トップページ故障や不具合の修理事例【二輪自動車】 エンジン関係の故障、不具合、修理、整備の事例 (事例:161~170)


事例:161

腐食したメインジェットから類推される内部部品すべての腐食について


【整備車両】

 RG400EW-2W (HK31A) RG400Γ(ガンマ) 2型  年式:1987年  実走行距離:約1,200km


【不具合の状態】

 エンジンが始動できない上にキャブレータから著しいガソリン漏れが発生していました.


【点検結果】

 この車両は10年程度の長期保管により不動に陥っており,

お客様のご依頼によりメガスピードにて各所分解整備を実施し再生させていただいたものです.

諸点検結果より不具合の原因と推測される,

キャブレータのオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)を実施しました.



図1.1 腐敗しているメインジェット

 図1.1は3番シリンダキャブレータのフロートチャンバを取り外した様子です.

お客様がガソリンを抜いて保管されていたということですが,

完全に抜けきっていなかった,あるいは何らかの原因でメインジェットを腐食させる物質が付着していたのか,

メインジェットに発生した堆積物が化石化していました.

しかし図からも分かる様に,完全にジェット内部が詰まっているわけではなく,

高回転に燃料不足が予想されるものの,走行不能とは言い切れない状態を維持していました.

これはエンジン始動には直接影響する部分ではありませんが,

正常に走行する為には修正されなければなりません.

 またそれと同時にフロートの取り付け支柱根元が無理な修正によりずれていたことが,

ガソリンがエンジン内部に侵入したり,外部に漏れとして発生する主な原因であると推測されます.



【整備内容】

 このメインジェットは厳密にいえば洗浄すれば使用できる範囲にギリギリ収まるかもしれません.

しかし例え形状が元に近い形に復元できたとしても,真鍮という材質そのものが劣化している為,

これを再使用することは賢い選択ではありません.

もっともこのジェットを時間をかけて整備技術者が洗浄復元するのであれば,

その時間を整備技術料金に照らし合わせれば,新品価格を大幅に超過するのは容易に想像であり,

わずかな部品代を投資しない理由はないのです.

またRG400Γ (HK31A) の絶版部品が増えてきていることからも,

新品にできる部品はオーバーホールの際に新品にしておくことに一切の躊躇いはありません.

何もこれは汎用品であるメインジェットだけを指しているのではなく,

特殊な形状のフロート等の専用品を含めた包括的な観点からの取り組みを意味しています.



図2.1 新品のメインジェット,ジェットシート,フロート類

 図2.1はキャブレータ内部をすべて新品の部品で再構成した様子です.

今回の事例ではメインジェットの腐食のみをとり上げましたが,

内部の部品がすべてこのような状態になっていることを考慮すれば,

すべての部品を新品にすることが極めて自然な流れであり,

少なくとも10年程度動かさずに保管されている車両の整備を実施する場合は,

内部の部品の総取り換えを前提に進める必要があることを如実に明確に示している事例であるといえます.


 メインジェットの選定・セッティングを含めた各部の整備を完了し,試運転においてエンジンの始動性,

アイドリング,加速等すべて非常に良好な状態を確認して整備を完了しました.



考察】

 この車両はお客様が長期保管されていたものですが,ガソリンを内部から抜いていたということなので,

ヘドロの様にガム質化した非常に厄介な状態には陥っていませんでした.

しかし図1.1からも分かる様に,10年程度車載で屋外保管すれば,

部品単体で洗浄してから厳重に管理保管しない限りは,どうしてもジェット類を始め内部の部品は腐食します.

それでもガソリンを抜いて保管するということが非常に大切なのは,

ガソリンが満たされた状態で何年も屋外保管された車両のキャブレータを開けた時に放たれる,

極度に腐敗したガソリンの甘臭い強烈な悪臭を嗅いだことがあれば,無理なく理解できるはずです.

そしてその様なキャブレータは部品で交換できる部位だけでなく,ボデー内部の各ポートが完全に詰まっている為,

再生不能に陥っていることが少なくありません.


 この事例では各部品は確かに腐食していたものの,

長時間かければ再生できるレベルの部品が何点か見受けられました.

しかし10年乗らずにいた車両のキャブレータを費用をかけて分解を実施したのであれば,

すべての部品を新品に交換することはごく自然な判断であり,

むしろそこで部品代を投資できない様では将来性はありません.


 この車両は走行距離が1,200kmのワンオーナーですが,エンジンそのものの回転が非常にスムースであり,

数万キロ走行した車両に見られるRG500/400Γ特有の特定回転における振動をほとんど感じることはありませんでした.

やはり走行距離が確実に実走と判断できる車両において,

その距離が1,000km程度のものは,それだけで大変に価値があるといえます.

それを味わう為にも,部品を新品にする為のわずかな投資は,それ以上の効果をもたらしてくれるのです.





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