【整備車両】
RG400EW (HK31A) RG400Γ(ガンマ) Ⅰ型 1985年式 走行距離:約24,000km |
【不具合の症状】
3番シリンダキャブレータのメーンエアジェットハウジング上部に亀裂が入っていました。 |
【点検結果】
キャブレータの分解整備、精密検査(オーバーホール)を実施した際に、
3番キャブレータのメーンエアジェットハウジング上部に亀裂が入っているのを発見しました。
図1 、亀裂の入っているメーンエアジェットハウジング |
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図1の黄色い四角で囲んだ部分が亀裂の入ったメーンエアジェットハウジングです。
メーンエアジェットはハウジングに埋め込まれる形で取り付けられています。
この部分は外部から直接触れることはほとんどなく、また力のかかる箇所でもないので、
亀裂がどの様にして発生したのかを特定することは困難です。
亀裂が入ることにより、まずメーンエア系統にジェットで規制されないエアが吸い込まれる恐れがあります。
外的な力で亀裂を大きくしない限りはメーンエアジェットが脱落したり、
位置がずれることはほとんどないと考えられます。
しかし亀裂が存在する限りは、それがエアの吸い込み口になり、
空燃比を崩し、燃焼不良、エンジン不調の原因になる可能性があるので、可能な限り対処する必要があります。 |
【整備内容】
図2は点検清掃した良質の中古メーンエアジェットハウジングの様子です。
亀裂部の素材は鋳造アルミ合金なので、修理の方法としてはアルミ合金用のパテ埋め等も選択肢に入りますが、
亀裂が吹き返した混合気に常にさらされる位置にあるので、
この事例ではメーンエアジェットハウジングを含めたスロットルバルブガイドを一式、
状態の良い中古部品に交換することにしました。
図2、状態の良い中古のメーンエアジェットハウジング |
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図3はスロットルバルブガイドとキャブレータ本体、そしてその合わせ面の新品のガスケットの様子です。
図3 、スロットルバルブガイドとキャブレータ本体、その合わせ面のガスケット |
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通常スロットルバルブガイドはいじり防止用TORX® T20 M4×P0,7×12のねじで留められていて、
TORX®ねじも内部の合わせ面のガスケットも、メーカーから純正部品の部品供給はありません。
しかし、メガスピードではこの部分の新品の耐ガソリン性ガスケット及びTORX®のねじを常時在庫しているので、
分解整備しても組み立てる時に確実にシーリングすることができます。
スロットルバルブガイドには、メーンエアジェットの他に、スローエア系統、始動系統のエア通路があります。
そしてスロットルバルブ側面をキャブレータボデーにガイドする役目もあります。
つまりこの部分のガスケットは外部からのエアの吸い込みを阻止する重要な役割を果たしているといえます。
図4は新品の耐ガソリン性ガスケットをスロットルバルブガイドに取り付けた様子です。
図4 、スロットルバルブガイドに取り付けた新品のガスケット |
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メーンエアジェットの通路の状態や貫通の確認をはじめ、スロースクリュで規制されるスロー系統へのエアの通路、
始動系統へのエアの通路等をすべて点検し、本体に組み付けました。
図5 、新品のステンレスTORX®ねじ(左)と取り外した鉄製の古いTORX®ねじ |
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図5は新品のTORX® T20 M4×P0,7×12のねじ(画像左)とキャブレータに取り付けられていた古いねじの様子です。
古いねじはおそらく1985年に製造された新車の時に取り付けられたものだと考えられます。
古いねじのスプリングワッシャは長年とりつけられていたことにより、
新品に比べて潰れて張りがなくなっているのが分かります。
このTORX®ねじとスプリングワッシャのASSYは純正部品での供給はありませんが、
やはり張りがなくなっている場合はシーリング性能が低下しているので新品に交換しておくことが望ましいといえます。
純正のキャブレータに取り付けられているTORX®ねじは鉄製なので経年により錆びていることが少なくありません。
