ガソリンのオーバーフローに起因するプラグのかぶりによる走行中のエンジン停止について |
【整備車両】
CP50Z (3RY3) ジョグZ 推定年式:1990年 参考走行距離:メーターが別の型式の車両のものに交換されている為不明 |
【不具合の症状】
走行中にエンジンが停止しました。 |
【点検結果】
お客様が走行中にエンジンが停止したということで、修理のご依頼を承りメガスピードに入庫されました。
エンジンが走行中に停止する原因は多数ありますが、
2サイクルエンジンでは焼き付きとプラグのかぶりによるストールが少なくありません。
ですのでまずプラグの状態と焼き付きによるシリンダやピストンの損傷はないかを点検する為に圧縮を測定しました。
図1はシリンダの圧縮を測定した様子です。
数値としては約950kPaと非常に良好な状態であることが確認できました。
これによりエンジン内部は問題ないと判断し、次にプラグの状態を確認しました。
図2は取り外したプラグの様子です。
カーボンが堆積していることと、燃料に混ざっているオイルが焼き切れずに付着していることが確認できます。
これはエンジン停止後にかなり時間が経ってから撮影されたものですが、
エンジン停止直後は全体的にもう少し湿っていたのではないかと推測されます。
プラグそのものは火花が出ていることが確認できたので、点火制御系統には異常がないと仮定しました。
そしてプラグの状態から、エンジンが停止したのはかぶりによる点火不良が原因であると判断しました。
次にプラグのかぶりが発生した原因を探る為にキャブレータを取り外し分解整備しました。
図3は取り外したキャブレータの様子です。
全体的に汚れが付着していて、エアクリーナはパワーフィルターに交換されていました。
この汚れは走行によるもののみならず、ボデー外部に漏れ出した燃料にほこり等が付着したものであると考えられます。
お客様から燃料漏れが発生しているとの症状についての情報を得ていた為、
燃料保持系統に留意して整備を進めました。
オートチョークは単体で点検し、12Vの電源電圧で規定時間内に始動系統のバルブが閉じることを確認しました。
また車体側のカプラからの交流電源は規定電圧がかかっていることを確認し、
エンジン始動後はオートチョークに確実に交流電流が供給していることを確かめました。
これにより、暖機後もチョークが効き続けている為に混合比が濃いままで結果的にプラグをかぶらせ、
エンジン停止に陥ったという原因が除外されました。
図4は燃料タンクとキャブレータ間に設置されていた燃料フィルターの様子です。
黄色の四角Aの部分は亀裂が発生していました。
逆側にも亀裂があり、合計2か所の破損が確認されましたが、燃料漏れは発生していませんでした。
燃料ホースの取り付け口はひび割れしていて、抜け落ちないようにタイラップで留められていました。
フロートチャンバの底部には堆積した汚れが確認され、錆が混入していたことや、
燃料フィルター内部にもかなり錆が堆積していたことから、
使用や経年劣化によりフィルターの性能が低下していたと考えられます。
図5はゴムのシートとの密着部分にわずかな断付き摩耗を起こしたフロートバルブの様子です。
ゴム部の摩耗はわずかであり、これが燃料漏れの原因であると断定することができないものの、
負圧式ダイヤフラム燃料コックがきちんと機能していることや、
フロートチャンバガスケット部からの燃料漏れが確認されなかったこと等を不具合の原因から取り除くと、
消去法の結果としてフロートバルブが残り、且つ実際にわずかに部品の劣化が起きていることから、
これが燃料漏れの原因のひとつであると判断しました。
またそれと同時にフロートチャンバに錆が混入していたので、
バルブとバルブシートの間に錆が挟まった為に燃料漏れを起こしていた可能性も十分に考えられます。 |
【整備内容】
燃料漏れを直す為にフロートバルブを新品に交換し、同時に劣化していたフロートASSYを新品に交換しました。
またフロートバルブシートを点検洗浄し、フロートチャンバガスケットを新品に交換しました。
図6は分解整備の完了したキャブレータの様子です。
ヤマハ経由での純正部品のパイロットジェットはすでに絶版だったので、
KITACO経由で同等のTK P/J #50を取り付けました。
メーンジェットはテスト走行を繰り返し、結果として良好である#85を取り付けました。
図7、新品の燃料ホースに取り付けられた新品の燃料フィルタ |
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図7は新品の燃料フィルタを取り付けた様子です。
燃料タンク内部がかなり錆びていて、錆取りを行うとタンクに穴が空く危険性があったので、
ケミカルを使用せず、性能の低下した古いフィルターを新品に交換することで対応しました。
またそれと同時に燃料ホースや負圧ホース、クリップ等も合わせて新品に交換しました。
入荷時にはホースの抜け止めにタイラップがつけられていましたが、
構造的に絞り切れない部分が発生する場合があるので、
やはり可能であれば、全体を絞るクリップを取り付けておく方が良いといえます。
図8、車体に取り付けられた整備の完了したキャブレータ |
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図8は分解整備の完了したキャブレータを車体に組み付けた様子です。
燃料系統に合わせてオイル系統も点検整備し、ホース類は劣化して硬化していたので新品に交換しました。
図9、試運転後に確認した正常な焼け具合のスパークプラグ |
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図9はキャブレータのセッティングを詰めて、最終的に試運転した後に取り外したプラグの様子です。
全体的にほぼ理想的に焼けており、かぶりの気配や症状は解消し、調子良く走行できるようになりました。
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【考察】
エンジンが停止する原因は様々なものがあります。
そのなかでも、プラグのかぶりによるエンジン停止は原因として少なくありません。
この事例ではお客様が走行中にエンジンが停止し、その後は再始動不可能ということでしたが、
それはプラグに堆積したカーボンやオイルの燃え残りによるかぶりの状態が継続していたからではないかと考えられます。
特にこの事例の様なイリジウムはサンドブラストによる清掃ができず、
パーツクリーナを使用した洗浄程度では性能が回復せずに再使用ができない場合があります。
イリジウムはかぶりにくい構造になっていますが、一度かぶらせてしまった場合は、
電極部分は強い外力で洗浄することができず、再使用不能になる場合が少なくありません。
ですので、プラグのかぶる原因を取り除かない限り、
新品に交換しても再度プラグがかぶるといった同じことを繰り返す可能性が高いので、
修理により症状が改善するまではブラストによる洗浄が可能な標準プラグで様子を見た方が経済的であるといえます。
またこの事例の車両の様にエンジンが単気筒の場合は動力発生源がひとつしかない為、
それが機能しなくなると即座に走行不能になり、
目的地にたどり着けない、あるいは出先から帰れないといったことに直接的につながります。
したがって、可能な限りプラグのかぶりの発生原因を突き止め、早急に再発防止を図る必要があります。
今回の事例のかぶりの原因になったのは、
点検結果から燃料のオーバーフローに起因する混合比が濃くなった結果であると考えられます。
エンジンの圧縮や点火状況の点検、オートチョークの点検やキャブレータの分解を行い、
燃料漏れ以外は大きな不具合が発見されなかったことも裏付けとなっています。
そして燃料漏れがフロートバルブとバルブシート廻りに起因する場合、
瞬間的あるいは継続的に油面が高くなり、
混合比が濃くなってプラグをかぶらせると推測できます。
やはり燃料漏れは、混合比の適正化のみならず、車両火災を発生させない為にも、
発見した場合はいち早く修理して不具合を改善する必要があるといえます。 |
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