整備保管中に不動になったエンジンとお預かり時の始動性について |
【整備車両】
ZX400-D2 (ZX400D) GPZ400R 年式:1984年 参考走行距離:14,600km |
【不具合の症状】
各所点検整備をする為に保管している間にエンジンが始動不可能になりました. |
【点検結果】
この車両はお客様が他店で購入された直後に充電不良やオーバーヒート等の不具合が発生した為,
それらを検証して整備する為にメガスピードにて修理を承ったものです.
オーバーヒートや充電不良,フォークからのオイル漏れ等色々な修理を行っている間にエンジンが始動不可になりました.
入庫当日はエンジンがかかるのを確認したので,
お預かりしている2カ月程度の間に何らかの原因で不動になったものであると考えられます.
圧縮はすでに測定を行っており問題なく,点火系統も問題ないことから燃料系統に不具合があると判断し,
キャブレータのオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)を行いました.
図1はエアベントホース付近に堆積したガソリンの様子です.
他店で購入された際に,
納車整備でキャブレータをオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)されたということですが,
凝固したホースの状態や腐ったガソリンの状態から,
この部分は何も見ていない可能性があります.
まずキャブレータを4つASSYで取り外した段階で腐ったガソリンの甘い腐敗臭が漂っていたことから,
長期に渡り洗浄されていないことは容易に想像できました.
図2 二重に取り付けられていたパイロット・スクリュのOリング |
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図2は4番キャブレータに2重に取り付けられていたパイロット・スクリュのOリング(図中のⅡ)の様子です.
この部分のOリングは素人整備されたキャブレータを分解整備した時に欠落していたりする場合がありますが,
今回の事例ではOリングが2個取り付けられていて,いわゆる2重になっていました.
他の部分同様,本来シールゴムの取り付けは1個の部分に2個取り付けると,その歪みから密着不良を起こし,
すき間からオイル漏れやガソリン漏れ,水漏れ等を引き起こします.
考えられる状況としては,パイロット・スクリュのシート部(図中の I 内部)を照明等で確実に確認せずに,
見落としていた古いOリングを取り外さずに新しいOリングを入れてしまったのではないかと推測できます.
左側のOリングAは潰れているので過去に長期間取り付けられていたものであると考えられ,
右側のOリングBは比較的潰れが少なく弾力があることから,
OリングAの取り付け後にある程度期間を経てから取り付けられたものであることが裏付けられます.
図3 劣化して亀裂が発生しているフロート・チャンバ・パッキン |
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図3はフロート・チャンバとキャブレータ・ボデーの合わせ面のパッキンの様子です.
全体的に劣化して潰れているだけでなく,随所に亀裂が発生していました.
またパッキンの収まる溝に長年の使用によるガソリンの変質した物質が堆積していたことを考えると,
この部分はまったく洗浄等が行われていなかったことになります.
図4はOリングの欠落した燃料パイプの様子です.
赤い四角Aで囲んだ部分には本来2個のOリングが使用されていますが,左側がなくなっていました.
また右側は劣化から全体に亀裂が発生しており,燃料漏れが懸念されます.
納車整備の際にキャブレータがオーバーホール【overhaul】されていたのだとすれば,
燃料漏れを防止して車両火災を回避する為にも,
少なくともプロフェッショナルとしての立場であれば,
欠落しているOリングを補填し亀裂の多数存在するOリングは新品に交換しておくべきである,
という判断が求められるといえ,それがなされていない現状からいえるのは,
このキャブレータはオーバーホール【overhaul】されていないと判断されても無理もないということです. |
【整備内容】
全体的にゴム部品が劣化していた為,欠落した部分を含めて新品に交換することから行いました.
図5は燃料パイプから欠落及び劣化していたOリングを新品に交換した様子です.
これにより,洗浄したハウジングと合わせて燃料漏れを防ぐことができるようになりました.
図6 新品のOリングが取り付けられたパイロット・スクリュ |
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図6はパイロット・スクリュに新品のOリングを取り付けた様子です.