メガスピードでは錆に強いステンレスのTORX®を選定し常時在庫としています。
スロットルバルブガイドを取り外して整備する機会は多くないので、
分解整備、精密検査(オーバーホール)を行う場合は、やはり長期の使用を考えてステンレスを選定しています。
メーカーが意図してTORX®で指定しているものはTORX®で対応することが基本といえます。
図6 、スロットルバルブガイドをキャブレータボデーに取り付けた様子 |
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図6はTORX®ねじをステンレス製の新品に交換し、
点検清掃の完了したスロットルバルブガイドをキャブレータボデーに取り付けた様子です。
黄色い矢印で示しているクリーム色の部分がスロットルバルブガイドと
キャブレータボデーとの合わせ面をシーリングしているガスケットです。 |
【考察】
メーンエアジェットハウジングに亀裂が入るケースは多くありません。
年式が古い車両では金属そのものが疲労してくる場合がありますが、
この事例の亀裂の部分は力のかかるところではなく、
また通常はエアクリーナパイプで覆われているので外部に剥き出しにされていることもありません。
ですのでどのように亀裂が入ったのかは推測することが難しいといえます。
しかし実際に亀裂が入っている状態を発見したからには、仮に現時点で不具合が発生していなくても、
近い将来その原因になる可能性があるので、何らかのかたちで対応する必要があります。
メガスピードでは分解整備したRG400Γ(ガンマ)の純正中古のキャブレータを常時在庫していますが、
今回はキャブレータの分解整備、精密検査(オーバーホール)のご依頼を承る際に、
お客様から車両とは別にお手持ちの中古キャブレータを4気筒分一式預けていただいたので、
状態の良いメーンエアジェットハウジングをそこから調達しました。
この部分のガスケットはパーツリストではキャブレータASSYの扱いになっているので、
通常単品で入手することは難しいといえます。
その様な部品が必要な箇所は、ガスケット等の部品を再使用するか、
あるいは不具合があるものをASSYで交換してしまう方法になってしまいがちですが(この事例ではキャブレータASSY交換)、
やはりガスケットの様に潰して使用するものは、何年も使用したものであれば潰れていて張りがなくなっています。
その場合、再使用すれば漏れが発生する可能性があり、ガスケットそのものも劣化して変色し、
合わせ面よりもむしろガスケットから漏れやにじみが発生します。
この事例でいえば、ガスケットの位置は吹き返した混合気等に常にさらされているので、
キャブレータボデーやTORX®ねじの周囲にガソリンがにじんできます。
また、TORX®ねじのように通常の純正部品での供給がないものでも、
スプリングワッシャ-が潰れているものを再使用する場合はシーリング性能が低下してしまいます。
やはり手を入れた場合は可能な限り新品に交換しておくことが望ましいといえます。
図7は参考までに取り外した古いガスケットを拡大した様子です。
図7、締め付け跡の刻まれている取り外した古いガスケット |
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吹き返した混合気や吸入ガソリン、オイル、ほこり等で変色し、張りがなくなっているのが分かります。
また、キャブレータの凸部との合わせ面は締め付けた跡がついています。
厳密にいえば再使用する場合に、締め付け跡がずれれば、それにより生じたすき間からエアを吸い込んだり、
吹き返した混合気が外部に漏れ出す可能性があります。
また、完全に締め付け跡を一致させても、張りがなくなったガスケットは、
やはりエアの吸い込みや漏れを起こす可能性があります。
これは純正で部品供給のないものなので、取り外したもののほとんどすべてが発売当時に組み付けられたものです。
使用や経年により劣化するので、もしTORX®ねじを取り外し、
スロットルバルブガイドをキャブレータボデーから取り外すときは可能な限り交換しておくことが求められます。
特に古い車両の場合、一度分解した箇所の古いガスケットは原則として新品に交換しておくことが望ましいといえます。
メガスピードではRG400Γ(ガンマ)のキャブレータ分解整備、精密検査(オーバーホール)に対応すべく、
常時この部分の新品のガスケット及びTORX®ねじを在庫しているので、
一歩踏み込んだ内容まで点検整備することが可能になっています。 |
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