事例:E-153
不適切な長さによるスタータホース曲げ部の潰れについて |
【整備車両】
RG400EW-2W (HK31A) RG400Γ(ガンマ) 2型 年式:1987年 実走行距離:約1,200km |
【不具合の状態】
スタータホースの曲げ部が潰れていました. |
【点検結果】
この車両はお客様のご依頼によりメガスピードにて各所分解整備したものです.
長期保管により始動不能状態に陥っていた為,各部点検の結果不具合の原因と推測される,
キャブレータのオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)を実施しました.
その際にスタータホースの曲げ部が潰れている上,クリップが不適切であることを確認しました.
図1.1は2番4番キャブレータの始動経路を連結しているスタータホースの様子です.
白の丸で囲んだ部分は水平方向から垂直方向に変換される曲がりの部分ですが,
無理に取り付けられたことにより潰れ変形が発生し,収まり切らない分は上部にせり上がっていました.
この状態ではただでさえ曲がりという抵抗がある部位に,潰れた部分が内部を狭くしている為,
一層内部抵抗を増加させることになります.
本来の性能を引き出すためには通路は可能な限りスムーズでなければならず,
それ以前に見た目にも潰れているホースは気分が悪くなります.
わずかな潰れや変形も許されるものではありません.
これは長く切り過ぎたホースを無理やり取り付けた為,ホースが逃げ場を失い潰れという現象を起こしたものであり,
作業者の整備ミスに分類されます.
またホースに取り付けられているクリップも外径が13mmのSIPCホースのものであり,
外径が11.5mmのスタータホースに使用されるべきものではありません. |
【整備内容】
少なくとも他の業者により整備されてから10年程度経過していることから,
メガスピードにてすべての燃料ホース及びSIPC,エアベント,ドレン等のホース類を新品に交換しました.
図2.1 正しく取り付けられたスタータホース及び周辺部品 |
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図2.1はオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)の完了したキャブレータに,
適切な長さの新品のスタータホース及び正規の品番の新品のクリップを取り付けた様子です.
ホースの長さが修正され且つ新品になったことにより,
通路内部を始動燃料がロスなく確実に通過することができる様になりました.
また正確に取り付けられたその他のホースの配置等からも分かる通り,
洗浄されアルミニウム合金の美しさを取り戻したキャブレータと相まって,
理路整然とした非常に美しい燃料系統本来のパイピングになりました. |
【考察】
この車両は10年前にお客様が乗らなくなる直前に業者により整備されている為,
このホースやクリップの不具合も,その業者がやってしまった可能性は否定できません.
人間誰しもミスはするものですが,この事例の場合,
完成後にホースが不適切であることは見れば容易に分かるものであり,故意にそのまま納車したのか,
あるいは本当にこのホースを見て何も感じない様な鈍感な者が作業をしたのかは分かりません.
SIPC用のクリップをスタータホースに使用してしまっている点も解せないといえます.
小さなホースに大きなクリップを使用すればまともに役目を果たせないことは,
少なくとも取り付け時に気がつくはずですし,逆に気付かなければなりません.
整備技術者には鋭利な五感が求められます.
またホースが短ければ取り付け部の脱落し易さやホースの引っ張り等を発生し,
逆に長過ぎれば逃げ場を失い変形して折れ目ができたり潰れたりする為,
必ず適正な長さに調整して取り付けなければなりません.
一見ホースの取り付けは容易な作業ととらえられがちですが,
実は長さの選定を始めとする非常に大切な工程が含まれていることを忘れてはならないのです. |
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