール【overhaul】の完了したキャブレータ

 図2.3はオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)の完了したキャブレータの様子です.

性能・機能の回復は当然のこと,外観も美しく仕上げたことにより所有する楽しみが更に増しました.



図2.4 エンジンに取り付けられたキャブレータ

 図2.4はオーバーホールの完了したキャブレータをエンジンに取り付けた様子です.

スムーズな始動及び吹け上がりを確認して整備を完了しました.



考察】

 この車両は入手して半年ほどでエンジンがかからなくなったことから,

手に入れた時点でかなりキャブレータ内部は腐っていたと考えられます.

すなわち,
エンジンがかかるということで中古で入手したものは,

納車時にキャブレータを分解整備していなければ,良い状態でエンジンがかかるのか,

それとも内部は腐りかけていてギリギリの状態でエンジンがかかるのか,

厳密に判断することは難しい
ということが結論として得られます.

もっとも,コレクションが目的でしたから,入手後は一度も乗らずに保管していたものの,

もし入手後すぐに実際に乗っていれば,内部の状態が思わしくないと判断することができたかもしれません.


 いづれにしろ常日頃自分の目で確かめたのか?という己の戒めの通り,最後は自分の目で確認しなければなりません.

メガスピードではそこをとても大切にしています.

エンジンがかかるからとりあえず大丈夫だろうなどという判断は出来ないのです.

何が大丈夫なのだ? 何を持って大丈夫と言えるのか? 何の根拠があるのか?

すべては実際に分解整備を実施し確認することで答えが得られるのです.

したがって,中古で入手したものは点検整備するまでは何も信じない,

信じられるのは自分で確認したところだけなのです.


 人間はエスパーの様に内部を透視することは難しいけれど,限りなくそれに近づくことは可能です.

対象物を分解して実際に自分の目で確認すれば良いのです.

非常に残念な話ですが,私はエスパーではありません.

なりたけれどなれない.

人間の能力を超えることができない.

色々修行しましたが,いまだに透視に成功できていません.

確かに様々な知識や経験を生かし,諸条件から内部を推測・考察する技術は向上しました.

しかし厳密にいえばそれは推測に過ぎません.

だからこそ,分解して内部を確認しているのです.

キャブレータの中身が腐っていることが分かれば,洗浄するなりして対応すれば良いのです.

一番ダメないのは,とりあえず大丈夫そうだけど,

腐っているかもしれないという可能性が1%でもあるまま納めてしまうことです.

1%の確率でも不安を残しておくと,もしかしたら後で顕在化するかもしれないのです.

そしてその1%を限りなくゼロに近づけることが整備技術者の役割ではないかと考えています.





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