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キャブレータからのガソリン漏れによる極端な燃費の悪化について


【整備車両】

GB250 (MC10) GB250クラブマン 年式不明  メーター交換歴があるため現在表示の3,100kmプラスα


【不具合の状態】

燃費が極端に悪化し、通常の半分程度の距離しか走らなくなっていました。


【点検結果】

急に燃費が極端に悪化し、リッターあたり以前と比べて半分の距離しか走らなくなったということで、

メガスピードに入庫してきました。

まず燃料系統を点検すると、キャブレータボデー外側、パイロットスクリュ、燃料ホース等から燃料が漏れていました。

次にガソリンタンクからは燃料漏れがないことを確認しました。



図1は燃料漏れの発生しているキャブレータ外観です。

フロートチャンバとキャブレータボデーの合わせ面からガソリンがにじみ出て、

ボデー全体に伝わり、茶褐色になっているのが分かります。


図1 、キャブレータ外側に漏れ出しているガソリン

図のAは燃料ホースの付け根からガソリンが漏れ、ホース外側を伝わって落下している様子です。

本来あるべき燃料ホースとキャブレータの付け根にあるクリップが取り付けられていませんでした。

図のBはパイロットスクリュの中からガソリンが漏れて落下している様子です。

図のCはオーバーフローホースとドレンボルトですが、この部分からもガソリンが漏れています。

燃料コックをOFFにした状態ではガソリン漏れが止まり、ONの状態で漏れるので、

燃料コックは正常に機能し、フロートバルブに問題があるものと判断できます。

エンジンをかけずにコックをONにしておくと、数分に一滴ポタポタ落下するくらい燃料が漏れていました。

チャンバとボデーの合わせ面からガソリンがにじみ出ているのは、合わせ面の損傷、

ガスケットの劣化、潰れ等が考えられます。


【整備内容】

図2はフロートチャンバとボデーの合わせ面を研磨し、金属面の凹凸を可能な限り平滑に仕上げた様子です。



図2、フロートチャンバとの合わせ面を修正研磨したキャブレータボデー

キャブレータを分解したところ、チャンバとボデーの合わせ面のガスケットがほぼ完全に潰れていて、

まったく張りがなく、シール機能が低下していました。

またフロートチャンバの合わせ面が荒れていたので、可能な限り平らに研磨しました。

同時にフロートバルブを交換し、パイロットスクリュのOリングも新品に交換しました。

燃料ホースとキャブレータとの付け根は欠損していたクリップを取り付けました。




図3、分解整備を完了し、燃料漏れの解消したキャブレータ外観

図3は点検整備を完了し、車体に取り付け試運転を行ったキャブレータの様子です。

キャブレータボデー外観も可能な限り洗浄したので、

図1のガソリンにまみれた茶褐色から本来のアルミ合金の色に戻っていることが分かります。

フロートチャンバとキャブレータボデーの合わせ面や燃料ホースの付け根、

パイロットスクリュ等からの燃料漏れがないことを確認し、整備を完了しました。


【考察】

バイクは消耗品の塊なので、使用にともない若干の燃費の悪化は避けられません。

しかし急にリッターあたりの走行距離が半分になることはありません。

もしそのようになった場合は、ガソリンが盗まれていなければ、燃料系統から漏れ出していることが大半です。

ガソリンは漏れて落下するとすぐに気化し、

落下した場所が地面であると漏れた形跡がなくなってしまうことが少なくありません。

目で見て分からない為にガソリンには強いにおいがつけられています。

しかし風通しの良い外での保管の場合は、ガソリン漏れによるにおいの拡散に対して空気の流れが多く、

においを察知する前に消えてしまう場合があります。

また普段は日常の足として使用されている場合は、不具合なく動くことが当たり前と思いこみ、

乗る前に毎回キャブレータの燃料漏れの点検している場合は多くありません。

ですので、その様な使用条件において著しく燃費が悪化した場合は、

燃料が外部に漏れ出していないかを詳しく見ておく必要があります。



燃料コックが負圧式でないものは、燃料コックをONのままで保管しておくと、

キャブレータ内部のフロートバルブと燃料コックの不具合が同時に発生した場合、

一晩でガソリンがすべて外部に漏れ出したり、あるいはエンジンシリンダの中に流れ込み、

いわゆるウォータハンマ現象を引き起こし、クランキングできなくなる場合があります。

やはり一晩以上車両を使用しない場合は、負圧式でない燃料コックは、OFFにしておくことが大切だといえます。



この車両はお客様が購入された店ではカスタムと称され、

フレームはL型、エンジンはV型、キャブレータはH型に交換されていました。

何かの目的で意図的にそうなったのか、あるいは部品の寄せ集めで一台作ったのかはわかりません。

しかし、3つの型式の部品が使用されているので、少なくとも3台は車両がないと成立しません。

キャブレータとエンジンはフレームとは別の型式の新品または中古を取り寄せ、

取り付けられたのかもしれません。

しかしあえてフレームとは別の型式のエンジンやキャブレータを取り付けるには、

それ相応のメリットがなければなりません。

例えばエンジンは規制前の高馬力のものに載せ替えたいという希望があったり、

あるいは市場の要望でそのようにされていることの多い車両であれば、

その意味においてエンジンが換装されていても説明がつきます。

しかし、この事例ではフレームもエンジンもキャブレータもすべてばらばらの型になっているので、

性能的観点による換装というよりはむしろ、

二個一あるいは、三個一の寄せ集めで作られた車両である可能性を排除しない方が自然であるといえます。

いずれにしろこの様な車両の場合はいじくられた経緯が分かっていないと、

第三者にとっては部品注文が非常に難しくなることが少なくありません。



整備技術者は、担当する車両がどのような経緯で現在にいたっているかを推測し、

それに適した整備をしなければなりません。

それが例え二個一あるいは三個一で作られた車両であっても同じです。

この事例の車両はホンダの製品だったので、フレーム番号やエンジン番号、キャブレータ型式が、

パーツリストに記載されているのでそれぞれを特定することができました。

キャブレータはVE17A【A】が取り付けられていたので、H型と判断し、その部品を注文し整備を行いました。

しかし、フレーム番号しか判断する材料のない車両では、型を特定できず、部品も絞り込めない場合が少なくありません。

この車両もフレームとエンジン、キャブレータがそれぞれ違う型なので、

そのままフレーム番号から部品を注文すれば誤ったものが入荷していたことになります。

どうしてもフレーム番号から部品を注文しなければならないケースでは誤った注文をしてしまう危険性があります。

カスタムと称して部品を別の型式や他の車種と交換するのは、それはそれで楽しみのひとつといえるかもしれません。

必要にせまられて行う場合もあるでしょう。

しかし、正確に部品注文するにはその部位が何の型かを特定することができなければなりません。

やはり大幅な部品交換、部分交換する場合は、何を取り付けたのか、必ず記録しておくことが必要であるといえます。





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