不具合を発生させていた個所は二重にOリングが使用されていましたが,
どちらも潰れて変形していた為,新品に交換しシール性を確保しました.
図7 オーバーホール【overhaul】の完了したキャブレータ |
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図7は不具合の発生していた個所をすべて整備し,
オーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)の完了したキャブレータの様子です.
フロートやニードル・バルブASSYを含め,発売が1984年ということを考慮し,
当時から使用されていたと判断される部品は新品に交換しました.
やはり古い部品特にフロート等樹脂の部品が絶版でなければ,可能な限り新品に交換しておくことが望ましいといえます.
図8 洗浄したハウジングに取り付けられた新品のパッキン |
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図8はフロート・チャンバ及びパッキンの取り付け溝を点検洗浄し,新品のパッキンを取り付けた様子です.
分解時に燃料漏れは発生していなかったものの,
亀裂の発生具合やゴムの潰れを考慮しパッキンを新品に交換しました.
図9 キャブレータに取り付けられた新品のエアベント・ホース |
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図9は劣化硬化していたエアベント・ホースを新品に交換した様子です.
これにより,フロート室から蒸発したガソリン等が漏れてキャブレータ・ボデーを汚損することなく,
通路の確保されたホースにより,大気圧を十分に室内に導ける様になりました.
図10はオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)の完了したキャブレータを車体に取り付け,
同調やアイドリング等のセッティングを行っている様子です.
最終的に40km程試運転を行い,良好であることを確認して整備を完了しました. |
【考察】
メガスピードで車両をお預かりして各所オーバーホール【overhaul】している間にエンジンが不動になるケースは滅多になく,
もし2カ月お預かりしている間にエンジンがかからなくなるとすれば,
それは初めからかからない,あるいはかかりにくい状態であった可能性が高いといえます.
なぜなら保管開始時にキャブレータの状態が良好であれば,2カ月程度放置しても,エンジンは問題なくかかるからです.
今回の事例ではお預かりしている間にエンジンがかからなくなった為,
キャブレータをオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)した結果,
始動不可能な状態になってもおかしくない状態であることが分かりました.
この車両はお客様が他店から購入されるときにキャブレータのオーバーホールが含まれるという納車条件でしたが,
私が見た限りでは何もしていないといってもおかしくはない状態でした.
概して整備していないのに整備したということで納車するのは過ちです.
やらないのであれば,やらないという契約で売買すべきであり,
それが販売者と購入者の信頼関係ひいては業界全体のモラルや信頼性の向上に寄与します.
今回メガスピードで承った車両は残念ながら他店での納車整備内容に対する結果が不十分であったといえます.
メガスピードには様々な不具合を発生させた車両が持ち込まれます.
それを修理事例としてとりあげていますが,
そこでは他の業者の手抜き作業や,素人が整備した未熟な結果を客観的に説明することが目的ではありません.
不具合の原因を探すことは何よりも大切な項目のひとつですが,
業者が手抜きをした結果や,素人が整備した未熟な箇所は所詮それだけのことであり,
そのことそのものを追及する価値などなく,
問題は発生している不具合をどうすれば修理改善することができるかという1点のみです.
他者の整備不良により不具合につながった場合は必ずその経緯を示していますが,
それは事例の構成上原因を突き止める必要から記載しているものであり,
煎じつめれば,過去に誰がどのような整備をしていようが,もはや関係ないのです.
他者を批判している暇はなく,その意味すらありません.
確かに不具合の原因を突き止め再発防止を図るのは何よりも大切であるのはいうまでもありません.
しかしそれ以上に関心があるのは,いかにして目の前の不具合を修理するかであり,
また他者に追随を許さない自己の知識や整備技術そして信頼性の向上です.
重要なのは,メガスピードでは不具合を整備する技術があり,様々な修理をこなして,
お客様のバイクライフを充実したものにできるよう努力しているということを表現・伝達することであり,
それが明日につながれば良いのです. |
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