フロートバルブの劣化による当たり面の変形等が引き起こしたガソリン漏れについて |
【整備車両】
NSR250RG (MC16) 推定年式:1987年 参考走行距離:6,800km |
【不具合の症状】
燃料コックをONにした途端に2番シリンダキャブレータのオーバーフロー経路からガソリンが流出していました。 |
【点検結果】
燃料コックをONにした途端にかなりの勢いでキャブレータのオーバーフロー経路からガソリンが流れ出しました。
燃料コックOFFの状態ではオーバーフローが起きなかったので、燃料コックは機能し、
キャブレータ内部のフロートバルブに異常があると判断しました。
図1はフロートチャンバを取り外し、キャブレータ内部の状態を点検している様子です。
図1 、劣化したガソリンの堆積で内部通路のふさがれたキャブレータ |
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オーバーフローしていたのは画像右側のキャブレータです。
黄色い四角で囲んだA及びBはそれぞれ腐敗したガソリンで通路のふさがれたスロージェットとメーンジェットです。
調整油面は規定値より少なく、フロートがキャブレータボデー側にわずかに沈んでいる状態でした。
図2は燃料漏れを起こしていた2番シリンダキャブレータのフロートバルブの様子です。
まずバルブのゴムの部分がバルブ本体からめくれ上がり浮いてしまっていることが分かります。
これはバルブをシートに押し付ける機能の低下を引き起こす原因になります。
図2、シートとの接触部に異物が堆積し、さらにめくれ上がり変形しているフロートバルブ |
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またそれによりゴムが変形して三角錐が歪んでいることが分かります。
さらに、歪んだバルブに劣化したガソリンの固形物が堆積し、
バルブとバルブシートにかなりのすき間を生じさせていることが分かります。
これらのことから、ガソリンが漏れたのはバルブの密着性能が低下したことが原因だと考えることができます。 |
【整備内容】
図3は新品のフロートバルブの様子です。
バルブがシートと密着するゴム部分は新品の状態では図の様に変形のない円錐を保っています。
図4は新品のバルブを取り付け、新品のフロートを取り付けた様子です。
取り外したフロートは点検の結果正常に機能していることを確認しましたが、
フロートの樹脂部分が劣化していたので、バルブと合わせて新品に交換しました。
図5、燃料タンクとキャブレータ間に取り付けられたガソリンフィルター |
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図5は燃料タンクとキャブレータ間にガソリンフィルターを取り付けた様子です。
この事例のオーバーフローの原因はフロートバルブのシートとの密着部分の著しい変形ですが、
燃料タンクからの錆を取り除く為にガソリンフィルターを取り付けました。
一番理想的なのはガソリンタンクの錆を完全に除去することですが、
錆の発生しているガソリンタンクを点検すると、すでに過去に錆取りが行われた形跡があったので、
この事例では過度の錆取りによるタンクの穴あきを避ける為、
タンク内のフィルターの状態が良いことも考慮し、
ガソリンタンクの追加的な錆取りをせずガソリンフィルターで対応しました。
そして燃料のオーバーフローが解消し、
フィルターを取り付けたことによる燃料の流量の低下による燃料不足が発生せず、
エンジンの走行性能に問題がないことを確認して整備を完了しました。 |
【考察】
この事例では、燃料コックをONにした瞬間にキャブレータのオーバーフロー経路から、
水道の蛇口からホースで放水したようにガソリンが流出していました。
流量から、完全にフロートバルブに不具合があると推測できましたが、
実際に開けて確認してみると、やはりバルブシートと接触しシールするゴム部がめくれていて、
かなり肉が減っている上に異物が堆積していました。
ゴムの変形でシートとの密着が損なわれている状態で、
更に異物の堆積によりシートとのすき間ができてそこからガソリンが止めどなくフロート室に流れ込み、
外部に流出していたものと考えられます。
いずれにしろ、長期間車両を使用しない場合は、
キャブレータ内部の燃料を抜いて保管した方が良い場合があります。
しかし、ガソリンタンクは燃料が入っていないと空気中の水分等で内部に錆が発生し、
その錆が燃料系統に流れ込み、フロートバルブとバルブシートの間に挟まり、燃料漏れを発生させる可能性があります。
やはり車両を使用せずに長期間保管する場合は、
各所機能が低下しないように、それぞれの要求に合致した対応をしておく必要があります。 |
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