事例:E‐16
キャブレータ内部通路の凝固したガソリンの詰まりによるエンジン始動不可について |
【整備車両】
NCZ50B (AB12) モトコンポ 1981年式 標準でオドメーターがない為、走行距離は不明
【不具合の状態】
エンジンが始動しない状態で、且つガソリンがキャブレータから漏れていました。
【点検結果】
エンジンが始動しない状態で入庫されたので、エンジン稼働に必要な3大要素である『良い火花』、『良い混合気』、『良い圧縮』を点検しました。圧縮、火花ともに問題ないことを確認し、最後に『良い混合気』を点検しました。燃料コックをONにすると、キャブレータからガソリンがオーバーフローする状態でした。このことから燃料コックからキャブレータ内部にはガソリンが供給されていることが分かります。また、燃料コックをOFFにするとキャブレータからのオーバーフローがなくなることから、コックは燃料を止める機能を維持していること及びフロートバルブに不具合があることが推測されます。その状態で30回程度キックによる始動を試みましたが、まったくエンジンのかかる気配が感じられない為、キャブレータを分解点検しました。
図1.1 劣化したガソリンの堆積で内部通路のふさがれたキャブレータ |
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図1.1 はキャブレータを分解した様子です。フロートチャンバを開けてみると、図1の様にチャンバ底部にはガソリンの塊が、ボデー内部の通路には粘着、固形化したガソリンがメインジェットをはじめほとんどの通路をふさいでいました。またフロートバルブの内部スプリングも完全に固着していて、これが燃料漏れにつながっていたと考えられます。
【整備内容】
図2.1 はキャブレータボデー及びフロートチャンバを洗浄した様子です。 PA12A[A]型のキャブレータはメインジェットがキャブレータボデーと一体型になっていて、ジェットを単体で取り出して整備することが不可能です。腐ったガソリンとオイルの混合物等の堆積物で内部は著しく悪い状態でしたが、専用の機器により図2の様に完全に清掃洗浄し、その機能を取り戻しました。
またこの型式のキャブレータはフロートバルブシートがキャブレータボデーに圧入されていて交換できない構造ですが、シートの状態は比較的良好だったので、固着していたバルブのみ新品に交換し、燃料漏れを解消することができました。その後組み立て、組み付け、エンジン始動、試運転を行い整備を完了しました。
【考察】
この事例ではキャブレータを開ける前から腐ったガソリンの甘い臭いが漂っていたことから、キャブレータ内部の状態が悪いことは推測できました。実際に開けてみるとやはり通路がすべてふさがれていて、かなり悪い状態であることが確認できました。これではどんなにキックしてもエンジンを始動することはできません。この様な状態になるまでにはどのくらいの年月がかかるかは分かりませんが、車両を使用する予定がなくなったり、エンジンをかけずに長期間保管する場合は、キャブレータ内部の燃料を抜いておいた方が良い場合があることを示しているといえます。特に2サイクルエンジンでキャブレータにオイルホースが連結されている構造の場合は、キャブレータ内部にガソリンとオイルの混合物が堆積し易くなっていることから、定期的な点検整備が必要であるといえます。 |
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